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14話 妹、襲来

 ──ピンポーン。


 それなりの広さを持つアパートに一人暮らし、加えて自宅に遊びに来るような友人も居ない相葉晴夜の家にとって。

 呼び鈴が鳴ること自体、非常に珍しいことである。


 最後に鳴ったのが、一週間前に星乃香が初めて家にやってきた時なのだからその頻度も推し量れよう。


 しかし、その時と違うのはまず時刻が午前十時であること。

 そして、訪問者の正体を晴夜が把握していることだ。


「……来たか」


 正直億劫だと思いつつも晴夜は立ち上がり、ダイニングキッチンから玄関へと向かう。

 そのタイミングでもう一度呼び鈴が鳴って、相変わらずせっかちだと思いつつも晴夜は返事をして扉を開け。



「──開けろ! 健全けーさつだ! 未成年の男が同い年の女の子を連れ込んで一つ屋根の下同居しているいかがわしい現場はここか! 証拠は挙がっているぞ、おとなしく署まで同行しろー!」

「やかましい」



 即閉めた。


 約二か月ぶりに聞くが、やはりよく分からないテンションである。

 間違っても起きがけに聞く類のものではないので反射的に晴夜は拒絶してしまった、物理的に。


 しかし締め出された当人はそんな対応など慣れっこと言わんばかりに、ピンポンピンポンピンポンと容赦なく呼び鈴を連打し続ける。

 晴夜がここにきて以降全く出番の無かった呼び鈴もこれだけ使ってもらえて本望だろう。


「いーれーろー! 入れてくれないとこのまま大騒ぎして、騒ぎを聞きつけたご近所さんにここの人にひどいことされたって泣きわめくから! 勿論他人のふりするからね!」

「微妙にクリティカルな嫌がらせはやめんかこら」


 再度扉を開ける。何せ彼女なら本当にやりかねない。無駄に高い演技力を発揮して晴夜との関係を否定するだろう。

 そうなれば誤解を解く云々以前にご近所さんに迷惑だ。観念して、晴夜は朝っぱらから良く大騒ぎできるなとある種感心する声の主を見やる。


「まったくもー、相川らずノリ悪いなぁ。そんなんじゃ高校でも友達出来ないってゆーかどうせ出来てないんでしょ? お母さん心配になっちゃう」

「お前のようなちんちくりんの母親がいてたまるか。そして残念だったな、週に一、二回ほど話をする人間なら一人居る」

「えっやだ微妙にリアル過ぎて逆に笑えるそれ」


 真正面から向かい合うと頭一つ分見下ろす形になるのは、晴夜と共通の黒髪と青みがかった瞳を持つ少女。


 しかし、共通点はそれだけだ。ぱっちりとした瞳とよく表情の変わる可愛らしい顔立ちは底抜けの明るさを連想させ、毎日の手入れを欠かしていないであろう艶やかな黒髪はお洒落にも気を使ってのツーサイドアップにまとめられている。


 ついでに言うと、中学生である彼女は成績優秀スポーツ万能、生徒会では副会長を務め何なら会長よりも人気があり、校内男子の半数をファンに持つとかなんとか。


 中学生版燐道深月と言って差し支えないこの少女が自分の身内であることを時々疑わしく思うが、大変予想外なことに事実なのである。


「ま、とりあえず久しぶり、お兄ちゃん。生きてて何より」

「そんなに俺は放っておくと野垂れ死にそうに見えるか妹よ」


 そんな晴夜とは何もかも正反対な、けれど確かに血の繋がった一人だけの兄妹。

 相葉晴夜の妹、相葉時雨が本日の訪問者である。


「てゆーか早く入れてよ、電車意外と混んでて座れなかったんだから。もう足すっごくだるいの、お兄ちゃんのベッド貸してー」

「お前はなんだ、県外からわざわざくつろぎに来たのか?」

「そだよ? それと──」


 会話をしている最中で、兄妹揃ってふと気が付いた。

 玄関の先、ダイニングキッチンの壁から顔を出してこちらを窺う少女の姿に。


「ああ、星乃香──」


 時雨が来たぞ、と彼が声をかけるより早く。



「星乃香ちゃんだ────!!」



 凄まじい速度でテンションの振り切れた時雨が晴夜の脇を神速のステップで潜り抜け、そのまま星乃香の胸元にダイブした。


「うわぁ久しぶり会いたかったよー! もー星乃香ちゃんが居なくなってから寂しくて寂しくて! 今日一日暇だよね! いっぱいお話ししよっ! ね!!」

「あ、う、うん! あたしも会えて嬉しいよ、しぐちゃん」


 兄に対する愛情表現の百倍は軽く超えている……いやこの表現は適切ではないな、ゼロには何をかけてもゼロだ。

 ともかく、もはや実兄など眼中に無いと言わんばかりの甘えぶりである。


 対する星乃香も突如胸に飛び込んできた時雨に戸惑いつつ、嬉しさを滲ませた声で時雨の頭を優しく撫でつける。


「……まぁ、そうだよな」


 晴夜も、ちょいちょい星乃香から聞いて知っている。

 星乃香はここに来る前の二か月、相葉家で生活していた。つまり晴夜と違って相葉家で暮らし地元の中学に通う時雨とも同じ家で交流があったということ。


 そしてどうやら、その期間で時雨は尋常ではなく星乃香に懐いたらしい。


 元より時雨は、晴夜とは真逆で外向的。他人と話すことを人並み以上に好むタイプだ。


 加えて、晴夜を中心とした相葉家の複雑な事情。それらによって生まれた気まずさを形成する要因として……実は時雨の存在も大きな役割を果たしてしまっているのだ。


 そんな感じなので、晴夜と時雨の兄妹仲は決して良いとは言い切れない。晴夜自身はごく普通の兄妹らしくあろうとしてきたが、それでもどこかで薄い壁が生まれてしまうことは否定しきれなかった。


 ……そして恐らくは、時雨も同様に。


 そんな時雨の元に、突如新たな家族として現れた星乃香。

 純真で優しく、少々献身的過ぎるきらいもあるもののこちらを大事にしてくれる『お姉ちゃん』がやってきたのだ。


 まあそう考えると、時雨の性格的に懐かない方がおかしいか。


 ……流石にここまではっきり見せられると改めて驚いたが、時雨の好きなものに対するデレっぷりは知っているので想定外というほどのことではない。


 気を取り直して、晴夜は時雨にいつも通りの声をかける。


「おい妹よ、星乃香から離れろなんて無茶は言わんから机まで移動してくれ。そこは物が倒れて危ない」

「え、あたしから離れるのって無茶なことなの……?」

「むー、お兄ちゃんの言うこと聞くのは癪だけど分かりましたー。星乃香ちゃんに怪我させたくはないからね」


 そんなこんなで、晴夜とは二月ぶり、星乃香とは一週間ぶりの再会を果たした時雨。

 実の兄の方が離れていた期間が長いのが奇妙だが、三人は揃って机についたのだった。

主人公の妹、時雨ちゃん登場回です!

気に入って下さると嬉しいですm(*´Д`)m


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