第三話 桃色の告白
「リア充は爆発してください。」
虹村沙絵は言う。
「けっ。あいつら、ふざけるな。」
沙絵の口調は偽ヤンキーみたいに悪い。
「あー、本当にイライラする」
さあ、仮想OSを閉じて、と。次は何をしよう。
市内放送の次は…
毒島くんのパソコンかな。
独自に開発したハッキングプログラム。
高性能、広範囲のWiFiルータに毒島のパソコンを強制的に接続させる。
「あいつら二人を引き離したい。あいつが嫌いだ。」
仮想OSを開き、毒島のパソコンを遠隔操作する。
錯乱目的の仮想OSだ。
カタカタカタ。
「……」
「……これで毒島は立派な犯罪者だ。」
◆
「ねぇねぇ毒島くん?」
黄子は言う。
「なんだよ」
「さっきの話なんだけど…」
ピコン、ピコン。
突然、人間が本能的に嫌うような音が聞こえてくる。
「なんだ?地震か?」
いや、これはミサイルのサイレンだ。
「ただいま、北朝鮮から核弾道ミサイルが発射されました。予想着弾地点は、日本、山梨県昆布市付近です。近くにお住まいの方は、直ちに避難してください。」
「またいたずらだろ。」
「それな。」
だが、そうではなさそうだ。
「生徒の皆さん、よく聞いてください。」
あれ、校長だ。
「現在、ミサイルが発射されました。現在、県に確認したところ、デマではなく、正しい情報であるようです。この付近は着弾が予想されるので……」
嘘だろ?死ぬのか僕。
やりたいこと何もできてないのに。
「着弾まであと30秒です。直ちに避難してください。」
毒島だけでなく、生徒のほとんどが動揺し、混乱している。
ああ、僕、死ぬんだな。
「あと20秒です!急いで!」
西の空にはもう飛翔体が見えている。
ああ。
死ぬとしたら……俺にはやらなければならないことが一つだけ残っている。
絶対にしなくてはならない。心残りがないように。
「桃山さぁぁぁあん!……」
結局僕の命も終わる。
「あと10秒!」
「毒島くーーーん!」
僕の名前を呼んでくれた。
「あと5秒です!4、3…」
「今までありがとう。僕は、桃山さんのことが好きだ。」
胸が張り裂けそうになる。
「私も、だよ。」
香子は涙を流す。
そして、毒島の世界は桃色に染まる。
ああ、桃山さんも僕と同じ気持ちだったんだな。
もしこの、二人の世界が続いたら、どんなに幸せだったんだろう。
終わると思っていた世界が始まった途端に、潰される。
結局終わるんじゃないか。
なら、もう終わっていいや。
君がいるから。
だけど、あと一秒だけ…
毒島は香子を強く抱き締める。
香子はそれに応えるようにして、抱き締めて、涙を流す。
「ありがとう。」
「2、1、」
二人で終われるなら、これが本望だ。
「、0。」
◆
あれ?
もう死んだのか?
痛みも感じていない。
毒島はゆっくりと目を開ける。
「あれ、?」
柔らかい感触に包み込まれている。
「あれ、俺、、死んでない?」
死んでいない。
ミサイルは落ちなかった。
「ごごごご、ごめん!桃山さん!……え?」
体を離そうとすると、寄りかかってきた。
香子は立ったまま気を失っている。
その目には涙が浮かんでいる。
「大丈夫?桃山さん。」
少しして、おもむろに目を開け、香子は周りを見渡す。
「あれ、生きてる?」
「死んじゃったのかと思った。」香子は言う。
「僕も。」
「助かったんだね。本当に良かった。」
香子は、お母さんとまた会えた迷子のように、安心感をにじませて声をあげて号泣した。
毒島は、その涙を胸で受け止め、桃色に混じる紺色を拭い続けた。
しばらくして正気を取り戻し、香子は何かに気づく。
「……!?」
「ご、ごめん!私、ずっと毒島くんに寄りかかってたんだね。」
「恥ずかしい。」
「ああ、大丈夫だよ。」
甘い桃色。
ずっとこの色に染まっていたい。
ずっとこの色を愛していたい。
終わると思い込んでいて、実際には終わらない場合。
その場合、映画を考えて見ると分かりやすいが、浮遊感を感じる。
きっと二人はその感覚を感じたのだろう。
リア充羨ましいなぁ。(作者)
ふわふわどきどきしたいなぁ。(作者)
ミサイルは、実際には、予想地点と全く違う場所に落ちました。毒島がみた飛翔体は、北富士演習場の訓練機で、毒島の勘違いでした。