ちゃぷ1
ちゃぷ1
灰塵と、蜘蛛の巣が織り成すカーペットに覆われ、小人の高楼のようにたち並ぶ無数の本棚が回廊と迷路を編む。
仄かに灯された燭台の光に惹かれ、百花の香りまとう風が周辺で渦巻く。
儀式をするように、捨てられた地下図書室に囲まれた男女計六人。
中央に置かれたロウソクや、自分の真正面に立つ人を訝しげに、あるいは不安げに見つめる。
ついに沈黙の間に耐えられず、ブロンドヘアの少女「あすく」がスカートを気にしつつしゃがみ込んだ。歳は十五、六といったところだろう。
「みなさんは…なんなんですか…一言も喋らないで。ではでは、最近の流行りについてでもお喋り…」
周りを呆れた顔で見渡すが、怯えて身を棚の隙間に縮こまろうとしている女の子(小学生だろうか)を除けば大半は緊張がほぐれない様子で、自分を見つめていた。
それに加え、対峙する相手がいかにも年頃の男子だったので、スカートの下が不安になって、再び「なーんでもないでーす」と立ち上がった。
男子の方は、というとだらけて立っていたが、なにかイケナイオーラを目の前から感じたのか、目を逸らして咳払いをした。
再び静かになる。
「たしかに、ここにずっと屯っていても話が進まないな…」
しばらくして、腰に太刀をかけた女性が少し前に進み出て声を張った。みんなの視線が、彼女に集まる。
「「……?」」
「そうだな、名乗るのをすっかり忘れていた。済まない、我は伊達いりあ、という。さて、もういいだろう。我からひとつ提案だ。我なりにいい案だと思っているから、心して聞いてくれ─────ここで……一勝負をしようではないか!!!」
一瞬、なんの話をしているのやら、と顔を見合わせる五人だが、すぐに現状を理解し、
「「伊達さん、落ち着いて!!!」」「「落ち着け!!」」
といい感じにハモリつつ、口々に喚いた。
「まるで処刑を嫌がる罪人どものようだな。何故そのような反応をする。いい案だと思わないのか?」
「罪人って言い方はやめとけって。……ああっわかった、じゃあ伊達さんの『没』案に賛成の人〜、ほらいない」
「『没』という前提こそ可笑しいでは無いか」
「それはともかく…りく、少数派を尊重しよう。伊達さん本人と僕が両手を挙げてるじゃないか。あ、この子が『りく』で、僕は『とほ』と言います」
りくの傍にいたもう一人の少年「とほ」が、そう言って軽く一礼すると、
「まぁでも、全員が全員戦闘の生活から移転してきた訳じゃないから、やめておいた方が良さそうだね」
そのセリフが降りた瞬間、全ての人がはっと顔をあげた。
「移転」
そうだった。
ピリピリしていて完全に頭から吹っ飛んでいた。
ここにいるみんなは、ただ一つの共通点を持っている。
二人同時だったり、一人だったり。自分がいるべき世界から全く違う他所にいきなり移された、人々だ。
魔術戦闘「りく」「とほ」。
音楽学園「あすく」。
妖術刀剣「いりあ」。
変身魔法「こまち」。
転生戦闘「ありん」。
日常も十分カオスに────なれる説。