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十五話 魔王の兄弟2

『貴様マデ……魔王アグノス』


 魔王は、小さく息を吐いた。


「ガルム、根城を荒らして悪かった。しかし、この二人は俺達の客人でな。あんたらの餌にするわけにはいかないんだよ」

「イェシカは客人じゃない。俺の理解者だ」


 アリスィアは弟の言葉を面倒臭そうだったが訂正する。


「兄貴……今はどっちでもいいだろ?」

「良くない」

「じゃあ、理解者ってより、婚約者でいいじゃん」

「バッ……! 今はそんなこといいだろ!」

「さっきと言ってること違うんですけどもぉ……」


 先ほどまで無表情だったアリスィアと、怯えていたイェシカが顔を真っ赤にして、同じような動作でオロオロしていた。

 マリアも、一瞬緊張が解けそうになった。

 が、そんな気の抜けた雰囲気は長く続かない。


『オ前達兄弟ハ、魔族ヲ裏切ルツモリカ……?』


 唸り声が、嘲りに変わった。


『人間ガ、客人? 理解者? 挙句婚約者ト……魔ヲ統ベル者ラシカラヌ発言……許サレヌゾ』


 アグノスは魔獣ガルムに向いたままだった。

 赤い瞳と鉛色の眼がぶつかる。


「誰にも許してほしいとは思ってねぇよ」


 アリスィアもまたガルムを見据え、弟の言葉の後に言う。


「それに、裏切るも何も、仲間とも思ってないしな」

「いやっ、俺はちょっと思ってるぞ」

「嘘吐け!」


 しれっと自分だけ安全地帯に行こうとする弟に、兄はすかさず突っ込んだ。

 しかし、今度は二人ともガルムを威圧する空気を変えなかった。


「人間達には、今後ここには立ち入らせない。それでいいだろ?」


 アグノスの低い声音に、ガルムは唸るだけだった。


「それか、お前を問答無用で立ち退かせるってことも俺らにはできるが、どっちがいい?」

「俺は、こんな魔獣を庭に飼った覚えはないから、力尽くでも……」

「兄貴ちょっと黙っててよ!」

「なんでだよぉ?」

「俺は無駄な交戦したくないんだよ!」

「えぇ? またそうやって嘘吐くぅ」

「嘘じゃねぇから!」


 ガルムの睨みも怒りも二人には全く通じていない。

 庭にいる小さな犬を前に、兄弟が冗談を言い合っている。そんな風にも見える。

 マリアも、先ほどまで感じていた緊張感はすでにない。


(圧倒的な力の差……)


 ガルムもそれは分かっているようだった。


『……何レ、後悔スルゾ』


 恨むように呟く。

 魔王の兄弟は、赤と青の双眸を鋭くする。


『シカシ、好キ勝手出来ルノモ、今ノ内サ』


 ガルムはそう言って、闇へと還っていった。

 森を行き交う風が鳴る。

 四人は、それをしばらくただ聞いていた。

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