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十話 魔王の城の朝

 月もない夜の戦場でも華麗で優秀な戦闘員となれるマリア・オルティースは、朝が大の苦手だ。

 でも、今自分がいるここは、魔王の城。活動時間が夜の者達が多い。早起きなどしなくてもいい――はずなのに。


「いつまで寝てんのよ⁉」

「ッ~……!」


 リリィの大声が、マリアの部屋の前で木霊していた。

 枕を頭の上に乗せて、耳を塞ぐ。が、リリィの声は良く通った。

 初日はアグノスとワインを飲んだ後、さすがに鍵をかけろと彼自身に言われ、鍵をかけるようにした。

 その理由が、分かったのは翌日だ。


「ちょっと! 開けなさいよ!」


 ここ数日、ずっとこの調子だ。


「もう! 食堂が片付かないでしょ!」

「あたしの分は用意しなくていいって言ったじゃない!」

「こっちだって、そういうわけにはいかないって何度言わせんのよ⁉」


 何度このやり取りをしただろう。


「とにかく! はやく食べちゃってよね!」


 まるで母親のような言葉に、マリアは苛立った。

 でも、それもすぐに落ち着く。

 怒りに任せて起き上がり、支度をして、食堂に行けば、さっきのやり取りを忘れられるくらい良い匂いが鼻腔を擽るからだ。

 マリアの席はすでに決まっていた。

 アグノスの席の向かいだ。

 だが、朝に彼がそこに座っていることない。彼もまた朝が苦手だ。魔族の魔王ならば、それは当然なのかもしれないが、この城にいると朝に手のかかる大きな少年のように思えるから不思議だ。


「お腹空いたぁ」


 席に着けば、リリィがマリアの分の朝食を運んでくる。

 そして、毎回。


「なんで魔族より朝寝坊なのよ?」


 と、手際良く並べながら睨み付けてくる。


「ここの魔族がおかしいのよ」


 マリアが欠伸を噛み殺しながら言えば、リリィも肩を竦めて、「まあ、それは否定しないわ」と返した。

 その間にも、「これ、パン用のジャム」「これは今朝子供達が収穫した野菜のスープ」と説明はしてくれる。

 マリアは、それを「ありがと」と言いながら、受け取った。

 見た目はやはり人間の食事と変わりない。アグノスが好きらしい。

 小麦やスパイスは、ここに出入りしている人間の商人から仕入れているとアグノスが説明してくれた。野菜は、城の中庭でソフォスの趣味で育てている菜園で収穫しているのだ。収穫を手伝っているのが、この城に住む魔族の子供達だった。

 手塩にかけて作られた料理に舌鼓を打ったマリアは、「ごちそうさま」とナイフとフォークを置く。


「で、あんた、いつまでいんのよ?」


 そのタイミングでリリィが、いつも問いを言った。


「ちょっと散歩してくるわ」


 そして、マリアもいつものように答えず、席を立った。

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