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二十四話 兄弟喧嘩1

 アリスィアの部屋のドアが、吹っ飛んでしまうのではないかというほど勢い良く開け放たれたのは、マリアが城を出てからすぐのことだった。


「来客をほったらかして、俺の部屋のドアを壊しに来たのか?」


 こうなることは百も承知だったから、イェシカはリリィに任せていた。

 無駄に怯えさせたくない。

 アリスィアは、ある本をひらりと自身の部屋の訪問者に見せる。


「俺はこれからゆっくり読書でもするつもりなんだ……ッ⁉」


 胸倉を掴まれたかと思えば、ギラギラと煌めく弟の赤い眼が、真っ直ぐ射抜いてくる。

 本がアリスィアの手から滑り落ちた。


「なぜ?」

「何に対しての質問だ?」

「惚けんじゃねぇ」


 低く唸るような声音は、張り上げてもないのに部屋全体を揺らした。


「マリアに何を言った?」

「出ていけ、と」


 隠さずに言えば、弟は赤い瞳をギュッと閉じた。


「なぜ……?」

「おまえのためだ」

「これが? 俺のため?」


 怒りと困惑の最中にいながらも、声を荒げることのない弟に、兄は続ける。


「おまえはマリアを追わなかった」

「それは……」

「俺も、おまえも、あの女が怖いんだよ。人間が言う心ってやつじゃなく、俺達の存在の根底にある相容れない者への恐怖」


 兄の胸倉を握る手は緩まない。その手に、アリスィアは自分のそれを重ねた。

 大きく逞しくなった手。しかし、彼はまだ幼いようにも思えた。


「諦めろ。あの女は、ここを……おまえを破滅させる存在だ」


 静かに告げるアリスィアを、アグノスはゆっくりと向き合った。


「兄貴は、諦めきれるのか?」

「なに?」

「もしイェシカが自分を破滅させるって言われて、兄貴は諦められるのかよ?」

「ッ……」


 考えないようにしていたことだった。

 赤い瞳は、答えを求めているようで、でも、そこに辿り着けず迷子になっている子どものようなそれだった。


 いや、その赤に映る自分が――


「俺は……」

「もう! いい加減にしなさいよね!」


 開け放たれたままのドアの方から、リリィが声を張り上げた。


「魔王が二人揃って、情けないわね」


 リリィがアグノスを睨む。


「うだうだ言ってないで、迎えに行くわよ、アグノス」

「リリィ」


 アグノスの手が漸くアリスィアを放す。


「わたしにあんだけ言っといて、わたしの気持ち……」


 そこまでリリィは首を大きく横に振った。


「マリアはギタの町に下りたと思う。アグノスだけだと、どうせ迷子になるでしょ。わたしが道案内をするわ」

「リリィ、でもおまえ、町には……」

「ならば、オレが道案内をしようではないか。そうすれば問題ないだろう? ヴァロータ山脈の王よ」

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