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悪者は僕だ  作者: ブルーノート
第一章
2/5

第二話 黄色い告白

 体育祭当日。今日は朝から緊張している。

 

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。ちなみに僕は仏教徒ではない。ただ、煩悩はある。人間だもの。ってなに考えてるんだ。


 こんなくだらない人間だから片想いで終わるんだ。まだ終わったかどうかは分からないけど。

 

 昨日、桃山さんにキャンプファイヤーで二人で踊ろうと声をかけた。もう桃山さんと交わす言葉は二つ三つだろう、と思って勇気を振り絞った。桃山さんは、それにちゃんと応えてくれた。

 けど、今考えてみるとこれほとんど告白だったな。ああ恥ずかしい。まあいいか。

 

 ああ、いよいよ今日が始まる。

 そして、何かが終わると思う。けれど、今日というこの日だけは忘れないだろう。

 


 朝、目覚める。

 彼の夢を見ていた。

 

 彼と一緒に踊っている。

 彼は、顔を私の顔に近づけ、何かを言う。

 「僕、…桃……さん………す……よ。」

 何と言ったか分からない。

 

 そして、目覚める。

 なんて言ってたんだろう。

 「好きだよ」だったらいいな。

 まあ所詮夢の中だから現実じゃないんだけどね。


 今日だけは勇気を振り絞る。もう決めている。

 今日、もし世界が終わってもいいようにそう決めている。


 「これにて、県立 昆布(こんぶ)高校、体育祭の開会式を終了します。」

 

 始まる。

 始まる。

 

 

 「おい、紫穏!俺ら最初の競技だぞ。ほら、カトパン、じゃなくてデカパン競走。準備いくぞー!」

 「りょーかい」

 馬場裕(ばばひろし)。彼は運動しかできないサルである。

 ちなみにゲーム実況をやっている。何の情報だよ。

 

 一種目めはデカパン競走。高校生にもなって何やってんだって話だ。

 これは体育の女教師の趣味らしい。

 なんだよその趣味。パンツ集めは個人の範囲で収めておけよ。

 

 俺と裕はアンカー。クラスの足の速さワンツーコンビだ。

 


◆ 


 競技が始まる。

 ちなみに競技は青組、赤組、緑組によって行われる。


 

 用意、ドン!


 「さあ始まりました!二年男子によるデカパン競走!」

 

 「いけー!」

 「ファイトー!」

 

 私も応援しよう。

 「がんばれー!」

 

 少し経ち、レースは終盤に差し掛かる。


 そろそろ毒島くんだ。


 走り出す。

 

 「がんばれー!」

 

 速い。カッコいいなあ。

 

 足が速いのがモテるのは小学生までというけれど、好きな男子が走っていれば、無条件で目が吸い寄せられる。

 

 「毒島くーん、がんばれー!」

 

 彼の名前を呼ぶだけで体が熱くなってしまう。

 

 「あれぇ~?どしたのぉ~?そんな顔赤くしちゃって~」

 

 と言うのは神山黄子(かみやまきこ)だ。

 

 「ちょ、ちょっと!なんでもないよ!」

 

 「そんなことないよ~。だって今、走ってるもんね。あなたの好きな…」

 

 「やめてっ!やめてよ黄子ちゃん。恥ずかしいよ。」

 

 「今日告白するんでしょ?」

 

 「うん。」

 恥ずかしい。

 

 「きっと大丈夫だよ。毒島も応えてくれるよ。」

 

 「ありがとう。」

 

 そうならいいな。もしそうだったら、私、そのとき倒れないかな?

 

 「やったー!一位だ!」黄子は言う。

 

 競技が終わり、男子が戻ってくる。

 

 よし、行こう。と黄子は思う。私の番だ。

 

 「ねぇねぇ毒島、ちょっとこっち来て?」

 

 走った後のシャツは微かに汗ばんでいる。

 

 「どうした、神山さん!グランドの真ん中に引っ張りだしたりして!」

 

 「言います!」

 すーっと息を吸う。

 

 「毒島くん!好きです!付き合ってください!」

 

 それは稲妻のように刹那的だった。

  

 グランドを越えてはるか遠くの山まで届くような大きな声。

 

 どうだ。

 

 「おい、あいつすげえな」

 

 一瞬にして注目が集まる。

 喧騒が深まる。

 

 「毒島、この状況は断れないだろ」

 

 あの子、桃山香子(ももやまかこ)が告白する前に告白する。

 このやり方は性格は悪いけど、毒島くんはとられたくない。

 

 

 「付き合ってください!」

 

 あれ、黄色い。

 周りから黄色い声が聞こえる。

 なんだこの状況。

 しかも突然すぎる。

 なんとか断らないと。

 俺は好きな人がいるから。

 だけどなんだこの状況。

 俺の名前がコールされている。

 まるで劇場の主演役者のように。

 だけど、ちがう。

 相手はジュリエットなんかじゃない。

 僕にとってはただの一般市民だ。

 こんなの意味がない。

 だけど…

 

 「紫穏!グズグズするな!」

 

 「はやくーはやくー!」


 ああ、どうしようもない。

 ここで断ったらもうみんなに向ける顔がなくなってしまう。

 人気幼児向けアニメみたいに顔面も替えてもらえないし…

 もう、仕方ない。

 

 「いい…」

 ピンポンパンポーン!

 

 …市内放送?

 

 「グランドでリア充ごっこしている生徒は、至急、爆発してください。繰り返します。…………」

 

 …どうして校内放送じゃないんだ?

 


 「あちゃー、タイミング悪いから、お昼に返事聞かせてね!」と黄子。

 

 なんというタイミングの悪い放送。

 放送の音が大きすぎて会話が意思伝達すらできない。

 仕方ない。

 お昼まで待とう。

 

 それまで、ずっとくっついていようかな。

 

 香子にとられないように。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

市内放送は、市役所からしかできない。

さらに、市役所から学校を望むことはできない。

そして、こんないたずらをするのは高校生ぐらいだ。

となると……

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