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二十七話 真の悪意1

 漆黒の闇と見紛うほどの夜だ。

 町の、いや世界の生きとし生ける者の大半が寝静まっている時刻だった。

 ヴァレットは珍しく狼狽していた。


「メルクーリ様、あの女が……戻ってきました」


 主の部屋に入るなり、ヴァレットはそう言った。

 内面を出さないように、どうにか声を抑えて。

 窓辺に立っていたメルクーリが、ゆっくりと振り向く。その顔は、険しかった。

 四日前の山火事以来、主はずっとこのような調子だ。


「マリア・オルティースと話がしたい。ここにお連れしろ」

「その必要はないわ」


 ヴァレットの背後から現れたのは、一か月前にヴァロータ山脈へと旅立ったマリア・オルティース本人だった。

 ヴァレットは振り向かずとも、彼女への警戒心を露わにしていた。

 が、主は違った。


「マリア様! 心配しておりました……!」


 一瞬にして安堵の表情を作り、その端正な顔に貼り付けたメルクーリは、侵入者にも近い女に向かって両腕を広げた。

 そんな主に、マリアは冷ややかな目で見詰める。


「もうそんな演技の必要もないわよ、メルクーリさん」


 マリアは「いや」と続けた。


「盗人の元締めとお呼びした方がいいかしら?」

「!」


 ヴァレットはすかさず懐からナイフを取り出した。

 だが、それはマリアに届くことなかった。

 マリアの短剣の方が数秒早くヴァレットの利き手を封じた。


「ッ……女……」


 カランッと乾いた音を立てたそれはしばらく切っ先で円を描いていたが、マリアの足によって止められた。


「わたしはメルクーリさんとお話ししてるの」


 手の甲を抑え、数歩下がったヴァレットをちらっと見ただけで、マリアはまたメルクーリに視線を戻す。


「あなたがわたしに魔王退治を依頼したのは、町のためでも、魔王を倒すためでもない。本当は『魔の契約』の生贄達の安否を確認させたかった。自分の本性を知っている娘達。違う?」


 メルクーリは何も言わず、傷を負った従者にも興味を示さず、ただマリアを微笑みにも似た表情で見返していた。


「生贄になった娘達を生かしておくわけにはいかない。でも、あなたはどっかから聞いたんじゃない? 娘達が、城で生きている、と」


 メルクーリの眉が僅かに上へ動く。


「せっかく自分の手を汚さずにこの世から葬り去れたと思ってた邪魔者に、生きていられちゃ困るものね。内心で焦っていたあなたの元に、わたしが現れた」


 メルクーリがやっと小さく息を吐いた。


「想像力豊かな方だったのですね」

「意外かしら?」

「ええ、とても」


 そう言い、メルクーリの右手が素早く動かす。

 マリアが気付いた時には、それは右肩に突き刺さっていた。


「ッ……!」


 激痛の根源に目をやれば、細い投げナイフ。赤い血がじわじわと右肩の布地に広がっていく。

 まるで、先日の火のように。


「あ、あなた……やっぱり」


 右肩を抑え、睨み付けるマリアにも、メルクーリは動じなかった。

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