ティモール城塞①
「光輝さん、着きましたわ。」
そこはあばら屋の中だった。
「ミル、ありがとな。気をつけて帰れよ。」
「あら、私の心配をしてくださるのね。フフフ、ありがとう。ではまたお会い出来る事を楽しみにしていますわ。」
ミルは空間転移で帰って行った。
「僕の住んでいる村とは大違いだな。」
門をくぐるとそこは通路を挟んで露天が立ち並び大変な賑わいを見せる街だった。ここは各都市の中継地点ということもあり冒険者が行き交う城塞都市というだけあって街は10mくらいの石壁に囲まれ所々に物見櫓があり街の中央の丘には大きな砦が建造されていた。城と言っても大げさではないくらい大きなものであった。
「坊や、見ない顔だね。ご両親は近くにはいないのかい?」
「親は用事があると言って出かけたので今は僕1人です。」
「そうかい。もし良かったらこの街名物のワイルドボアの串焼きはどうだい?」
「1本いくらですか?」
「銅貨5枚だ。」
「では串焼きを3本ください。」
「まいどあり」
僕は銅貨15枚を店主に渡し串焼きを食べ歩きながら街を見物していた。
「それにしてもこの串焼き本当に美味いな。臭みがなくて筋っぽくなく噛むと柔らかい肉の中から肉汁が溢れだしてくる。この甘すぎず辛すぎないタレも絶妙にマッチしている。」
ここを出る前に買い占めしようと光輝は思った。
「ひゃん!」
声がした方を見ると何やら人だかりができている。僕は何か気になり人だかりの中を掻い潜る。
「おらぁ、さっさと来い!若旦那様がお前をお待ちかねだ。」
左目に刀傷のある厳つい顔をした筋肉質の男、顔の細長い体がひょろっとした男、少し小太りのおっとりした顔の男達3人で少女を取り囲んでいた。少女は猫耳の獣人で顔は幼さの残るあどけなさの残る顔の整った美少女だ。
「どうかあと5日だけ待ってはもらえないでしょうか。5日後に月末払いのお客様からの支払いがありますのでどうか・・・」
少女は涙目で男達に訴える。
「何言ってんだ!約束の期限はとうの昔に過ぎてんだ。今月の利子は取らない代わりに優しい若旦那様が一晩過ごせば許してやろうって言うんだ。おとなしく付いて来い!それが嫌なら利子を含めて金貨11枚、銀貨55枚、銅貨80枚きっちり払って貰おうじゃないか!」
「そんな・・・私の借りたお金は金貨1枚だったはずです・・・」
「お金を借りたら利子ってもんがあんだよ!」
ちなみに、硬化のレートだが銅貨100枚=銀貨1枚、銀貨100枚=金貨1枚、金貨100枚=白銀貨1枚となっている。この王国の一般人の平均日当は銅貨85枚、月収にして約銀貨21枚である。
「あいつら、また少女を手込めにしようってつもりだよ。少女のいる家でお金に困っている人に優しく声をかけて法外な利子をふっかけ払えなくなったら借金の形にするんだから汚いよ・・・」
周りの野次馬達が口々に呟いているので、どうやらこいつら常習犯のようだ。
僕が少女に声をかける。
「あのーお取り込み中のところをすみません。宿に泊まりたいんですけど貴方が女将さんですか?」
「はひ?何でしょうか・・・」
突然話しかけれた少女は思わず声が裏返ってしまった。
「実は泊まる宿を探しているんですが今日から貴方の宿に泊めていただくことはできますか?」
「お前、今は俺たちと話をしてるんだ。関係ない者は引っ込んでろ!」
ひょろっとした男が胸ぐらを掴もうとしたがするりと躱し構わず僕は話を続ける。
「すみません、お恥ずかしい話なのですが実は借金があり担保として宿を取り上げられてこの先、経営ができないかもしれないんです・・・」
「貴方の宿で一番広い部屋を3年間一部屋借りたいんですけど駄目ですか?」
女将は一瞬で3年分の収入を頭の中で暗算して口元が緩む。
「へっ?あ、ありがとうございます。それで支払い方法なんですがどのようにされますか?月払いも可能ですができれば年払いをしていただくと非常に助かります・・・」
どこかの貴族でもない限りこのような大金を支払えるとは到底思えないのだが目の前の少年に藁をもすがる思いでそう尋ねる。
「勿論、一括で構いませんよ。いくらになりますか?」
「そうですか・・・やはり無理ですよね・・・って3年分を一括ですか!」
少女は目を丸くして凄く驚いていた。
「朝食込みで一泊につき銀貨5枚ですので3年間となりますと金貨54枚、銀貨75枚になります。その他の食事代については別途お支払い頂いています。」
「じゃこれ代金です。ちゃんとあるか確かめてもらえますか?」
そう言って少女に金貨55枚を渡す。
「あ、ありがとうございます!」
少女は金貨を一枚一枚丁寧に数える。
「はい、確かにありました。ありがとうございます。これはお釣りです。」
「いえ、お釣りはいらないので何かサービスしてください。」
「わ、わかりました。最上級のおもてなしをさせていただきます。」
少女は満面の笑みでそう返答した。
「あのーお金の都合が今つきましたのでお返しします。」
少女は金貨12枚を借金の取り立てに来たごろつきに渡そうとしたところを僕は一度止める。
「証文が今ここにあると思いますか?返済したという証拠がなければまた難癖をつけて取り立てられるかもしれませんよ?」
「ちっ!めざとい餓鬼だな。こっちも全額借金を返済できるなんて、これっぽちも思ってなかったから今は若旦那様の屋敷にある。」
「そうですか。では今から屋敷に行きましょう。」
「付いてきていただけるんですか!」
「こういう人達が約束を守るとは思えません。一度乗りかかった船ですから最後まで付き合いますよ。僕は光輝です。よろしくお願いします。」
「私はキラリの宿を営んでいます女将のティナと言います。こちらこそよろしくお願い致します。」
「おら、ガキこっちだ。」
僕達はごろつきの後ろをついていく。
「ここが若旦那様のお屋敷だ。」
なんだか時代劇に出てくる大きな商人の屋敷って感じだった。
「お前等、ティナは連れてきたんだろうな。ってそこにいるじゃないか。早くこっちに来い!」
ティナが僕の後ろに隠れる。若旦那は一見、人の良さそうな顔立ちだった。
「そのお坊ちゃんはどなたですか?」
僕に気付くと、そこにいるのが同一人物とは思えないほど優しい笑顔でにこやかにそう尋ねる。変わり身はえぇー。
「へい、実はこのガキがティナの経営している宿を一部屋借りたんです。」
「それがどうしたのですか?」
「それが・・・きらりの宿で一番高い部屋を3年間借りまして宿代を一括で支払ったので借金を完済して証文を取りに一緒についてきたんです。」
「そうですか、分かりました・・・証文を取りに行きますから貴方も私について来てください!」
「へい・・・」
若旦那とひょろっとした男が奥にある部屋へと入って行った。
「馬鹿野郎!はした金なんてどうでもいいんだ!白銀貨3枚で買い手だって付いたってのに今更、渡せませんなんて言えるか!そんなことをしてみろ。カリブ盗賊団の連中に殺されるぞ!」
何やら奥から怒鳴り声が聞こえてきたが証文を持った若旦那とお腹をさするごろつきが帰ってきた。
「これが証文です。では借金の完済をしていただけるということで元金と利子を含めまして全部で白銀貨1枚金貨50枚、銀貨55枚、銅貨15枚となります。」
やはりティナの借金が完済されると困るようだ。
「そんな・・・さっきは元金と利子を含めて金貨11枚、銀貨55枚、銅貨80枚って言っていました・・・」
「その件につきましては部下の手違いがあったようで誠にすみませんでした。」
「そうですか、そんなお金は払えませんのでここは一旦帰らせて頂きます。ティナさん行きましょう!」
僕がティナさんの代わりにそう答える。
「てめーただで帰れると思っているのか!」
「まー待ちなさい。ここは一旦お帰り頂きましょう。」
若旦那はすんなりと僕達を帰してくれたのでティナの宿へと帰ることにした。
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