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二十二話 燻る感情

 燃え広がっていた火は、城の脅威が去った途端、まるで波が引くようにアグノスと、そしてマリアの身体へと戻っていき、やがて焼けた大地と焦げ臭さを残して完全に消えた。

 戻ってくる力の最後の波を身体に受けたマリアの意識は、不意に遠くなる。


「ッ……」

「マリア!」


 支えてくれた腕にしがみ付き、どうにか倒れずに済んだ。


「ごめん……」

「謝るのは俺の方だ。マリアに無理をさせてしまったんだから」


 さっきまでの威圧感や覇気はどこへいったのか。


(もう……またそんな顔して)


 いつもの優しいアグノスの赤い瞳をマリアも青い双眸で見詰める。


「足手纏いにならない。そう言ったから……キャッ⁉」


 最後まで聞くことなく、アグノスはマリアを抱き上げた。


「ちょっ……ちょっと!」

「守ってもらってばっかじゃカッコ悪いじゃん」

「そんなことな……」

「あるの。俺が一番そう思ってるの」


 低く心地良い声音が頭上から聞こえ、マリアは彼の腕の中で小さくなった。

 でも、やはり気恥ずかしさが増してしまう。


「……転ばないでよ?」

「俺ってそんな信用ない?」

「だって、足場が悪いから」

「転んだ時は、一緒に汚れてくれ」

「もう……転ばないって言ってよ」

「はいはい、お姫様。転びませんよ、絶対に」


 普段の無邪気な笑顔とは違い、どこか落ち着いたアグノスの微笑みに、マリアはつい見惚れてしまった。

 が、すぐに視線を逸らす。


「ったく……調子良いんだから。あいつはまた戻ってくるわよ」


 退けたとはいえ、ウダールはアグノスと同等の力を持つ存在。

 力を取り戻せば、またここを狙ってくるだろう。どうやらアグノスを目の敵にしている様子でもあった。

 しかし、当のアグノスは肩を竦めるだけだった。


「なら、俺がもっと強くなればいい」

「簡単に言うわね」

「その方がカッコいいだろ?」

「……今度は、助けないわよ?」

「今度は守ってみせる。マリアに絶対に無理させない」

「どうだか」

「疑り深いお姫様だ」


 アグノスの苦笑に、マリアは今まで感じたことのない気持ちを覚えていた。


(お姫様か)


 瞼が重たくなる。

 もっとこの気持ちを感じていたいのに。


 目が覚めたら、さっきの火のように消えてしまう気がして――


「マリア、ありがとう」


 アグノスの声は、マリアの耳の奥、そして心の奥底にゆっくりと染み渡り、彼女を深い眠りへと誘ったのだった。

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