二十三話 過ちの末2
「わたしは、神と人間の過ちによって生まれた存在よ」
アリスィアの瞳が、大きく見開かれる。
マリアは、気付かないふりをした。
「母は火の神、父は人間の鍛冶屋だった。一度きりの過ちで」
神としてか。人としてか。
両親は、何も語らない。
しかし、夢では幾度となく問われ、語られる。
おまえは、何者だ?
答えのない存在。
この身は人間で、力は――
「おまえは、どうしたいんだ?」
恐らくその問いは、アリスィアが常に自身に問いかけている言葉なのだろう。
そして、答えの出ない問いだ。
例え出たとしても、意味があるのだろうか。
「どうも、しないわ」
だから、マリアはただ旅をする存在となった。傭兵として戦う存在となった。
誰かの傍をただ通り過ぎる存在を選んだ。
マリアは、母が力を籠め、父が研いだ剣を握った。
「これからも、同じこと」
マリアはベッドから起き、窓辺に立つ。
枝葉を失ったまっ黒な木々が焦げた臭いを未だに漂わせ、抉れた地面が見えている。
だが、空は先日までの激しい雨が嘘のように、雲一つない快晴だった。
「おまえのその美しさに、弟は――アグノスは惹かれている」
アリスィアは、淡々と言った。
「おまえは、どうなんだ?」
立ったことで、自分がもう動けることがマリアには分かった。
両親と同じ過ちは犯せない。
でも――
「どう……」
なぜ先ほどのように言い切れないのだろうか。
ここに来て、アグノスの魔王らしかぬ言動に驚き、困惑し、自身の存在の弱さを突き付けられたというのに。
彼の兄に惹かれた自分がいて、今その喜びに浸ればいいのに。
結局、何も掴めない自分がいる。
ここに残ってまで掴みたかったことすら、何も……
「答えはないようだな」
アリスィアが先に言葉を発した。
「イェシカを助けてくれた恩人だとしても、弟を脅かす存在を許すことはできない」
魔王の存在をも消滅させる力を持つ者の血を継いでいるとことは、アグノスを危険に晒すということ。
アグノスの無邪気な笑顔と低く響きながらも明るい声音を、マリアは思い出していた。
アリスィアの深い青の瞳を見れば、そこに自分がいる。
「あなたなら、良かったのかしら?」
「そんな話はしていない」
「あなたは、すべてを弟に譲ったと自分では思ってる」
「……あいつの方が、適任だったというだけだ」
「あなたは、逃げただけなのに」
「ちがっ……」
否定は、途切れてしまった。
「なぜ、あなたに惹かれたのか……分かった気がするわ」
力なく笑えば、アリスィアが痛みを堪えたような顔をする。
「マリア・オルティース、頼むからここから出て行ってくれ」
マリアは、自身と違う青の炎を見据えた後、ゆっくりと頷いたのだった。
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