表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーリンを訪ねて   作者: 青沼サイ
9/18

モルガン家のタペストリー

時刻は6時を過ぎ、段々と日が落ちて辺りは暗くなり始めた。人の流れは特設ステージがある街の中心へと向っている。6時半から行われる、花火と共に始まるマジックショーがあるためであろう。二日間行われたマーリン祭りのフィナーレであり、最大の目玉である。ほとんどの人がそちらへと向かう中、オーウェンはその人の波に逆らい歩いて行く。家から取ってきたタペストリーを持って、街の中心から外れた、マーリンの樫の木がある場所へと急ぐ。


「それがそうなの?」

オーウェンが樫の木に着いた早々、兄と共にそこで待っていたリリベットがそう尋ねた。オーウェンは彼女に持っていたタペストリーを広げて見せる。

「ああ。俺のひいばぁちゃんが刺繍して作ったらしい。それで、そのひいばぁちゃんは、そのやり方をひいひいばぁちゃんに教わったって。そうやってずーっとモルガン家に伝わってる刺繍の模様なんだって聞いてる。」

オーウェンが両手で大きく広げたタペストリーは、正方形と三角形をくっつけた、まるで盾のような形のタペストリーである。リリベットは、それをまじまじと見ながら、

「これって、ウェールズの国旗にもあるドラゴンでしょ?こっちは2体いるのね。それで下のこれは太陽?目、みたいにも見えるわね?」

とそれぞれの模様に指差しながら言った。彼女が言ったように、くすんだ黄色いタペストリーには、中心の部分に赤と白のドラゴンが向かい合って刺繍されている。そして彼女が指摘した、三角形の部分にある、太陽のような目の刺繍は濃淡がある茶色で描かれている。

「さぁ?俺も目なのか太陽なのか、よく知らないな。多分両方なんじゃないか?」

リリベットの問いにオーウェンも首を傾げつつ答える。

「それはね、目の虹彩を表しているんだよ。」

と、突然レナードが口を開いた。そして、手に持っているものをオーウェンに見せるように掲げる。彼の手の中には黒ずんだ棒のようなものがあった。

「目の虹彩?どういう意味ですか?それにそれは・・・もしかして、マーリンオーク!?取ったんですか!?丸ごと、いや、一部!?どうやって!?」

オーウェンはその黒ずんだ物が、展示されているはずのマーリンオークの一部だとわかり驚愕(きょうがく)する。レナードは微笑みながら、

「それは愚問だね、オーウェン。言ったろ?僕は魔術師だ。」

と言い、さらに言葉を続けた。

「このマーリンオークの中に魔術の跡が見えたんだ。とても奥深くに小さく、模様のような魔術の跡がね。そしてその模様を君の目の中にも見つけた。」

レナードはオーウェンの目を指差し、そしてタペストリーへとその指を向ける。

「マーリンオークの奥に潜んでいた模様に君の虹彩、そしてこのタペストリーの下にある太陽のような目の刺繍。全て同じ模様だ。おそらくこの模様は、モルガン家の人間のみが受け継いでいる、目の虹彩の形なんだろうね。」

初めて知る事実に驚き、戸惑いながら、改めてタペストリーを見るオーウェン。

(俺の目の虹彩?だから、ここはブラウンで刺繍されているのか?そんなこと、家族の誰も俺に教えてくれたことないぞ?)

しかしレナードは、オーウェンの虹彩とタペストリーの模様は一致すると言う。そしてマーリンオークの奥にも同様のものが見えたと。

(俺には何も見えなかったぞ?あの黒い塊の奥?どうなってんだ、この人の目?)

そしてオーウェンはレナードへ、ずっと抱いていた疑問をぶつけた。

「レナードさんの目、どうなってんですか?誰かがあのマーリンオークの中に模様を見たなんて話、聞いたことないですよ?」

そのオーウェンの問いに、にっこりとし、

「うん。普通の人間の肉眼じゃあ無理だろうね。」

と言い、おもむろにサングラスを外して、アンバー色の瞳を指差しながら、

「こっちの目はね、倍率を上げて拡大して見れるようにしてるんだ。そうだな、何枚かの(とつ)レンズが入ってる状態に近いってやつだ。つまり顕微鏡や内視鏡だと思ってくれればいい。」

と言った。オーウェンは驚き、

「な、えっ!?!?顕微鏡?あの、それって生まれつき、とかなんかですか!?」

とレナードに向かい言った。彼はサングラスを再びかけ直しながら答える。

「またまた愚問だね、オーウェン。魔術で変えたに決まってるだろ?そんな目を持って自然に生まれる人間、ありえないよ?」

そのレナードの口ぶりから、彼は自身の目を、自ら魔術で改造したのだと察する。

(だからあんな遠くからでも字が見えたのか?)

オーウェンは、レナードの瞳の秘密を知り、今までのことに納得しかけたところで、彼のある言葉に引っ掛かりを覚える。

(顕微鏡か内視鏡。凸レンズが何枚も・・・なんかこの前、理科の授業でやったな。確か凸レンズはー。)

オーウェンがその引っ掛かりが何なのかを掴もうとして、思考を巡らせる。だが、レナードが再び言葉を紡ぎ始めたために、その思考は中断されてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ