36話 また、一歩
連続投稿、四話目です。
八月下旬。
夏休みが開けて、教室内にはこれから始まる授業に対する憂鬱と……それとは別の要因による、期待が渦巻いていた。
「なぁ聞いたか? このクラスに女子の転校生が来るって話」
「マジか、この時期に?」
「俺ちらっと職員室で見た、めちゃくちゃ可愛い子だったぞ!」
「ほう、燐道さんとどっちがだ?」
「遠目だけど甲乙付け難──おい怒るな燐道ガチ勢が!」
「でもお前がそこまで言うってんなら期待できるな……やべぇ緊張してきた」
正しくは転校生ではなく編入生なのだが……些細なことだ。
どうやら既に何人かは目撃しているらしく、その容姿に関して一部どころかほぼ全員の男子生徒が盛り上がりを見せている。
無論男子だけではなく女子も、奇妙な時期にやって来る生徒に対して興味津々のようだ。
そんなクラス全体の盛り上がりに混じっていないのは二人。
既に編入生の正体を知っている相葉晴夜と燐道深月だ。
……と思ったが違った、深月に関しては正体を知っていることを仄めかしてちゃっかりと話の中心に収まっている。
晴夜はそこまで器用なことが出来るわけでもないので、いつも通り教室の隅で我関せずとばかりに読書を続ける。
ちらりとこちらを向いた深月が、溜息をついたような気がした。
そうこうしているうちに朝のホームルームの時間となり、担任教師が教室に入る。
「はい、皆さんもうご存じとは思いますが……今日からこの教室に、皆さんの仲間が一人増えることになります」
ありきたりな紹介と共に、扉の外に合図を送る。
一拍置いて扉を開け、入ってきた少女の姿に──クラス中が目を奪われた。
やや色素の薄いブラウン気味の髪。肩程までで切り揃えられたそれが素朴な可愛らしさを引き立て、加えて──合格祝いで晴夜が買った──花をモチーフにした髪飾りがチャームポイントになっている。
目鼻立ちはやや幼さを感じさせるが、綺麗に通った鼻筋にぱっちりと開いた瞳、担任の紹介でころころと変わる表情が大変愛らしい。
想像を超える美少女の登場に、担任の紹介が終わった途端クラスが色めき立った。
「はいはい静かに! 気持ちはわかりますが本人の自己紹介がまだですよ」
そう言われては黙らざるを得ず、しかしクラス中の興味を隠せない熱を帯びた視線が突き刺さる。
圧力に一瞬怯んで目を泳がせるが、泳がせた先で晴夜の姿を見せた途端、嬉しそうに微笑んだ。
その花が咲くような笑顔にまたクラスが騒めくが、今度は怯えず、彼女は大きく息を吸って。
──ここに来るまでに、本当に色々あった。
彼女が突如押しかけてきて、面倒な事情を抱えていると分かってから最初は関わり合いにならないようにした。
けれど、気が付けば想像を超えた彼女の献身、真っ直ぐさ、危うさに目が離せなくなり、いつの間にか彼女の事情に深く突っ込んで、その結果大きなものを彼女に失わせた。
……でも、その代わりに得たものも確かにあって。
それが間違っていなかったことは、教壇に立つ彼女の満面の笑みから確信できた。
彼女の育った異常な環境は、恐らく学校生活にも影響を与えるだろう。ひょっとしたらまた、厳しいことが起こるかもしれない。
けれど、大丈夫。今の彼女と──僭越ながら自分も居れば、乗り越えられる。
そう根拠もなく思いつつ、晴夜は聞き慣れた声の自己紹介に、耳を傾けるのだった。
「──水草星乃香です、よろしくお願いします!」
香水草、一章終了+これで完結とさせていただきます!
二章、学校のお話や深月のお話等多少の構想はありましたが、個人的には新作の執筆を優先したいのでこのような判断にさせていただきましたm(_ _)m
最後までお付き合いして頂いた皆様、本当にありがとうございました!
そして新作、現在プロットを詰めている最中です! プロット完成&書き溜めが多少溜まり次第投稿させていただきます。
前作と同じく、追放物のハイファンタジーになる予定です。三月末~四月上旬頃の連載開始を想定しており、流石に今回のように一年以上お待たせ、と言うことにはならないと思います。
早くお届けできるように執筆を進めていきますので、楽しみにしていただけますと幸いです……!
最後に改めて、なろうでの現代恋愛もの初挑戦、読んでいただきありがとうございました!
それではまた!




