【短編】冬の夜と森の主
結構珍しい形態の小説を執筆してみました。
寒い冬風が吹く夜中、外見年齢13歳ほどの樹木製のロリ少女と、若い青年の話し声が深い森中のある一か所で小さく響いた。
広い森とはいえ、それが夜中ならば日中よりはよく響く仕様になっていて、ロリ少女は気に寄りかかり、もう1人の青年は木の上で楽な姿勢を取って寝ころんでいる。
「主さん。またちょっといいっすか?」
「…………」
「無視は酷いっすよ……」
「……スマン。別に悪いわけじゃないけど、その……主って呼び方はちょっとやめてもらえんじゃろうかと思ってな」
「おっ、ついに主さん主辞めるんすか?」
「辞めれるものなら辞めたいんじゃけど、このご時世。我は森からは当分離れられそうにないからのぉ……」
「とは言っても主さん、それ以前にこの森から一生離れる気ないっすよね!」
「――よく知っておるな。子供のくせにやりおるわい」
「そんなこと何年も付き合ってる中っすし、分かりますって。それに子供っ……すか? 少なくとも、こっちは主さんより身長は高いし、もう歳も16っすよ! 少なくとも主さんよりは高齢っす!」
「高齢という言い方もあれだがそうじゃったな、子供ではないかもしれぬ……じゃが我は今年で確かもう少しで400じゃった気が――」
「…………」
「…………?」
「――もういいっす。人間って、最高でも120年くらいが限界なんすよ。それ以上は、どうあがいたって無駄なんすよ。冗談めかした嘘はもういいっす」
「お前さん、まさかまだ我を人間じゃと思っておるのか?」
「もうっ、当たり前っすよ……。だって、ちゃんと揃った目と鼻と口と耳が付いてるじゃないっすか。それに長い髪だって……」
「うむ、それはそうとこれは仮の体じゃ。本体ならあそこにあるでっかい大木じゃ。この森に入ってきた冒険者に急に木が話しかけてきたら絶対変じゃろ?」
「……そもそもこの森こんなに広いっすし、そもそも人と出会わないっすよね? それにこんなところに冒険者が欲しがるような宝があるってことっすか?」
「――そんな宝などこんな神聖な森にあるわけがなかろう。じゃが我は森の管理者みたいなもので、瞬時にこの森のいたるところに飛んでいけるんじゃよ!」
「でも、森中で急に知らない少女に話しかけられる方が不気味だと思うっすけど……。まぁそれはそうと、やっぱり主さんはこれからも森の主続けていくってことっすよね」
「わしがこの森の管理者をこれからも続ける事実は変わらぬよ。じゃが、ほら。主って言うと何か傲慢な感じがして怖がられるじゃろ? じゃから、森の主とは呼んでほしくないものなんじゃよ……」
「別に誰もそんなことは気にしてないっすよ! そんなの気にしてるのって多分この世界で主さんくらいっすから」
「ほら、また言う!」
「はぁー、今日も何もしてないはずなのにだいぶ疲れたから今日はもう寝るっす」
「……うむ、そうじゃな。わしも今日は夜明かりを眺めることにするかの」
「主さんも夜は冷え込むっすから気を付けるんすよ」
「それくらい分かっておる。昔に比べれば最近はかなり冷え込む日が増えてきたようじゃが、これはどういうものなのじゃろうか。最近は寒冷化が進んでおるしのぅ……」
「そんなのどうでもいいっすよ。それよりこっちはもう寝るから、話の続きはまた明日っす……」
「――――」
ロリ主は青年が寝たのを確認すると、近くにあった大木に小さい手を触れて、その大木を優しく撫でるとともに一言呟いた。
「……この大木もだいぶ疲れてきたようじゃし、そろそろわしも節目じゃろうかのぅ。あの青年にには悪いが、この森もあと数分で全てが終わる。この森の管理者としては長い年月じゃったな、そしてまた新しい主が生まれるであろうな……」
そう言い残した直後、森の中心の大木は根元から一気に冷え込んで次々と凍り付き、寒気が葉の隅々まで行き届くのとほぼ同時に、氷のくずとなって地面へ崩れ落ちた。
ブクマ、評価等してくれると感謝です(一一")