三十九話 友人の正体1
ギタの町から離れてしばらくすると、陽が山間から顔を出した。
と同時に、背後から感じる気配に向け、マリアは剣を抜く。
「ッ!」
「おわッ⁉」
切っ先は、気配の主の鼻先で止まった。
「ちょっと! マリア! 危ないだろ!」
「ちゃんと寸止めしたでしょ」
マリアはニッと笑って、剣を納めた。
気配の主であるアグノスは、「はぁ」と大きく溜息を吐き、苦笑する。
「元気になって良かった」
「そんな顔に見えないけど?」
アグノスの頬にマリアが手を当てると、彼の大きな掌が重なった。
「また……君を危険な目に遭わせた……」
苦笑が徐々に痛みを湛えた表情になり、赤い瞳が揺れていた。
それでも、マリアは穏やかな気持ちだった。
地下牢の時もそうだったが、彼の純粋な気持ちが支えだった。
「ちゃんと助けに来てくれたじゃない。だから、そんな顔しないで」
揺れる赤い瞳と合う。
「マリア」
聞き慣れてしまった、とても心地良い低い声が自身呼ぶことに、マリアは安堵した。
弱っている時に、真っ先に思い浮かんだ人物。
赤い髪と赤い瞳。
(好きだった人は、青い瞳をしていたはずなのに)
引き籠りらしく真っ白な肌をした綺麗な顔立ちよりも、同じ血を引きながらも健康的に焼けた肌が、懐かしくも、温かく思う。
そっと顎に彼の指先が振れた。
(あ……)
ゆっくりと近付いてくる端正な顔立ち。
(ま、いっか)
マリアもそっと目を閉じて――
「ごほんッ」
「あっ……」
アグノスとふたりして咳払いの聞こえた方を見れば、クレメントが覚めた目をしていた。
「あ、クレメント……! えっと、忘れてたわけじゃないから!」
「それはよかった。ここでずっと君らのイチャイチャを見せられるかと思ったよ」
「あッ、あなたは誰なの⁉」
マリアが声を上げると、クレメントは慇懃に礼をする。
「こうしてちゃんとお話しするのははじめてですね、魔王のお姫様」
「そういえば、前にもお姫……」
「ちょっ! クレメント!」
慌てるアグノスをクレメントは見もしない。
「わたくしは、クレメント・ボハーチュと申します」
「ボハーチュ……もしかして、あなた……領主に雇われている?」
「え?」
マリアの青とアグノスの赤の瞳が、クレメントを見据えた。
クレメントの方は、諦めたように小さく息を吐く。
「さすが、世界を旅しているお姫様だ」
「そのお姫様はやめて」
「じゃあ、なんて呼べば?」
「マリアでいい」
マリアの棘のある声音にも、クレメントは「うぅん」と言いながらも頷く。
本当にこの男は聞いているのだろうか、とマリアは目を眇めた。
「分かった分かった。そんなに睨まないでくれ、マリア」
「……いいわ。じゃあ、ちゃんと話して。あなたは、一体何者?」
渋々許せば、また軽い頷きが返ってくると思っていたマリアだったが、クレメントの目は意外にも真剣だった。
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