三十九話 友人の正体2
「マリアの言った通りだ。俺は、エイクル家の一人娘、フランス様直々に雇われた身でな。ギタの町の『魔の契約』の真相を探っていたんだ」
「フランスって、……フランシス・エメ・ロレーヌ・エイクルのこと?」
「ああ、そうだよ」
「今の領主じゃない!」
ギタの町やヴァロータ山脈があるエインクル地区の領主、フランシス・エメ・ロレーヌ・エイクルは、若くしてその地位を引き継いだ少女だ。
マリアが驚くと同時に、アグノスがポンッと掌を拳で打った。
「あっ! あの時、宿屋の親父に見せてたのは、領主のサインが入った書類かぁ」
「そうそう」
「アグノス、知ってたの? この男の正体……」
「いんや、今知った」
「アグノスにも今話した」
「……あんた達、それでよく今まで一緒にいたわね……」
呆れるマリアに、アグノスは少し肩を竦める。
「生贄にされた女達を逃がしてくれたらそれで良かったし」
それに、とアグノスは続ける。
「わざわざ魔王の城に来て、商売がしたいなんて命知らず、他にいなかったから、面白くてさ」
「好奇心旺盛な魔王様で助かりました」
クレメントが再び慇懃にお辞儀をすれば、アグノスはフンッと笑った。
「俺が本当に人間を喰らうような魔物だったら、どうするつもりだったんだ?」
「そん時はそん時だってね。まあ、俺はここの魔王はめっちゃ良い奴って信じてたけど」
「ほんとかよ?」
「俺の人を見る目を侮る勿れ」
「俺、人じゃねぇし」
不敵に笑うクレメントを、アグノスは「あぁ、はいはい」と苦笑していた。
(なぁんか……ちょっと悔しいかも)
二人の間に流れる空気は、マリアにも入り込めない時間と信頼があるようだった。
マリアの視線に、クレメントは笑みを控え、咳払いをした。
「早い話が、俺は領主様の工作員。ギタの町付近で盗賊達が暴れている情報を、領主はずっと気にかけていてな。何度も町長のメルクーリに討伐の命を出していたんだが、治まる気配が一向にない。それどころか、酷くなる一方とあって、俺が調査をすることになった」
それから、クレメントは『魔の契約』のことを知り、アグノスの城に商人として単身乗り込んだと言う。
「生贄に選ばれた女性達のことは、アグノス達が匿ってくれていたが、元凶がなかなか尻尾を出してくれなくて、手を拱いていたところに、君が登場したってわけ」
クレメントは、マリアを見た。
「あたし?」
「そう。メルクーリが君を最終手段として選んでくれて助かったよ。俺は本当に運が良い」
「その間に、何人犠牲を出したんだ? リリィの前でも、それが言えんのかよ……?」
「あ……すまない」
アグノスの静かな声に、今まで飄々としていたクレメントが肩を落とす。
「証拠を押さえるために、元凶のメルクーリを泳がせてしまった。リリィの家族も、そんな中、犠牲に……他の女性達もそうだ。これは、俺のミスだよ。申し訳ない」
「……いや、俺もそこを考えなかった。考えないようにしてたんだ」
「アグノス……」
「俺らが目を背けていたことを、マリアは一人で立ち向かったんだな」
アグノスとクレメントが、マリアを見た。
「えっ? あ、あたしは何もしてないわよ」
クレメントは、首を横に振る。
「いいや。君がギタの町に来たのは、何かの思し召しだったのかもしれない」
「たっ、たまたまよ!」
「俺は、あの時ギタの町に、あの宿屋にいたんだ」
「あの宿屋?」
「君が、メルクーリから依頼を受けていた宿屋だ」
「えっ⁉」
あの時、奥の席に一人――
「あれ、あなただったの⁉」
「女神だと思ったよ、俺も」
「も?」
クレメントが魔王へと視線を向けると、恥ずかしそうな赤い瞳がさっと伏せられた。
それに、クレメントは苦笑する。
「あともう一人、ずっと君を女神だって騒いでる女性がいてさ」
「女性?」
「領主の――フランシス様もさ」
「はぁ?」
クレメントは、愉快そうにマリアとアグノスを交互に見た。
「君らをフランシス様の前に連れて行くまでが、俺の任務」
この言葉に、今度はマリアとアグノスは顔を見合わせ――
「はい?」
間の抜けた声を出したのだった。
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