表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーリンを訪ねて   作者: 青沼サイ
4/18

マーリンの丘

翌日の早朝からオーウェンはレナード、リリベットと共にマーリンの丘と呼ばれる場所へと出かけていた。マーリンの丘とは、丘の一番上にある洞窟にマーリンが眠っていると言い伝えられている丘である。現在その丘の周辺は牧場や、土産物店、博物館などが作られ一つの観光スポットと化している。街から少し離れたその場所は通常でも人は少なく、特に今の祭りの時期で早朝ともなればほとんど人はいない。車を駐車場に止め、丘の上へと続く道を登って行く3人。途中でレナードが前方を指差し、

「リリベット、あの看板見なよ!ウェールズ語しか書いてない!すっごい不親切!あはは、全っ然読めないや。少しは勉強してきたんだけどなぁ。あんな変な(つづ)りでどう読むんだろ?」

と言った。朝からテンションの高い兄に対しリリベットは、

「・・・通常の人間がちゃんと見える距離以内になってから話しかけてくんない?まだ文字なんか全然見えないわよ、バカ。」

と不機嫌そうに言った。オーウェンはその会話から、どうやらレナードは前方4、5メートル先にある看板の文字が読めるらしい、と察した。オーウェンも目を凝らして見ようとするがここからでは看板らしきものがある、としか認識できない。しかもレナードは昨日と一緒で色の薄いサングラスをかけている。

(どんだけ目がいいんだ?とゆうか昨日と一緒でスーツと革靴って・・。)

マーリンの丘はトレッキングコースにもなっている。レナードのスーツと革靴はこの場所に相応しい格好とはいえない。ますます目の前の男が妙に思えてくるオーウェン。そうしてしばらく歩いていると3人は丘の天辺へと着いた。天辺からは丘の(すそ)に広がる牧場や建物、そして街の景色が一望できる。しかし、そこには洞窟らしき場所は見当たらず、ただ草木が広がるだけだった。

「何もないじゃない。」

不貞腐(ふてくさ)れてその場に座り込むリリベット。そしてオーウェンが、

「だから言ったじゃないですか。洞窟があったって言われてるだけで、俺も見たことないって。」

とレナードに向かって言った。レナードはそんな子供達の抗議を無視し、1人淡々と周辺を歩き回っている。それを見てため息をつきながらリリベットが、

「てゆーか何で洞窟なのよ。」

と言った。それにオーウェンが彼女の方へと歩み寄りながら、

「知らないのか?マーリンはここの洞窟に閉じ込められてるって伝説。」

と言った。リリベットは隣に立ったオーウェンを見上げながら、

「何それ?閉じ込められてる?眠ってるんじゃなくて?何で偉大なる魔術師が閉じ込められてんのよ。」

怪訝(けげん)そうな顔で聞いてきた。オーウェンはリリベットを見下ろし、

「マーリンの弟子か恋人だったっていわれてる女に、この洞窟へ(おび)き寄せられて閉じ込められたんだ。あと、岩を落とされて潰れて死んだんだって話もあるな。」

と答えた。それを聞きリリベットは顔を思いっきり(しか)めて口を歪め、

「うげっ。何でそんなことすんのよ。てゆーかダサっ!すっごい魔術師だったクセにそんな最後とか、マーリンかっこ悪すぎ。」

と言った。それを見てオーウェンは、昨日からリリベットは変な顔ばかりするな、と関係ないことを思っていた。昨日、今日と短い付き合いだが、彼女はオーウェンの前で常に不機嫌か偉そうな態度である。残念な美少女というワードがオーウェンの頭の中に浮かんだ。

「ま、確かにリリベットのいうことにも一理あるねぇ。」

そう言いながらレナードが子供達の方へと戻ってきた。

「女に騙されて閉じ込められた、なんて僕だったら恥ずかしくて出てこれないね。一生引きこもっちゃうよ。」

と眉を下げつつ言うレナード。そして、彼は片足で3回トン、トン、トンとその場の地面を踏み鳴らした。

「だから、みんなでその引きこもりを引き()り出しに行こうか?」

そうレナードが言った瞬間、彼が立っている地面が一瞬光り、彼の少し手前に黒い穴が現れた。オーウェンは驚いてレナードの方へと駆け寄り、その穴を覗き込む。その穴は大人1人が入るには十分な大きさで、下へとなだらかな坂となって続いていた。唖然(あぜん)としながら目の前のレナードを見上げれば、彼は両手にいつの間にか一本ずつ懐中電灯を持っている。

「さぁ、地下探検だ!何が出でくるかな?奇妙な生き物、例えばでっかいもぐら、巨大ミミズかクモか、動くガイコツ、もしくは地底人とか!?楽しみだねぇ。」

レナードはニコニコとご機嫌な様子でそう言って、オーウェンに2本の懐中電灯を渡した。それを受けとりながら、地下探検という言葉に少年オーウェンもワクワクとしてきていた。渡された2本のうちの1本を後ろにいるリリベットに渡そうと振り返る。すると彼女は口を半開きにし、顔を歪ませながら、

「最っ悪。」

と呟いていた。

(変な顔。やっぱり何だか残念なやつだな。)

とオーウェンは思った。

ウェールズでは公用語の英語の他にウェールズ語を使用しています。

英語 Merlin (マーリン) ウェールズ語 Myrddinマーリン

スペルも発音も全然違います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ