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十一話 ユグとユノ

「なんで付いて来るのよ?」

「あたしの質問に答えない人に、なんであたしは答えてあげなくちゃいけないの?」


 広い廊下を歩きながら、ここ一週間変わることない会話をリリィとしたマリアは、中庭へ通ずる扉を開く。

 陽の光が、薄暗い廊下を照らし、マリアとリリィは目を細めた。

 と、賑やかな声が二人を囲う。


「マリアねぇちゃん!」

「リリィおねえちゃん!」


 小さな手が、マリアの腰辺りに触れる。


「もう、泥だらけの手で触らないでって言ってるじゃない」


 苦笑しながらも、マリアはその手を握った。

 二人を迎えたのは、この魔王の城に住んでいる魔族の双子の子供だ。

 マリアに抱き付いたのは、濃い茶髪に同色の瞳、一本の角を額に持つ少年のユグ。リリィを呼んだのは、兄と同じ色の髪と瞳、両側頭部に角を持つ妹のユノ。二人は、この城でアグノス以来の子供達だが、両親は二人を置いて姿を消したらしい。

 そんな二人の親代わりは、この城に住むすべての魔族と『魔の契約』でやってきた少女達だった。

 だからなのか、人間に対する警戒心は薄く、二人はマリアのこともすぐに受け入れた。


「オレの収穫した野菜食べた?」

「わたしもポテトを掘ったよ!」


 ユグとユノの眩い笑顔に、マリアも微笑んだ。

 この城には、魔族の常識はないらしい。


「マリアさん、おはよう」


 しわがれながらも柔らかな挨拶に、マリアも子供達に向けていた顔を上げる。そこには、声同様に朗らかな笑みを浮かべ、頭に麦わら帽子をかぶり、手に鍬を持ったソフォスがいた。

 どう見ても、隠居して農業を楽しんでいる老人だ。

 ただ、帽子から角が一本飛び出てはいるが。


「ソフォスさん、おはよう」

「ほっほっほっ、ここの生活には慣れましたかな?」

「ええ。すっごく快適よ」


 それどころか、ここにいたいとまで思う。

 リリィが出ていきたくないと言った理由が、少し分かった気がしていた。


「あんた、敵としてここに来たんだからね。それだけは忘れないでよ?」


 横からすかさず冷たい声がした。リリィだ。

 だが、そんな彼女の態度に、マリアはもう慣れたもの。「はいはい」と言って、ソフォスの畑を見回した。

 ここは鉱物が採れる山だが、作物を育てるには向かない土地のはずだ。

 しかし、どうだろう。

 見事な菜園が、眼前に広がっている。痩せた土壌でも比較的育つ野菜を選んではいるのだろうが、知識がなければ城の人間と人間の食事を好む稀有な魔王達のお腹を満たすことは難しい。

 それでも、ソフォスの野菜は、ここにいる皆を満足させているのだ。

 マリアは、子供達の手を取った。


「さっ、手伝うわよ」

「やったぁ! マリアねぇちゃん、こっち!」

「あぁ! わたしの方も! マリアおねえちゃん!」

「リリィねぇちゃんも!」

「ごめんね、わたしは他の仕事に行かなくちゃ」


 リリィもユグとユノにはいつも笑顔だった。


「二人に変なこと教えないでよ?」


 が、マリアにはやはり厳しい。

 擦れ違い様に小声で言われたそれに、マリアは小さく溜息を吐く。


「分かってる」


 マリアが答えれば、リリィはやっと少しだけ表情を和らげた。

 燦燦と降り注ぐ太陽の光を浴び、マリアは子供達としばらくの間、畑仕事に勤しんだのだった。

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