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父の背中

父はティモール城塞を出て真っ直ぐ東へ向かって行った。この方角からするとどうやらチュクチ山を目指しているようだった。その先にはイロワーズの港町があるのでそこから渡航するのだろう。僕は5Km程の距離を保ちつつ、すでに日課となった父の魔物退治の後始末を今もしていた。時々父の戦いをリアリゼーションで観戦するのだが魔物が目の前にいるにも関わらず一切避けると言った無駄な動作がなく、ただ真っ直ぐ走り対峙した魔物をまるですり抜けるように走り抜けていく父の姿に戦慄と同時に憧れを抱いていた。


「こうして改めて観察していると父さんって凄く強いんだな・・・」


魔法を使える光輝であったが剣術を極限まで極めた父の背中が未だに遠かったことを改めて知ることとなった。


父はすでにチュクチ山の(ふもと)まで来ていた。実はここには山の守り神と言われる一匹の龍が住んでいる。普段、人々を襲うことのない龍だがテリトリーを侵す者には容赦なく襲いかかるという。イロワーズの港町には安全に行ける道があるのだが山を大きく迂回しなければならないために遠回りとなってしまうからこの道を選んだのだろう。山に入ろうとした父さんの目の前に遙か上空から一匹の龍が舞い降りた。


「人間!この先の山が我が領域であると知っての狼藉か!返答次第ではここから生きては帰れないと思え!」


龍は大地が震えるほどの大きな威厳のある声で言った。


「それは俺も風の噂で知っている!だがな私の愛する妻が今静かに死を迎えようとしているんだ。夫として何とかしたいと思うのは当然であろう!そのために私は急いでいる。その邪魔をするというのであればそれが例え龍であっても容赦はしない。何も言わずにここを通して貰えないだろうか?」


「それが我に何の関係がある?おとなしく引き返すが良い!」


「ならば仕方がない。力ずくで通させて貰うぞ!」


父さんが剣を抜き横へ振り払うと龍の元へ一筋の風がかまいたちとなり襲いかかる。

鋼鉄をも通さないと言われている龍のうろこを数枚切り落とした。


「おのれー!人間風情がーーー上位種族である我に楯突くか。死んで後悔しろ!」


龍の鞭のような尾が父を襲う。辛うじて避けることはできたが近くにあった大岩が粉々に砕かれていた。

あれを人間がまともに食らってしまえば一溜まりもないだろう。続いて龍の鋭い鉤爪が父を襲う。父はそれらをことごとくいなしていく。苛立ちを覚えた龍は上空へと舞い上り大気を大きく吸い込むと一気に吐き出した。すると辺り一面が炎に包まれてしまった。


「さすがにあらゆる生物の中でも頂点に立つと言われている龍だ。俺が簡単に倒せるはずもないか・・・」


映像から察するに父さんは苦戦していることは明らかだった。

僕が出て行って手助けしても良いのだが、のこのこ出て行ったら後で叱られることは目に見えている。


「このままだとみすみす父さんを死なせることになるかも知れないし陽葵にも父さんの事は頼まれているしな・・・父さんにもプライドがあるだろうし子供に助けられたと思われても後々面倒だ。」


先ほどから僕の方を観察する気配があったので辺りを見渡すと丸い光の球がふわふわと浮かぶのが見えた。生物が死を迎えると魂だけが残りやがてはヴォイドと呼ばれる異空間に行き何百年、何千年という長い年月をかけて輪廻転生すると言われている。ただし未練のある魂は現世に止まり未練が断ちきれるまで彷徨い続けるとも言われている。


「僕に何かようですか?」


「おぉ!我の存在に気付き会話ができる者がまさかいようとはな。儂はかつてはこの近くにあった村で守り神として祭られていた龍じゃ。あそこで暴れている龍は儂の娘なのじゃが、あやつはあの山に眠る儂の骨を守っているのだ。もうそんなことはせんでいいから自由に生きて欲しいと儂が言っていたと伝えてはくれんかのー。」


「伝える事は構いませんが僕が言っても信じては貰えないと思いますよ。」


「そうであろうな・・・長年儂の事を人々は龍神様と崇めていたのじゃがな。それなりに儂にも力はあったのだが今から10年前に漆黒のローブを纏った集団の怪しげな術によって我は殺され今ではこの有様じゃ。このままあやつがここに止まり続ければ儂のように殺されてしまうかもしれん。どうしたものか・・・」


「では貴方だと証明できる手段はありませんか?僕は降霊術を使う事ができますので10分だけ、あなたに意識を託します。できれば姿を見せずに分かる方法があればそれでお願いします。父さんには知られたくありませんので。」


「おぉ!それは助かる。我の咆哮なら遠距離でも会話ができるから我の声を聞けば姿が見えずともあやつなら分かるじゃろう。会話は龍語で話すから他の者が聞いていても理解できまい。」


「分かりました。それでは始めます。」


精神統一をして龍を自分の体に降霊した。


「我が娘よ。聞こえるか!我は訳あって姿を見せることはできないがそのままで聞いて欲しい。まず儂はお前の留守中に漆黒のローブを着た怪しげな集団に殺された。そやつらは怪しげな術を使うからくれぐれも儂の仇を討とうなどと思うな!できればすぐにここを立ち去れ。それとそこにいる冒険者は訳あって急いでいる。儂の骨が目当てではないから通してやれ。骨と言えば儂がこうしてお前と話ができる手助けしてくれた者がいる。そやつに儂の骨を譲ってやろうと思う。最後に儂が儂であるという証明をするからそこで見ておれ!お前にこれから自由に生きて欲しいと願う父からの思いを込めた龍神雷撃光じゃ!」


雲1つない空が急に漆黒の闇を作り雷雲が発生すると一筋の雷が迸りそれらが集まりやがて巨大な雷龍へと姿を変え暗雲の空を優雅に漂っていた。


「こ、これは父上の龍神雷撃光・・・」


「人間、ここを通るが良い・・・」


それを見ていた龍が一粒の涙を流し上空へと飛び去っていった。

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