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三十二話 最後の生贄1

 朝が苦手だ。

 自身の醜さが、照らされているような気分になる。

 今は特に。


「せめて、服くらい着替えさせてくれてもいいじゃない」


 マリアは、青い目を細めて地下牢から出た。もちろん、手枷は嵌められたままだ。

 ヴァレッドには、『こんな時までよく寝る図太い女だ』と呆れられた。

 しかし、仕方がない。

 手枷には、マリアの力を封じる何かが籠められているらしい。右肩に受けた傷も深くないはずだが、塗られていた薬で体力の消耗が激しい。

 ふらふらになりながら歩くマリアが不敵に笑えば、メルクーリが微笑し迎えた。


「大丈夫ですよ、マリア様。あなたはどんなに汚れても美しい」


 見透かされたような誉め言葉に、マリアは力なく「どうも」と応えるしかなかった。


「さあ、広場に行きましょう」

「広場?」


 マリアの表情が強張る。


 なぜ、そんな目立つ所に――


「最後の『魔の生贄』が、この町を救ってくださる」

「それって……」


 嫌な予感が、脳裏を過る。


「あなたを待っている方がいるそうですよ」


 抵抗したいが、体が思うように動かない。


(この手枷、一体何なの……?)


 引きずられるようにして、マリアはメルクーリの後ろを歩く。

 辺りがざわついている。マリアは屋敷の外にいた。


(辺りがよく見えない)


 声だけは辛うじて聞こえてくる。

 声音から、歓迎ムードではないことだけは分かった。


「あの人、確か一か月前に……」

「なっ……なんでここにいるんだ?」

「魔王退治に失敗したってこと?」

「えっ? それで生きてたの?」

「責任取ってくれなきゃ……」

「城まで行って生きてたってことは……」

「あの人の方が危ないんじゃない?」

「罪人だって噂だぜ?」


 噂に尾鰭どころか、完全に別の話になっている。

 意識が朦朧としているから、ひそひそと声を潜める住人の顔が憶えられない。


(好きなこと言って……! 誰か知んないけど、後で覚えてなさいよ!)


 メルクーリの足が止まる。

 恐らく、広場に着いたのだろう。

 中央に据えられた大きな台への階段を、メルクーリが昇っていくのが、霞む視界に見える。

 そして、バッとギタの町長が両の腕を広げた。


「皆さん、ここにいるマリア・オルティースは、魔王と通じてしまった哀れな女性です」


(はぁ⁉ 何勝手なこと……!)


 耳はしっかりと聞こえることに、マリアは憤りを覚えた。

 町長として演じるメルクーリの朗々とした演説が、再び聞こえる。

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