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三十二話 最後の生贄2

「私の責任です。私が彼女に魔王退治を依頼しなければ……彼女がこんなことになることはなかった……」


(ええ! そうですよ!)


 聴覚以外の感覚は、ほぼ封じられている。動作もやっと歩けて、どうにか立っている状態だ。

 この枷が外されたら、この男をぶっ飛ばす。

 マリアは、疲弊した心身を怒りで奮い立たせた。


 しかし、本当に――


(助けに来てくれるの? アグノス)


 そこまで思い、マリアは自身のそれを否定した。


(駄目よ。アグノスの方が危険なのに……今までだって、こういう時は一人でどうにかしてきたじゃない)


「ですが、彼女をこのままこの町に――いや、この世界に放つことはできません」

「え……?」


 自身の心の声との葛藤は、メルクーリのその言葉で掻き消された。


「マリア・オルティースに死刑を」

「……へ?」


 いつの間にか、両脇に屈強な男がいた。彼らはマリアの腕を掴み、階段へと足を向ける。


「ちょっ……やめ……」


 声が上手く出ない。体にも力が入らない。


「やっ……」


 男達はこの町の憲兵でも兵士でもないような雰囲気だ。マリアの腕を掴む手は、まるで品定めをしているかのように何度も意味もなく掴み直す。


「もったいねぇな」


(気持ち悪ッ!)


 一人の男がポツリと呟いたそれに、マリアは嫌悪感を露わにした。

 男がそれに気付き、剣の柄に手を掛けた。


「なんだ? その目は? ここでぶった切ってやっても……ぐへぇ⁉」


 マリアを睨み付けていた表情は、面白いくらいに変形し、その体ごとどこかへと吹っ飛んで行った。


「え?」

「なんッ……ぐぎゃ⁉」


 マリアを拘束していたもう一人も大きな拳で地面に叩き付けられ、ぴくりともしなくなった。


「え……?」


 熱風が辺りをさぁっと駆け抜ける。

 やっと顔を上げれば、フードから覗く赤い瞳と目が合った。それは、怒りに燃えていた。

 が、ふっと力が抜けたマリアを彼は優しく抱き止める。


(あ……いつもの、彼だ)


 抑え込んでいる苛烈な火が今にも噴き出しそうな体だが、身を任せると、マリアはその変わらない温もりにホッとしてしまった。


「ア……ス、……」


 漸くそれだけ言ったマリアの意識は、すぅっと遠くなっていった。

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