七話 魔王の城2
「ご想像されていることは、我々がその稀有な人物に娘達を売っている、でしょうかねぇ」
「あ、……ま、まあ……」
内心に抱いた恐ろしい想像を言い当てられ、マリアが視線を泳がす。
ソフォスはまた軽やかに笑う。
「ほっほっ、そうご想像されることは仕方のないこと」
それから、ソフォスは白く長い髭を撫で、皺に埋もれた深緑の瞳をマリアに真っ直ぐ向ける。アグノスの赤い瞳とは全く違う威厳が、そこにはあった。
「娘達は皆身寄りがありませんから。人間達の間でなら、そうやもしれませぬな。ですが、我らにとって、娘を売ったところで何も得はない。我らが任している人間が、どうかは分かりませぬがね」
「クレメントはそんなくだらねぇことしねぇよ!」
アグノスがムッとした声で反論した。
ソフォスが、苦笑し頷く。
「私もあの男のことは信用しておりますとも、アグノス様。しかし、人間は欲があってこそ」
「分かってるけど……」
「まあ、アグノス様の信頼を勝ち得ているあの男は、それ以上にあなた様を慕っている。大丈夫でしょう」
ソフォスの言葉に、アグノスはくすぐったそうに笑った。
ソフォスが再度マリアを向く。
「話が逸れてしまいましたな。さて、どこまで……あぁ、我らが任している人間に、娘達を預けた後ですな。彼らがその後どうしているかは、先ほども申しましたが、人間達のやり取り。ですが、受けている説明では、別の町で仕事先を見付けて暮らしているそうですじゃ」
マリアは、今目の前にいる存在が、本当にこの世界で恐れられている者達なのかを疑った。自身の持ち合わせるすべての常識と経験を、一度クリアにしなければならないとまで思っていた。
「じゃあ、生贄にされた子達は生きていて、今もちゃんとどこかで暮らしているのね」
「ええ、少なくとも、我々はそう聞いております」
柔和な声音でソフォスは言った。
嘘を吐いているようにも見えない。
マリアは、自身の肩の力が抜けて、心の底から安堵している自分に気付いた。
(じゃあ、あたしは一体何のためにここに来たの? いや、それより、この後どうしよ?)
マリアが、今後を考えようとした時。
「わたしは出てかないから」
リリィが低く言った。
「リリィ、何度も言ったけど、ここには」
アグノスの低くも優しい声音を、リリィはどこか哀しそうに首を横に振って、遮った。
「人間の町に戻りたくないのよ」
リリィからハッキリと発せられたそれは、食堂内に一瞬響き、消えていった。
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