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婚約破棄される未来が見えたんだけどどうすればいい?

作者: もりもり

拙い文章ですがよろしくお願いします。

「夢だったら良かったのに」


ノートを眺めながら一人呟く。ここに書かれているのは全て未来に起こること。そして、そのいくつかはもう既に起こっていた。


「私は捨てられるのね.........」


ノートの最後には、「婚約破棄」と書かれていた。




私は牧野家の長女として生を受けた。父は厳格な人で、可愛がって貰った記憶は無い。物心着く頃には淑女として礼儀正しくするのが当たり前で、父に甘えた事がなかったのだ。

そんな私にも婚約者がいた。彼との初対面は14の時。海堂家のご子息で名前は守といった。大きなどんぐりのような目が印象的で、お世辞にも美男子とは言えなかった。けれど、真っ直ぐでひたむきな性格に私は惹かれた。父とは真逆の性格の彼となら愛のある家庭が築けるかもしれない。そんな希望をあの頃は持っていた。


守は、私を大事にしてくれた。私は彼の特別なのだと思うと嬉しかった。けれど素直になれなくて、いつも素っ気ない態度を取ってしまう。淑女が大袈裟に喜ぶなんて恥ずかしい事だと言う考えが抜けきれないのだ。今は二十一世紀、そんな考えは古いのは分かっている。



「いち、オレ好きな人が出来たんだ」


守は大真面目な顔で私に言った。頭が真っ白になる。


「ごめん。お前と結婚できない」


そうして背を向けた。



今のは全て夢だった。

私は天井に向かって手を伸ばしている。涙がダラダラと出て止まらない。


それから私は色々な夢を見た。それは様々で、一貫性がなかった。けれど嫌にリアルで忘れられない。

ある日、食事の夢を見た。パンと生野菜のサラダとシチュー。我が家の朝食だ。向かいには父が座っている。


『守くんとは最近どうだ?』


『仲良くしてます』


『そうか』


そこで目が覚めた。



その日の朝食は、パンに生野菜のサラダにシチュー。どこか既視感がある。


「守くんとは最近どうだ?」


向かいに座る父に尋ねられる。


「仲良くしてます」


「そうか」


会話はこれで終わり、私はパンを口に運ぼうとした。そこで、ハッとする。

今の会話は全て夢と同じだった。



それからも、同じようなことが度々起こった。そこで、私はひとつの仮説を導き出した。

私が見ている夢は予知夢。

そう考えたら、全てが納得できた。私は夢で見たものを全てノートに書き写した。そして、書き写した出来事が起こったら線で消すを繰り返す。

私のノートは黒い線で埋め尽くされた。



私が一番最初に見た「婚約破棄」はまだ起こっていない。けれど、近々されるのだろう。


「いち、何ボーッとしてんだよ?」


守は不思議そうにこちらを見る。彼の様子を見ると、婚約破棄をしてくるようには見えない。毎日屋敷に訪れてくるし、学校でもお昼はいつも一緒だ。


「いや、ちょっと考え事してて」


「ふーん。なんか悩みがあるならいつでも話せよな!」


ニカッと笑いながら守は言う。彼はいつもこうだ。裏表の無いような顔で笑っている。


「そういえば守、今日からテスト2週間前よ。勉強してる?」


「あ!やべ〜忘れてた.........」


そんな事だろうとは思っていた。彼は部活のサッカーに熱中していて、学業は疎かにしてるとこがある。真面目にやればとても頭がいいのに勿体ない。


「どうせ、授業中は寝てるんでしょ?ノート見せてあげる」


「あー!ありがとうございます!一様ー!」


「.........頭上げてよ。みっともない」


あぁ。また素直になれなかった。これがいけないんだと分かっていてもやってしまう。それでも守は「わりい、わりい」と言いながらニコニコ笑っている。本当にいい人だ。


「.........テスト勉強手伝ってあげる」


「マジ?! ヤッター!」


謝れない代わりにそう言うと、彼は本当に嬉しそうに喜んだ。



また夢を見た。学校の近くの公園にいる。そこは人通りが少なく治安が悪い事で有名だった。


『いや!やめてください!』


『静かにしろよ〜悪いようにはしないからさ〜』


いかにもガラの悪い男が少女に絡んでいる。彼女はトイレに連れ込まれそうになっていた。


『いや!助けて!!』


少女は泣きながら叫ぶ。けれど、私は恐ろしくて動けなかった。



なんとも夢見が悪かった。恐ろしい。これが未来に起こるのだろうか。そして私は見て見ぬふりをする.........。なんて最低なのだろう。


「どうすればいいの?」


私は天を仰いだ。



放課後、私は下駄箱で靴を履きながら考えた。あの公園を通るべきかと。

公園を通る道は近道なので、よく通っている。けれど、もしかしたらあの少女が襲われているかもしれない。私は怖くなった。

.........私が行かなくても誰かが助けてくれるんじゃないか。

ふとそう考えてしまった。私は頬を叩く。最低だ。




私は公園に向かった。全速力で。

早く向かわなければ、手遅れになるかもしれない。今日起こることじゃ無いかもしれないが、善は急げだ。


「いや!やめてください!」


少女はいた。


「静かにしろよ〜悪いようにはしないからさ〜」


「何してるの!やめなさい!」


私は叫んだ。手が震えて止まらない。男は「あ?」と不機嫌を隠さずにこちらを見てきた。


「なんだ嬢ちゃん?あんたも遊んで欲しいのか?」


「その子を解放しなさい」


男を睨みつける。自分が出来る最大の力で睨みつける。


「ハッ可愛いね〜」


男はこちらに近づいてきた。じっとりとした視線が私の体を上から下へと這いずり回る。正直気色が悪かった。

男の意識が私に集中してると分かると、私は少女に逃げるよう目配せした。彼女は戸惑っていたが、最終的に意を決してどこかへ走っていった。


「へ〜あんたいい体してんな〜」


幸い男は気づいていない。これでいい。しかし、手の震えが止まらなかった。

男は私の肩に手を回してきた。臭い息が顔にかかって不快だった。


「ほれほれ〜」


胸を鷲掴みにされる。怖すぎる。涙が頬を伝った。お願い、誰か助けー



「何してる!」


大好きな幼なじみの声が聞こえた。

男はすごい勢いで吹っ飛んで行った。殴られたのだ。守に。


「いち、大丈夫か?」


私は守に優しく抱きしめられた。助かった。安心したら涙が止まらなかった。



正気に戻り、守の胸から顔をあげると少し離れた場所に先程の少女が立っていた。


「ああ、彼女が助けを呼んでくれたんだ」


私の視線に気付き、守は説明する。パトカーのサイレンがうるさい。彼女はぺこりと頭を下げた。


「先程は助けて頂きありがとうございます。本当に助かりました」


ほっとした様子で言う少女。彼女の名前は久遠沙也加といった。



沙也加が後日またお礼をしたいと言うので、私たちは連絡先を交換した。当然守もだ。当たり前のことなのだが、彼が私以外の女の子と連絡先を交換するのはいい気がしない。私はつくづく嫌な女だ。

沙也加は両親と共に家に帰り、私は守と共に帰路につく。彼は心配だからと家まで送ってくれた。


「いち!次に何かあったらすぐ言えよ! 勝手に突っ走んなよ!」


守はそれだけ言って、帰っていった。



また夢を見た。


『好きだ。沙也加』


『私も。守くん』


抱き合っている2人。それは恋人同士のものだった。



天井が歪んでいる。いや私が歪ませているのだ。


「そういう事」


守と沙也加はこれから愛し合う。私は当て馬といったところか.........。

涙が頬を伝っていった。



「へ〜久遠さんのお父さん、サッカーに詳しいんだ!」


「そうなの。監督をやらないかなんて言われた事もあるらしくて.........」


私は、楽しそうに会話をする二人を静かに見つめていた。沙也加はとてもいい子だ。私がこうして黙り込んでいると会話を降ってくれる。


「牧野さんは、サッカー好きですか?」


「えっと、それなりに好きよ。昔は守の練習を手伝っていたし」


「へー! お二人は仲良しなんですね!」


「ああ! いちは俺の大事な人だ!」


守の明るい声が胸を刺す。大事な人ってどういう意味? 友情? 愛情?

私はまた黙り込む。目の前では楽しげに会話を弾ませる二人がいた。




「はじめ、パラレルワールドって知ってる?」


私を本名で呼ぶ友人。冬雪 白は、そう言った。

私が、「未来が分かったらどうする?」と聞いたら。この質問が帰ってきたのだ。


「それって、本来の時間軸とはまた別の時間軸があるっていう物?」


「そうそう! それだよ!」


白は少し興奮しながら話し出した。


「未来は何通りにも分岐してるって言う説ね! 私が今食べようとしてるこのたこさんウィンナーは、もしかしたらかにさんウィンナー、もしくはステーキだったかもしれないんだ! 」


そう言ってぱくりと食べる。なんとも幸せそうな顔だ。時刻は正午。私達は学校の中庭で昼食を取っている。守は今日用事があっていない。


「はぁ、ステーキ食べたい」


「話がズレてる」


私はツッコミを入れた。


「まぁ、とりあえず未来はどうとでも変えられるんだよ」


白はふんわりと笑った。能天気に聞こえる言葉はどこか説得力がある。彼女はやはりどこか掴めない。






それから、何度も夢を見た。それらは守と沙也加が楽しそうにしている夢だった。

それは夢にとどまらず実際に起こって、それを見て私は何度も心で泣いた。

.........助けなければ良かったのか。そうすれば守と彼女は出会わなかったのではないか。否、そんなことは無い。私がいてもいなくても、彼らは出会う運命だったんだ。


「いち、沙也加と一緒のでいい?」


ほら、もう名前で呼んでいる。


「いいよ」


「ハンバーガー美味しいですよ!」


沙也加は花がほころぶように笑う。私がファーストフードを食べたことがないことを言うと、おすすめを紹介してくれた。

こんなにもいい子なのだ。もういいじゃないか。





『いち、オレ好きな人が出来たんだ』


『ごめん。お前と結婚できない』


もういいじゃないか。


『分かった。良いよ』




また同じ夢を見た。私は全てを受け入れた。






受け入れたら楽だった。守と沙也加が幸せそうにしていても何も思わなかった。なんで最初からしなかったんだろう。こんなにも清々しいのに。なんで抗ってたんだろう?

守が言いにくそうな顔をして話しかけてきた。


「いち、話がある」


ついに来た。






私たちは学校の屋上に出た。ここなら誰にも聞かれないし、色々と好都合だから。夢でも私たちは屋上にいた。空は今日みたく清々しい天気で、風が心地良かった。

私達は思えばずっと幼なじみだった。婚約者とは名ばかりで好きだと言われたこともないし言ったこともない。ただいつか家族になるだろうと思って漠然と幸せを期待していて、これは恋だったのだろうか?


「いち」


守のためにケーキを焼いた。初めて作るそれは、黒焦げでお世辞にも美味しくない。けれど、彼は全部食べてくれた。


「オレ」


守は勉強が嫌いだ。だから私はいつも怒鳴りつけて椅子に座らせた。なんて可愛くないんだろう。でも一緒に勉強したのは今思えば楽しかったな。


「好きな人が」


守とサッカーした時、初めて泥だらけになった。私の初めては全て彼から貰った。


「好きな人が出来たんだ」


彼と一緒じゃない世界なんて嫌だ。






「くっ.........!いち.........!」


守は、私の腕を握りしめている。彼が手を離したら私は終わりだ。私の足は空を切る。地面ははるか下だ。


私は飛び降りようとした。


結局私は、彼が沙也加と結ばれるのを受け入れられなかった。それなら死のう。この世界から消えようと思った。

けれど、優しい彼は私を助けようとしてくれる。私は彼の優しさに漬け込んでいた。ここは「別れるなら死んでやる!」と叫ぶところだろうか? なんて醜いんだろう。そんな醜態を晒すなら死んでしまいたい。


「手を離して」


「......そ、んなこ、と.........する訳ないだろう!」


守の顔は真っ赤だった。そんなに苦しいなら手を離して。私は貴方の優しさが苦しいの。


「だって」


守は言う。涙がボロボロと落ちてきて、私の顔を濡らした


「だって、お前が好きだから!」




守は沙也加に言われたらしい。婚約者にまだ好意を伝えていないのかと。そんな事ではいつか愛想を尽かされると。


「だから言った.....のに!なんで......?!」


ああ、未来は変わるんだ。

どこで変わったのかは分からない。けれど、変わった。パラレルワールドだ。白、あなたの言った通りだったよ。

私は現金だった。愛されてると知ったら生きたい。死にたくない。彼と一緒に生きるために、彼の手を握った。





結果から言うと、私は助かった。

私たちの様子を見た生徒や先生が助けに来てくれたのだ。

私は皆からこってり叱られた。父にも。父は怒ったが手を挙げず「無事で良かった」と抱きしめてくれた。私は嬉しくて泣いた。


守は次の日になるとケロッとしていて、何も気にしてないようだった。けれど、その前日に「何かあるなら言えって言っただろう」と泣きながら抱きしめてくれたのを覚えている。私は、彼に「私も好きだよ」とだけ言った。未来が見えることはまだ言えない。




私は、それからも夢を見続けた。共通点は守との別れ。もう、この世界の強制力なんかじゃないかと思うこの頃だが、私はひとつの決意をした。

私は何がなんでも守から離れないし、離れさせない。彼が別れを切り出す未来を消すと。


「いちー!」


守が丘の上で手を振っている。私は息を大きく吸って走り出した。


未来に向かって。





お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まったく拙い文章ではありませんでした! こちらこそまさに拙い感想で申し訳ないのですが、絶妙に嫌な気持ちになる箇所がいくつかあって、その度にドキッとして、すごく良かったです! あと、屋上に呼…
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