王都
僕は両親に王立魔導学院に入学することを話しギルドマスターからの指示ということもあって特に問題なく認めてくれた。ただ陽葵の場合は凄い反対したのだが根負けし入学試験を受けることを了承した。
「では、行ってきます。」
「お父様、お母様ここまで育てていただきありがとうございました。」
おいおい、それ今言う挨拶か?それじゃまるで結婚して他家へ嫁に行く娘じゃないか・・・そんな事言ったら父さんが・・・
「ひまりーーー」
父さんが涙を流し顔をくしゃくしゃにして陽葵を強く抱きしめた。あ~やっぱりこうなるか。
「2人とも体には気をつけるんだよ。たまに手紙もちょうだいね。」
「はい、母さんも元気で!」
名残惜しいが僕と陽葵は王都へと向かった。
「こうして2人の後ろ姿を見ていると本当に仲がいいわね。昔の私達みたいだわ。フフフ」
「そうだな。セリスは昔とちっとも変わらず可愛いが俺はかなり老けてしまったけどな。」
「あら、貴方もますます魅力的になったと思いますわよ。」
隼人がセリスを抱きしめ、しっとり柔らかな唇にそっとキスをした。
「ねー見てください。お兄様!お店がこんなにありますわ!」
「そうだな。」
陽葵は初めての王都に来て子供のようにはしゃいでいた。ま、実際子供なんだけど。
「わーわーわーどいて、どいて」
帽子を目深に被った男の子が僕にぶつかって転んでしまった。
「君、大丈夫?」
「いててててっ」
どうやら膝を擦りむいているようだ。
「こら!待ちなさい!」
同じく目深に被った金髪の男の子が後を追うように走ってきた。
「はい、捕まえた。今度という今度は許さないんだからね!」
すると突然の突風で2人の帽子が風で飛ばされてしまった。それを見ていた陽葵が2人の帽子をキャッチし2人に渡した。
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「ありがとうございます。私はシルフィーと言います。で、こっちの子が・・・」
「私、ミルフィー」
「僕は光輝。」
「私は陽葵です。」
2人とも女の子だった。しかも超のつくほどの美形だ。男の子と間違えたのは2人とも成長期がまだなのか胸に凹凸がなかったからだ。
「ヒール」
陽葵が怪我をしていた女の子の膝に手当をすると、みるみるうちに傷が回復した。
「兄ちゃん、悪かったな。姉ちゃん行こう!」
「そうね。光輝君、陽葵ちゃんありがとございました。」
ミルフィーが帰り際に振り向いて大きく手を振ってきたので僕達も振ってその場を離れた。
「試験は明日だし何処かで宿を探さないといけないな。」
「そうですね、お兄様。」
僕達は王都の人達に宿の場所を何件か聞いて実際に見て決めることにした。
「あんた達予約は入れてないのかい?」
「はい・・・」
「じゃ、急いで宿探しな。早くしないと日が暮れちまうよ。」
次の宿に向かった。
「あーうちも部屋がいっぱいだよ。明日は王立魔導学院の試験があるからね。どこもいっぱいだと思うよ。」
ここの宿も駄目だった。
「あー見て下さい、お兄様!あそこの宿少し古いですが趣があっていいですわ。」
「そうだな。あそこが駄目だったら野宿になるけど我慢しろよ。」
「私はお兄様が近くにいるだけで安心して寝ることが出来ますので大丈夫です。」
「すみませーん、誰かいませんか?」
ドタドタと階段を降りてくる音がした。
「部屋を探しているのですがありますか?」
「すみません、お部屋でしたらすでにいっぱいですのでお引き取り下さい。」
「そうですか・・・」
「あっちょっと待ってください。」
踵を返し宿を出ようとすると呼び止められた。
「貴方達は先ほどの方ですよね?」
目の前にいる女性はシルフィーだった。髪を結っていたから分からなかった。
「客室はあいにく満室ですが、物置にしている部屋で良ければそこをお使いください。」
「いいんですか?」
「はい、先ほど帽子を取ってくれたお礼です。」
「たかが帽子くらいでお礼だなんて・・・」
「いえ、あれは唯一私達に残してくれた両親の形見だったのです。あの時、無くしてしまっていたら凄く落ち込んで明日の試験にも影響があったかもしれません。」
「もしかしてシルフィーさんも明日、王立魔導学院試験を?」
「はい、受けますよ!」
「俺達も明日受けるんです。では明日はライバルということになりますね。胸をお借りします。」
「あら、私に貸す胸なんかないですがいいのですか♪」
シルフィーは僕の顔を覗き込むように上目遣いで見てきた。あの時の視線がばれていたのだろうか?
「フフフ、冗談ですわ。」
「お兄様!」
陽葵がやや強い口調で僕を呼んだため、辺りは静まりかえってしまった。こうして僕達はシルフィーの宿に泊まることとなった。




