二十三話 過ちの末1
赤い海。
あつく、熱く……激しく燃える。
それは、巨大な剣となり、牙となり、煌めく双眸となる。
そして、それは語る。
おまえは何者だ?
おまえは、何故ここに生まれたのだ?
我らの元に、何故――
熱く、激しく、燃え盛る。
燃えているのは、目の前か。
それとも――
わたしの身体……?
夢だ。
それを証拠に、ぼんやりとした視界でも、赤い色はない。
でも、なぜだろう。
マリアにはそれがとても寂しく思った。
「アグノス……」
無意識に彼を呼んでいた。
眩くなっていく視界を遮る幼い影が二つ。
「マリア!」
「目を覚ました! アリスィア!」
「マリアが目を覚ましたよ!」
嬉しそうなユグの声と、安心したようなユノの声が響く。
そして。
「悪いな、弟じゃなくて」
「えっ……?」
この城に来て最も慣れない男の声に、マリアの意識は瞬時に覚醒する。
「アリスィア……っ⁉」
ガバッと上体を起こせば、眩暈にまた視界が揺らいだ。
ずっと陽炎を見ているような気分だ。
「まだ寝てないと」
「そうだよ、マリア」
再び俯いてしまったマリアに、魔族の子ども達も表情を曇らせた。
「大丈夫よ、二人とも。心配かけちゃったわね」
「ユグ、ユノ。目を覚ましたとはいえ、マリアはまだ疲れているんだ」
アリスィアが柔らかく二人に声をかけると、二人は魔王の兄を大きなその瞳で見上げた。
「休ませてやろう」
「うん」
「マリア、元気になったら、また一緒にお野菜の収穫しようね」
「魔法も教えて!」
元気な二人に、マリアもどうにか笑い、頷いた。
それにホッとしたのか、二人はマリアの部屋を後にする。
残ったのは、マリアと――この城の主になるはずだった男。
「どのくらい眠ってた?」
「三日ほどか」
「そう」
「その間、ずっとアグノスはおまえの傍にいたんだが、今日は久方ぶりの来客があってな。そっちの相手をしている」
「……そう」
心の奥に寂しさが募る自分に驚いた。
アリスィアの小さな溜息が聞こえる。
「ゆっくり休め」
傍に腰を掛けていたアリスィアの手には、マリアの剣が握られている。
「そう言ってやりたいが」
マリアが緩慢に自身の得物を見た。
アリスィアの綺麗な顔立ちが、その刃に映る。
「おまえは、何者だ? マリア・オルティース」
夢の続きか。
マリアは、剣から目を逸らした。
「弱ってる女にそんな質問したら、嫌われるわよ?」
「あいつ以外に好かれたいと思ったことはないのでね」
はぐらかせないことは分かっていた。
視界と意識が明瞭になっていくことが憎かった。
カチャ、と剣がマリアの手元に置かれる。
「すまない」
「それは……なんの謝罪?」
アリスィアが言い淀んだ。
「別に好かれたいわけじゃないんでしょ?」
自嘲気味に笑って、マリアは視線をアリスィアに戻した。
アグノスに似た面差しだが、全く正反対の青い瞳が、マリアに向けられている。
(こんな形で、この人の視線を一人占めできるなんてね)
夢ならどんなにいいか。
城の書庫で出会った時、自身の在り処を彼の中に見た気がした。
それは、彼が自分と同じ存在だと思ったからだ。
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