クリスタルの洞窟
レナードを先頭にしてオーウェン、リリベットと一列になり穴を降りて行く。下に降るにつれて段々と天井が高くなり、オーウェンの感覚で100メートルくらい降りた所で広い場所へと出た。その広い場所にはクリスタルが所々に埋まっており、3本の懐中電灯の光を反射させ、地下とは思えないほどの明るさを放っていた。その光景にオーウェンは思わず、
「すごい、こんないっぱいのクリスタルがこんな所にあるなんて・・。」
と呟いた。グルリとその場で一周しながら辺りを見渡す。大小様々な形のクリスタルが地面や壁に埋まっている。そして奥の方に3つの空洞、道らしきものがあることに気づいた。他の2人に教えようと声をあげようとしたら、
「オーウェン。」
とレナードがオーウェンを呼んだ。彼を見ると、懐中電灯で壁の一箇所を照らし出している。その箇所には金色に光る文字達があった。
「ウェールズ語だ。僕には読めない。訳してくれるかい?」
そうレナードに言われるまま、オーウェンは金色で描かれた文を読み上げた。
「何人たりとも彼の眠りを妨げられない。」
それを聞いたリリベットが、
「彼ってマーリン?じゃあ、ここにマーリンがいるってこと?」
と言った。それにレナードが、
「さぁて、どうかな?」
と言って、奥の3つの道へと懐中電灯の光を当てながら、
「3択だ。オーウェン、君が選びな。」
と言った。いきなりの指名に驚き、
「え、何で俺?」
と尋ねると、
「だってここは君の土地だ。僕らはイングランド人だからね。土地勘がないよ。」
とレナードは言った。このような地下で土地勘など関係ないのでは、と思ったオーウェンだが、
「・・・じゃあ真ん中で。」
と言われた通り、何となく選んだ。オーウェンが選んだ真ん中の道を進んでいく3人。道は大人1.5人分程の幅しかなく、降りてきた時同様に縦一列で3人は進む。先程の広い空間同様に、この空洞内にも上下左右クリスタルが埋まっている。しばらく進んだ所でリリベットが、
「ねぇ、先に何も見えないの?」
と先頭を歩く兄に声をかけた。その声に振り向きながら、
「この僕でも今の所、全然何も見えないね。ずっとまだ同じように、このクリスタルの道が続いてるみたいだ。」
とレナードは言った。オーウェンはそこでレナードがサングラスを外していることに気づいた。やっと外したのか。そもそも地下に入る前に外せばいいのに、とレナードを不思議に思うオーウェン。
「ん?」
と突然先頭を歩くレナードが声を出した。気になりレナードの向こう側をよく見ようと、オーウェンはやや右へと顔を傾けた。しばらくすると光る出口らしきものがオーウェンの目に見えてきた。
(マーリンが眠る場所か?)
と思いその場所へと出ると、クリスタルが所々埋まり、前方に上へと続く坂がある広い場所に出た。辺りをよく見渡せば、ウェールズ語で描かれた“何人たりとも彼の眠りを妨げられない“の文字が壁にある。そして今出てきた道を振り返れば、両脇左右に一本ずつ道がある。3つの道に地上への坂と、壁のウェールズ語。
「・・・最初の場所に戻ってきた?」
リリベットがそう兄へと尋ねた。それにオーウェンは、
「え、だって途中他に道なんかなかったぞ?ずっと一本道だ。」
と言った。レナードは振り返って3つの道を見つめていた。彼は持っている懐中電灯を肩にトン、トンと何回か当てながら、何か考えている様子で
「ふーん・・・。」
と言ったと思ったら、持っていた懐中電灯を勢いよく前方に投げた。その懐中電灯は回転しながら、下に落ちることなく、そのまま左側の道へと飛び込んでいった。懐中電灯の光がクリスタルを照らしながら奥へとクルクル飛んでいくのが見える。奥へ奥へとその光が消えてゆき、しばらく経つと右側の道の奥から光が来るのが見えた。そしてクルクルと飛ぶ懐中電灯が右側の道から現れ、レナードの手の中に収まった。そして、彼は再び同じことをその右側の道へとした。すると懐中電灯は、今度は真ん中の道から現れて帰ってきた。呆気に取られてその様子を見ていたオーウェン。
「ループしてる?それとも空間が捩れてる?」
少しも驚いた様子を見せずに兄へと質問するリリベット。
「両方かな?」
と懐中電灯の光を3つの道それぞれに照らしながらレナードが答える。それにリリベットが、
「奥の方に別の空間を隠してる可能性は?」
と聞く。それにレナードは、
「ないね。」
と簡潔に答える。どういうことか、さっぱりわからないオーウェンは、
「あの、どういう意味ですか?」
とレナードに尋ねる。それにレナードはサングラスを胸ポケットより取り出し、それをかけながら、
「つまりハズレってこと。いや、ある意味当たりだったかな?ここはダミーだよ。帰ろう。これ以上は時間の無駄だ。」
そう言って地上へと続く坂へ向かうレナード。それにリリベットも続く。戸惑いながらオーウェンも彼らに続こうと歩き出すと、ふと壁の文字が目に入った。
『何人たりとも彼の眠りを妨げられない。』
そう金色に踊る文字達が女の声でオーウェン達に語りかけてる。そんな気がした。