二十八話 真の目的2
クレメントが息を吐く。
「リリィの事情は、大体予想していたさ。だから、利用されたんだろう」
「……あいつは、……俺の、血が欲しさにそんなこと……?」
「人間は、欲望のためならそんなこともできるのさ」
アグノスはハッとする。
「おまえがいれば、どんな鉱脈よりも長く富を生み続け、それは地位を確立させ、手にすれば不老を齎す」
クレメントが一歩近付いてくる。アグノスは一歩下がった。
「おっ、おい……冗談だろ?」
「別に殺すわけじゃない。おまえがギタの町の生贄になれば、すべてが解決する。娘達は口封じのために生贄にされることもなければ、罪のない人間が悪事に手を染めることもない」
「それが、おまえの本心か……?」
「おまえがここで断れば、彼女を犠牲にするだけ」
「ッ……⁉」
生温い風が、アグノスとクレメントの間を駆け抜けた。
永遠に続くような気がするにらみ合い。
が、それはクレメントによって途切れた。
「まっ、ほんと、それが手っ取り早いんだけど、おまえを町に繋いでおけるほどの手練れなんて、まずどこにもいないだろう」
「はぁ⁉」
思わず大声を出すアグノスに、クレメントは宝石を投げて寄越した。
「ちょっ……!」
慌ててキャッチするも、よくよく見ればそれはただの硝子玉だった。色やカットは綺麗に見せているが、重みは全然違う。
アグノスも鉱山の主だ。宝石の見分けはできる。
「偽物だって言ったろ?」
「こんなのに騙されんのかよ?」
「奴には、……メルクーリにはそれを本物だと信じ込ませるだけの言霊の力があるんだろう。だが、奴が『魔王の血』のことを知ったのは最近らしい」
「最近?」
「以前は盗品のことを知った人間を消していたんだろうけど、今は寧ろ気付かせているんだろう。生贄に丁度良い少女がいる商人にな」
「あいつ……!」
リリィのことが浮かび、アグノスの頭の中は怒りに支配されそうだった。
が、それをクレメントが止める。
「だが、奴はもっと良い稼ぎ方を見付けた。それが、『魔王の血』の偽物だ」
アグノスは手の中の硝子玉を見た。
温もりのないそれは、ただただそこに存在していた。
「そして、もっと欲が出た」
「俺の血を宝石にすればいい、ってか」
「そういうこと」
クレメントはどこまでも飄々としている。
「そこで、おまえが惚れた女だ」
「なっ、なんでそこでマリアが出てくんだよ?」
「おまえを誘き寄せるためさ」
マリアはギタの町に下りた。
それは、仕組まれたことだったのだろうか。
「メルクーリは思った。生贄の女では、おまえを惑わすことはできない、と。強く美しい女が、おまえを倒しに山へ入ればどうだろう?」
「……」
アグノスの額から汗が流れ落ちた。
生贄の少女達の本当の目的。
リリィが、自分に伝えていた気持ち。イェシカの兄へと想い。
好意の裏に隠されていたのは、裏切りだったというのか。
そして――
「おまえは思惑通り、彼女に惚れ、今山を下りている」
山を下りることがすでに決まっていたのなら。
そして、それを道案内することを買って出たのは――
「クレメント、おまえは、それを知って……?」
「ああ、ずっと前からな」
「どっちの味方なんだ?」
友人は、ふっと柔らかく笑った。
「少なくとも、奴の味方ではないさ」
クレメントは、アグノスから赤い硝子玉を攫って行った。
「おまえの愛しい彼女も、メルクーリの正体には気付いたとしても、おまえが追ってくるなんて知らないはずだ」
良い具合にまたはぐらかされた。
アグノスが思っていると、クレメントは続ける。
「助けてあげないとな。ステキなお姫様を」
どんなに誤魔化されても、今は友人を信じるしかない。
「ああ」
「言っておくが、俺は戦力として考えるな。俺は計算以外できない男だ」
「おっ、おまえなぁ!」
アグノスの怒号に、クレメントは肩を竦めて笑うだけだった。
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