二十五話 孤独な想い2
「ねぇ、マリアは?」
「リリィおねぇちゃん、マリアはどこへ行っちゃったの?」
あれから、ユノのユグは誰かに会う度にそう訊いていた。
「ちょっと出かけてるだけよ」
誰もが答えるそれを、リリィもどうにか明るく言った。
が、子ども達の表情は浮かないままだ。
「泥んこの手で抱き付いちゃったから、オレ達のこと、きらいになったのかな?」
「魔法、教えてくれるって約束したのに……」
リリィは、二人をゆっくり抱き締める。
「そんなこと、あるはずないでしょ? どんなに泥んこでも、マリアはあんた達のこと大好きよ。ふたりだって、マリアのこと好きでしょ?」
「うん!」
「だいすき!」
漸く笑みを見せた二人に、リリィもホッとした。
ユノが、そんなリリィの顔を覗き込む。
「リリィおねぇちゃんは?」
「えっ?」
「マリアのこと、好き?」
純粋に問われたそれ。
リリィは、ユノの濃い茶色の瞳を見詰める。
答えは決まっているはずなのに、言葉が喉の奥に引っ掛かって思うように出てこない。
「あたしは……」
「ユグ、ユノ。ここにおったか」
「じっちゃん!」
ソフォスが穏やかな笑みを浮かべ、幼い魔族達を呼んだ。
「バリーがお菓子を焼いたそうじゃぞ。もらっておいで」
「お菓子⁉」
「やったぁ!」
子ども達の愁いは、あっという間に消えてしまったようだ。
厨房へ駆けていく二人の背中に、リリィは「ちゃんと手を洗うのよ」と苦笑した。
「ソフォス、ありがとう」
リリィが礼を口にすれば、ソフォスは皺だらけの顔をさらにくしゃりとし、長い城髭をこれまた皺だらけの手で撫でた。
「バリーがの」
「バリー?」
料理長がどうしたのだろうと首を傾げると、人間より遥かに長く存在している魔族は続ける。
「おまえさんの苦しみを分からなんだ。悪かった、と」
リリィは目を見開いた。
ソフォスの重たそうな瞼が、徐に上げられた。
「わしもそうじゃ。おまえさんはいつだって元気にいてくれる。わしらを恐れることなく、まるで家族のように接してくれる」
「そっ、それはアグノスやソフォスが……ここのみんなが、わたしを受け入れてくれたから」
ゆっくりと首を横に振った。
「それは、わしらの言葉じゃよ、リリィ」
「え?」
「どんな存在も、独りでは成り立たぬ」
ソフォスはそう言い、リリィの手をそっと取った。
「独りで抱えきれぬことがあれば、わしらに言いなされ」
リリィの頬は、気付けば涙が一筋流れていた。
(もう……隠し切れない)
リリィは、ギュッと目を閉じた。
ソフォスは、生贄にされた娘の次の言葉をただ待っていた。
「……ソフォスは、気付いていたのね?」
「おまえさんが、アグノス様を本気で好いてくれたことには、気付いていておるさ」
観念したかのように、リリィが目を開ける。
「わたしの……役目だった」
呟いたそれが、どこかへ消えてしまえばいいと思った。
「アグノスが、悪い魔王だったらよかったのに」
ソフォスは小さく、そして哀しそうに笑った。
「そしたら、好きにならずに済んだのに。みんな、悪者だったらよかった」
「皆は己の鏡じゃよ、リリィ」
「じゃあ、みんな悪者のはずでしょ!」
リリィが叫ぶ。
が、皺だらけの手がリリィの頬を包んだ。
「本当の目的が何であれ、わしらはリリィの家族じゃ」
「ソフォス……」
流れる涙を、優しい魔族がゆっくりと拭った。
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