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二十一話 魔王の力を持つ者1

 マリアとアグノスが城の門を出れば、雨はますます強くなった。

 地盤がしっかりしている地ではあるようだが、降り続く雨に地面が抉れて、このままでは土砂崩れになり兼ねない。

 風がゴォゴォと音を立て、ローブを纏う二人の体を容赦なく叩く。

 マリアが一歩踏み出せば、その足を泥濘に取られる。が、そんな彼女をすぐに支える逞しい腕。


「マリア! 大丈夫か⁉」

「ええ、ありがと! なんとかね!」


 お互いが大声を張らないと、雨音にすべてを掻き消されてしまう。


「暴れ過ぎなんだっつぅの!」


 アグノスが天に向かって咆える。


「いるんだろ⁉ 姿を見せろ!」


 稲光が暗雲の腹を這っていく。まるで巨大な蛇のようだ。


「あぁ! 分かったよ! 俺から名乗ってやる!」

「えっ⁉ 名乗れって言ってんの⁉」

「知らん!」

「え……?」


 魔族同士で何か聞こえているのかと思えば、そうではなかったようだ。

 アグノスはマリアを支えながら、眼光鋭く天を睨んだ。


「俺の名アグノス・ヴィノ・プロトス! ヴァロータ山脈を統べる者だ!」


 雨と風が威嚇してくる。


「姿を見せろよ!」


 アグノスの怒号に、稲妻が二人の目の前に走った。


「ッ⁉」


 閃光に目が痛くなる。が、マリアはアグノスが咄嗟に腕で庇ってくれたおかげで、どうにか視界を奪われずに済んだ。


「一人で来れねぇような軟弱野郎が魔王なんて笑えるぜ」


 若々しくも人を嘲るような声音が、二人の頭上に響いた。


「思っていた以上に、ここは簡単に落とせそうだな」


 バリバリと宙で閃光が形を帯び、最終的に細身で長身の男の姿となった。が、やはり普通の人間ではない。両側頭部にアグノスほどの大きさではないが角が生え、細身の割には筋肉がしっかりとついている。ニヤッと笑った顔は、まだ若々しく、血の気の多そうな雰囲気があった。

 明るい金髪は後ろの方だけ長いのか、鳥の尾のようにひらりひらりと優雅に舞っている。


「お前は、誰だ?」


 アグノスの問いに応える前に、トンッと男が地面に降り立った。

 琥珀色の瞳が、マリアとアグノスを捉える。

 先ほどまで荒れ狂っていた暴風雨が嘘のように、辺りが静寂に包まれる。


「俺はウダール・モールニ」

「ウダール……?」


 アグノスが小首を傾げた。

 自身と同じほどの魔力を持つ者ならば、名前を聞いていても不思議ではないが、聞き覚えがないようだ。


「別に憶えなくていい。お前はここで死ぬんだからな!」


 ウダールの語気が荒くなると同時に、稲光がその手に集結し、剣の形を成す。

 その直後に飛び掛かってきたのだと、マリアは自分が地面に手をついた時に気付いた。


「アグノス!」


 すぐさま立ち上がったマリアが振り返れば、アグノスは大剣でウダールの雷を受け止めていた。

 マリアが当初この城に来た時、アグノスが兄からもらったと嬉しそうに自慢していた物だ。あの時は通常の鋼色だったが、今は持ち手の強力な魔力に反応し、赤く燃えていた。


「へぇ。人間の女なんか連れてるから、盾にでもする気なのかと思ったが、しっかり庇うじゃねぇか」

「ッ……よく喋る奴だ」

「⁉」


 腕力では勝っているアグノスが押し返せば、ウダールはひらりと軽く宙へと逃げる。その姿を追って斬りかかるも足場の悪さもあり、体勢が整わないアグノスには、圧倒的に不利な状況だ。


「アグノスは空飛べないの⁉」

「飛べねぇよ!」

「魔王でもできないことあるのね……」

「当たり前だろ!」


 アグノスの返答に被せるように、ウダールが雷を振り下ろしてくる。


「あぶねッ」


 それを再度大剣で受け止めた。

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