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ちゃぶ2

 わたしは詩葉うたばあや。またの名を、赤点女王。中学一年生。


 四方が山に挟まれた谷村───「サカイナ街」に住んでいて、家族がいないため村長などから支援をうけてきました。


 そして、最近、苦痛な程に罪悪感を抱いています。


 ────わたしの別名の通り、とにかくテストの点数が低いのです。


 それで今年は我慢して、サンタさんにお願いしたことは「頭が良くなりますように」としたんですが……


「『変な人が六人来ますように』って頼んでないのに───!!!」


 ベッドと木机と、簡易な家具が置かれただけという、シンプルな部屋。深夜。オレンジ色のライトが、悩ましいくらいに眠い。


 それまでずっと一人暮らしをして来たわたしは、きっと緊張して真っ青に見えているのでしょう。どうやって話に乗っていけばいいのか。殺され───はしないと信じていますが、今更だが安易に家に入れてしまったことを後悔した。


 ────ちゃんとやって行けるのかな、わたし。


「おい、あや」


「は、はひっ」


 角隅の机に向かって、現実逃避していてわたしは、バシバシと頭を叩かれてとっさに振り返りました。


 りく、という名の男の子。ツヤがかかったトゲトゲの黒髪で、色が変わった髪が一束だけ左目を隠すように伸びている。


「腹減った。ハンバーグ出せ」


「な、なんであるってわかったんですか!?」


「いや、普通に冷凍庫開けりゃわかるだろ」


 そう言って楽しげに部屋から出ていった。先がカールしたブロンドヘアの少女(高校生らしい)、「あすく」がそっとわたしの頭を撫でながら、りくの後ろ姿を睨んだ。


「うわぁまじないわぁ。こんな可愛い女の子にあーんな酷いことをするなんて。」


 それから、わたしのほっぺを弄りながら、


「大丈夫?痛かった?」


「あ、いえ大丈夫でふ…ありがとうございます。……彼のこと、移転して来る前から知っていたんですか?」


「りく?ううん。さっきあったばっか。それにしても、すぐに環境に馴染んじゃってるよね、あいつ」


「……あすくさんもですよ。そのパジャマ、わたしがベッドに置いてあったやつですよね」


「女の子は特別なの〜!」


 りと、あすく。それから今他の部屋にいる袴姿の「いりあ」さん、小学生の「こまち」ちゃん、不思議な「ありん」さん、優しそうなおにぃさん「とほ」さん。


 彼らとは、わたしの家の、地下室図書館でばったりあって、その後お互いの事情を知り合ったのです。


 ───そう、わたしが「いつものアレ」をするためにそこに向かった時の事でした。


「赤点、また取っちゃいました……」


 絶対先生の問題の出し方が不親切だとか、あのときは調子がたまたま悪かったんだとか、ブツブツ文句を言いながら、しょんぼり地下へ向かうわたし。


 この地下室は特別な仕掛けになっています。もともと厳重な警備がなされていた貴重書類の保管所だったらしく、そのためか図書室へ行くためには一度深い階段を下ってから、棚をどかして上がってくる必要があります。


 よって、夜中にそういう行動をすると、屍体に命が宿って棺の中から出てきたかのように見えるのです。わたしは勿論この家に自分一人しかいないと思っていたから、あの六人をみたときは驚き半分恐怖半分で言葉も出ませんでした。


 が、おそらくわたしより、彼らの方がびっくりしたでしょう。


 しょうがないことではあるけど、わたしが赤点テストを捨てに図書室に入った時に、周りを罠にでも掛かったみたいに六人に囲まれ、「お前は誰だ」とりくに殺気の籠った声を向かれました。


 そのときとっさにでた言葉。


「ちゅ、中学一年生です」


「それにしても、あやお前面白いよな。誰だって聞かれてふつう学年答えるかよ」


 今まで一度でもあっただろうか、七人で机を囲んで食事をしたことが。


 りくがハンバーグをナイフで丁寧にカットしながら、わたしをちらりと見た。


「しかたないじゃないですか。殺される寸前でしたから」


 マカロニサラダをフォークで刺して、口に入れる。りくを睨む。


「殺さねぇよ。つーか、それならなおさら言葉に注意するだろ」


「もういいじゃない、平和に戻ったし。あぁ、でもここじゃあガラケー使えないなぁ。どうしよ、せめてそるとと……あ、あとパパママには連絡しておきたいのに」


 あすくが話を上手く丸める。


 が、その言葉に、また話が盛り上がりました。


 パパママよりも、先に連絡をしておきたい人────それはもう…


「そるときゅんって、彼氏さん!?いいなぁ、うらやま〜♪」


 こまちが頬ずえをつきながら、何かを頭の中で妄想している。わたしとおなじくらいの歳なのに、もう恋愛の話題に乗ろうとしています。意識が高いなぁ。それに、あすくさんも「そうそうそうそう」と恥ずかしがらず嬉しそうにしているし…


「つーかお前ガラケーって、いつの時代のひとだよ」


 いつの間にチーズインハンバーグを平らげたりくが、とほの皿からチョコミニクロワッサンを一つつまみ上げて、口に詰め込んだ。


「あー、聞いたことがあるよ、僕は使ったことないけど、パカッと真ん中で半分に折れるやつでしょ。」


「そうそう、圏外になると使えないのよ」


 困った顔で、キラキラシールやリボンがいっぱいに飾られた携帯を撫でるあすく。


 それをみて、なにかを思い出したのか、ポケットを探るこまち。スカートから、何かをとりだす。


「ガラケーは使ったことないけど、『ラ・フランス』ならあるよ♪」


 得意げに自分のスマートフォンを揺らす。


「そのピンク色の箱が?」


「なによ、その言い方っ。あたしのこのスマホ、アプリ何十個も入るの。ねね、すごくない?ねね、褒めて褒めて〜」


 りくに話すのを諦めたのか、あすくにじゃれつくこまち。


「何十個?少…」


「りく、続きは言わない方が身のためだよ」


 会話が、永遠と続いていく。そういえばさっきから一言も喋らなかったいりあさんが「一回外出る」と言ってどこかへ行ってしまった。それをみて、あすくが「あれ、なんか静かだなぁ」と首を傾げる。


 ちなみに今の時間、夜十一時。明日は学校がないので、滅多にない事だし、べつにこのままでもいいかなと思った。


 まぁ、スマートフォンやら、ガラケーやら。わたしが知らないワードが飛び交う空間は、ちょっと居づらいけど。


 そっと、ありんがそばに寄ってくる。それから、わたしの頭を撫でてくれた。


「ありん…さん」


「ん。別に気にせんでええやで。うちもガラケーやらスマホやらは持っておらんし」


「……は、はい」


 それ以上は二人とも喋らなかった。


 みんなどこかからこの村に移ってきたとはいえ、思ったより大きなギャップが存在していた。───ただ単に、どんなものを持っているかという差ではない気がしましたが、その時のわたしは、そんなことなんか気にしてはいられませんでした。


 席を立って、リビングから出ようとする。


 その気持ちを察してくれたのか、わたしが自分の部屋のドアノブに手をかけた時、背後からあすくさんの声がした。


「あ、あやちゃんごめんなさい!自分たちだけ盛り上がっちゃって」


「いいんです。」


「…もしかして、何か悩んでるの?」


「お相談、のるわよ〜!!」


 あすくとこまちがかけ寄ってくる。


「……実は……」


「実は?」


 言葉が喉まで登ってきては、詰まって飲み込んでしまう。どうしても、言いづらかった。別にみんなが悪い訳では無いけど、でも……


 色んなことがありすぎて、頭が混乱していた。


 静まり返るリビングに、スッキリした男子の声が上がる。


「……もしかしてお前───赤点女王の名を変えたいのか?」


 ……悔しいが、まさしくその通りです……。


「は、はい。なんか…抜き打ちテストに弱くて」


「それは実力問題じゃね」


「でも!いつ抜き打ちテストをするのか先生どーしても教えてくれないんです。酷いと思いませんか」


わたしの一言に、みんなが苦笑いする。


「あやちゃん落ち着いて!」


「一回深呼吸しよう」


「ちょっと待ってください。わたし…何か言い間違えましたか??」


「「うん、ばっちり」」


仕方ない、説明してやろう、とりくが立ち上がる。ポケットに手を突っ込んだまま、近づいてくる。


え、えっ。なに……?


「例えばな、お前をさ、明日の夜奇襲するっつったら文法的におかしいだろ……────っておい、なんで部屋に逃げるんだよ!出てこい!────え、俺が悪い?俺が悪いのこれ!!??」


部屋の中。


箒を抱えたままうずくまる。


わたし────襲われるの!?






✳✳✳


いりあ「ただいま。ん…?なんだ静かだな。あやはどこいった」


りく「……」


こまち「あやちゃんは今部屋の中だよー」


りく「……」


いりあ「…なんだ。なにがあった」


(あすくから説明を受けるいりあ)


いりあ「なるほどな、つまり──りく殿が我と一戦したいと言うことだな!!受けて立つぞ!!!来い!」


りく「どっからそうなるんだよ」

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