表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/59

十九話 正直でいるということ

「わたしに何の用よ?」


 台所の隣の小部屋のドアを閉める音がする前に、リリィの不機嫌な問いがマリアの背にかかった。

 分かってはいたけれど、溜息が出た。

 扉が勢い良く閉まる音が、鼓膜だけでなく室内を揺らした。


「馬鹿にしてんの⁉」


 それ以上にリリィの声が小部屋に木霊する。アグノスの魔力の火に照らされて映る彼女の影が、マリアの横目に見える。震えているように見えるのは、火のせいか、怒りのせいのか。


「馬鹿になんかしていないわよ、リリィ」

「じゃあ、何なのよ⁉」


 マリアがゆっくりと振り向く。


「あなたが羨ましいの」

「……え?」


 思わぬ言葉だったのだろう。リリィが呆けた顔でマリアを見詰めていた。


「リリィ、あなたは自分に正直だもの」

「……それ、やっぱ馬鹿にしてるわ」


 リリィが掌をグッと握った。


「正直だからって何よ? それで得したことなんか何もないわ! みんな、わたしが言ったことに耳を貸さないし、騒ぎ立ててるだけって……それで、みんな……わたしの家族は……」


 涙を堪えて、リリィは天井を睨んだ。


「何があったの?」

「……いいでしょ、別に」


 マリアが問えば、リリィは潤む瞳でまたマリアを睨み、口を閉ざした。


「そうね。わたしには関係ない」


 マリアも同意した。


「ごめん、ただの好奇心で聞いちゃって」


 素直に謝れば、リリィはまた呆気に取られたような顔をした。


「あんたでも謝ることあるのね」

「素直で得したことはあんまりないけどね。でも、自分を貫く時には必要なことよ」


 マリアが言えば、リリィは苦笑した。


「あんたは……マリアは強いからそれでいいけど、わたしは……」


 リリィの声から普段の明るい色が消える。


「わたしの家族は、夜盗に殺されたの」


 内心動揺はしたマリアだったが、表情には出さず、リリィの次の言葉を待つ。

 城内に響き渡る雨の音が、急に小部屋にまで侵入してきた気がした。


「結構裕福な家庭だったのよ。父さんが、宝石商をしてて。お金を持ってると、周りから悪いこともしてるんじゃないかって言われたりもしたけど、父さんは決してそんなことしていない。寧ろ、盗品を売りに来る客は追い返してたし、警備隊に通報だってしてた」

「正直さは、お父様譲りね」


 マリアが言えば、リリィは微かに笑った。


「でも、それが仇となったのよ。警備隊に通報した奴の中に夜盗がいたみたい。その仲間が復讐のためにわたしの家族を襲撃した……父さんも、母さんも、小さな妹も……仲良かったのよ。いつもお姉ちゃんって後ろを付いて来てさ」


 リリィがユグとユノの世話をよくするのも、亡くした妹を重ねてしまっているからかもしれないとマリアは思った。


「わたしは学校の寮で生活していたから助かったの」

「夜盗達は? 捕まったんでしょ?」


 マリアの問いに、リリィは首を横に振る。マリアは信じられないと目を丸くした。


「どうして……?」

「表向きは逃げられたって。でも、わたし……父さんが前に言ってたことを聞いてしまったの」

「お父様が? なんて?」


 リリィが少し戸惑った。


「言いたくないなら無理には……」

「ギタの町長が盗品の売買に関わってるって」


 リリィの声と雨音が、悲痛な叫びとなって、マリアの頭の中で響く。


「まさか……」

「真実かはわたしも分からない」


 リリィの表情は嘘を言っているように見えなかった。だが、やり場のない感情がそこにあるようだった。


『正直だからって何よ? それで得したことなんか何もないわ!』


 家族を奪ったのは夜盗ではなく、正直な心だったとリリィは思っているのかもしれない。

 しかし、それは違う。


「そのことを知ってるのは?」

「ここに来た時、アグノスとアリスィアとソフォスに話しただけ。みんな、誰にも話さないって」


 マリアは「そう」と言って、リリィの肩にそっと手を置いた。


「正直に話してくれてありがとう、リリィ」

「えっ……」

「やっぱり、あなたが羨ましいわ。正直で、純粋で。ここではそれを隠す必要がないんだから、自分を責めることなんてないわ」

「そうかも。それに、あんたならわたしの癇癪だってどうってことなさそうだし」

「寧ろ受けて立ってやるわよ」


 一瞬微笑んだリリィに、マリアも微笑み返した。


「さぁて、あんまりあなたを借りてると、厨房が片付かないわね。邪魔しちゃったお詫びに、あたしも手伝うわ」


 マリアはウィンクをして、小部屋を出る。


「でもね、マリア。どんなに気持ちを正直に伝えても、動かない気持ちってあるんだよ」


 背中に言われたそれは、ドアの軋みと悲鳴のような雨音に掻き消され、マリアに届くことはなかった。

お読みいただき、ありがとうございます!

よかったらブックマークや評価、いいねをしていただけると励みになります(*^-^*)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ