契約
「待てと言うとるのが分からぬのか!」
「誰だ?」
仕方なく頭の中で会話をすることにした。
「だめもとで声をかけてみたのだが妾の声が届くとは些か驚きじゃ!外の世界に出られる日も近いかも知れぬ・・・実はの、とある場所に妾は封印されておるのじゃ。昔の宿主は暴虐の美姫なんて呼ばれておった。その昔、妾の宿主は王となり各地を占領し世界征服まであと1歩というところで他国が精霊である妾の存在に気付き名も知らぬ錬金術師とやらのおかしな術で真っ暗な闇だけのこの部屋に閉じ込め力を失った宿主も志半ばで潰えてしまったのじゃ。高位階の妾に対してなんとも罰当たりな事をしてくれたものじゃ。でな・・・」
封印されるぐらいなのだから、殺しきれずにそうしたのだろう。暴虐の美姫なんて物騒な2つ名持ちだし厄介事に首を突っ込む気のない光輝は右手をブラブラ横に揺らして立ち去ろうとする。
「ま、待て!ほんの少し我にお主の体を貸してくれるだけでよいのじゃ。望みとあらばそなたが眠っている間に世界を極炎で焼き払い新しい王となる手助けをしてやっても良いのだぞ!どうじゃ?」
「いや、世界征服なんて興味ないしお前を復活させたら僕に対して蔑んで見る人達の光景しか思い浮かばないからこのまま封印しておく。」
錬金術師?そういえばあの禁断の扉から漏れ出ているマナの気配と同じだ。
「前の宿主もその前の宿主も権力や力を欲したと言うにお主は変わっておるのう。そ、そうじゃ!妾の知る古代魔法を教えてやる!こ、これならどうだ?」
光輝は魔道図書館でほとんど独学で学び習熟しているのだが、知らない古代魔法があるなら是非知りたいと思った。
「なー例えばどんな魔法があるんだ?」
よし!食いついたと精霊は考え密かに笑う。
「そうだな、デストロイドなんて魔法はどうだ?無機物なら何でも量子化し分解できるすっごい魔法じゃ!」
「もう知ってる」
「なにぃーーー!!!」
精霊は戸惑っていた。実体のある人間がデストロイドを使用して、もしも失敗すればその反動で自分も分解してしまう危険な魔法だからだ。だから一般的には禁忌魔法を学ぶ機会など皆無に等しいはずなのだ。
「それならば、ディスティニーオブフォールならどうじゃ!極大攻撃魔法の1つで町の1つぐらいなら簡単に滅する事も可能じゃ!ただし使用した術者本人の寿命も縮めるがな」
ドヤ顔で精霊はにやりと笑っているようだった。
「それも知ってる・・・もういいか?」
「・・・・・」
精霊は放心状態のようでしばし無言の時が流れた。
「お主は我と同じ精霊の類いだったのじゃな。それならば納得できる。」
「いや、僕は只の10歳の男の子です。てへっ」
舌を出して照れてみた。
「嘘をつくな!どこに禁術を使える人間の男児がいるんだ。あれは実体を持たぬ精霊である妾が何百年という月日を重ねようやく習得できる禁術じゃぞ!それをたかが10年しか生きていない子供に使えるわけがないのじゃ!」
僕は床に転がっている瓦礫を手に取り詠唱する
「デストロイド」
手に取った瓦礫が粒子となって消えた。
「ば、ばかな・・・」
精霊は愕然としていた。2つ名通りの暴虐の美姫とはとても思えず何処か愛嬌のある性格も憎めない。
「なぁ、あんた魔法が得意なのか?」
「妾自身は精霊だった頃に法を犯し罰を受けて人界に堕とされてしまったから得意だったはずの聖属性魔法は一切使えんのじゃ。今は限られた魔法のみで宿主が使えるかは適正次第じゃ。」
聖魔法は今の僕には使えないから習得したいな・・・。
「なぁ、取引をしよう。僕は降霊術が使える。僕が必要だと思った時に手助けをしてくれるか?だったら制限付きで体を貸してやってもいいぞ!」
「降霊術とな?また奇っ怪な術を使うのじゃな。まぁ良い。魂を喰らえば妾のも・・・ゴホン。分かったのじゃ。それで構わぬ。」
こうして光輝は謎の精霊と手助けを条件に体を制限付きで貸すという契約を結んだ。




