一話 異種族の友
大陸の中央を走る巨大なヴァロータ山脈。そこを根城にしている魔王がいた。
魔王の名は、アグノス・ヴィノ・プロトス。
この世界でも一、二を争うほど力の強い魔王だ。
しかし、彼は力で支配するのではなく、商売で他の種族と交流するという、なんとも変わった魔族だった。山脈で掘れる鉱石や城で栽培している野菜を売り、人間に見放された人間を助けてもいる。
変わり者ではあったが、他の種族からは慕われていた。
彼は滅多に怒ることがなく、無邪気で常に好奇心旺盛。初めて城に訪れる者にも満面の笑みで接する。
顔も整っていて、すらりとした背丈に、褐色の肌とすっと切れ長な赤い眼。様々な種族の女性達が、魔王のハートを射止めようとするも、失敗していた。
魔王のお眼鏡に叶う女性が、いつ現れるのか。それは、各種族の井戸端会議の話題に上っていた。
そんな彼につい最近、美しい彼女ができたという。
それは瞬く間に様々な種族に広まった。
ドワーフ族の住むバルドーの王、ギデオン・アヌ・クロームも例外ではなった。
「そりゃあ、盛大に祝ってやんねぇと! なんせ、俺らドワーフ族のお得意様で、俺の心の友だからなぁ!」
ギデオンは、最近手に入れたワインを友人の空いたグラスに注ぎながら、ガハハハッと豪快に笑った。
「あっ、これも心の友、ヴァロータ山脈の王からだ。なんでも嫁さんが好きなんだとよ」
「まだ付き合ったってだけだろう? ったく、下世話な話が好きだなぁ、君は」
ギデオンの友であるエルンスト・フェローラルは、大きな溜息を吐きながらも、そっとワインに口を付ける。
「うん、良いワインだ。舌触りと香りも申し分ない」
「相変わらず、酒には五月蠅いなぁ」
「このような最高のワインがお好きということは、さぞ位の高い魔族の姫なのだろうな」
豪快なギデオンとは真逆で、エルンストのその一連の動作は、気品に溢れていた。
それもそのはずで、エルンストはかつて高貴なエルフの一族だったのだ。この世の者と思えないほど美しい顔と、尖った耳が、彼の種族を主張していた。魔王と並び、お相手に選ばれたいと思う女性は山ほどいた。
だが、エルンストの一族は権力争いに負け、今や敗北者という意味の姓を名乗る身分だ。
そんな身分を、エルンストは気にすることはなかった。自由気ままな今を失いたくない。各所で迫ってくる女性達の熱い想いをのらりくらいと断って、独り満喫しているのだった。
「それがよ、人間の女傭兵らしい」
「は?」
友が言った言葉に、エルンストは、大好きなワインを零しそうになった。
「驚きだよな? 散々綺麗な女を見てきてるだろうによ。まあ、おかげでこっちも少しチャンスがあるってもんだ」
ギデオンがニヤッと笑った。
どうやらこのドワーフの王は、単純に心の友の幸せを祝いに行きたいだけではないらしい。
彼にもまた、想い人がいるのだ。
エルンストは、また小さく溜息を吐いた。
「本当に下世話なドワーフだよ、君は」
「おめぇさんは、下世話下世話って言うが、恋はどんな種族にも大事だぜ、エルフの敗北者さんよ」
「好きに言い給え。私は結構気に入っているのだ、敗北者という姓も、独り生きていくことも」
「あぁそうかい」
ギデオンは肩を竦めて、またエルンストの空いたグラスにワインを注いだ。
ドワーフとエルフ。
一見すると交流がなさそうな種族だが、これもアグノスが繋いだ縁だった。
どちらもヴァロータ山脈の城に出入りをする内に、いつしか酒を酌み交わす仲となった。
ギデオンが、ニヤッと笑う。
「明日、ヴァロータに一緒に行くだろう? 敗北者さんよ」
自身をよく知る友の言葉に、エルンストはワインを飲むことで応えた。
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