マーリンの弟子のただの子孫
「どうしてそれを知ってるんですか?」
オーウェンは心底驚きレナードを凝視した。レナードが言う通り、オーウェンの家、モルガン家は魔術師マーリンの弟子の子孫だと言い伝えがあった。その質問にレナードは、
「僕の家も古い魔術師の家系でね。色々と古い記録が残っててさ、それを漁ってたら君にたどり着いたわけ。」
と答えた。そして、
「マーリンの弟子の子孫である君が一緒に探すの手伝ってくれるなら、色々と早く済むかなぁって思ったんだけど。どうかな?報酬も支払うよ?」
と続けた。それにオーウェンは、
「確かに俺の先祖はマーリンの弟子だったって話ありますけど、俺は何も知りません。マーリンについて知ってることなんか、他の人たちと大体一緒です。だから、役に立てるとは思いません。」
と言った。オーウェンの中で、レナードは変な大人で関わらない方がいい、という結論が出ていた。一刻も早くこの妙な男から離れたいと思ったオーウェンは、
「じゃあ、俺、家に帰らないといけないんで。」
といい、足早にその場を去った。
早歩きで街中を歩くオーウェン。しばらくすると、その彼の背中へと呼びかける声がした。
「ちょっと!オーウェン・モルガン、待って!」
彼のフルネームを呼ぶ声に振り返れば、先ほどレナードと一緒にいた彼の妹、リリベットが追いかけてきていた。兄の代わりに説得をしにきたのかとギョッとするオーウェン。しかし彼女は、
「ねぇ、この辺にケータイ充電できるとこない?もう少しでなくなりそうなのよ。」
と聞いてきた。
「・・・それなら観光案内所でできると思うけど。」
とオーウェンが答えると、
「そう。じゃあ、案内して。」
と偉そうにリリベットは言った。オーウェンは内心迷ったが、観光案内所はすぐそこの為、渋々案内することにした。道すがら、オーウェンは両脇に広がる露店を眺めていた。祭りの時期は毎年こうして様々な雑貨や食べ物を売る露店が出てくる。後ろに続くリリベットを見れば、彼女もその露店が売るアクセサリー類などに目を奪われている。たくさんの露店が立ち並ぶ中、オーウェンは鉢植えの植物を売る露店に気がついた。なんとなくその露店を覗いてみると、花、小さな木、そしてサボテンが置いてあった。そのサボテンは20cmくらいの大きさで、短い棘をつけ、花を咲かせていた。サボテンなんか珍しいな、と思い、オーウェンはふとそのサボテンの棘を触ってみようと手を伸ばした。すると突然、
「ちょっと、あんたやめなさい!」
とリリベットが横からオーウェンの手を掴んで止めた。次の瞬間、目の前のサボテンが一回り大きく膨らみ、その体の棘を急激に伸ばしてきた。
「つっ・・!」
その伸びた棘の何本かがリリベットの腕を刺した。彼女の腕を刺したサボテンはみるみると縮んでいき、元の大きさよりもさらに小さくなり、完全に鉢植えの中へと潜り込んでしまった。何が起きたかわからず混乱するオーウェン。
「おい、なんだよ今の!?お前、大丈夫か!?」
と腕を抑えてうずくまるリリベットへ声をかけるオーウェン。それに対し彼女は少々苦しげに、
「大丈夫・・なわけないわよ。ちょっと肩貸しなさい。レナードの所に戻るわよ。」
と言った。彼女の腕を見ると、真っ赤に腕全体が腫れ上がっていた。オーウェンは言われるがまま、彼女に肩をかし、レナードがいる場所へと向かった。