追跡
本来あるはずの家はなく陽葵と母さんもいなかった。大声で叫ぶが返事はない。僕は魔力感知で辺りを探すと陽葵の魔力は感じたがやはり母さんの魔力は感じない。まずは陽葵の魔力を感じる場所へと向かう。そこは僕と陽葵の秘密基地でよく遊んでいた3Km程離れた小屋の中だった。中に入ると血まみれになった陽葵が横たわっていた。
「陽葵!」
辛うじて乱れた浅い呼吸をしているが顔面蒼白な陽葵が僕が来たことに気付く。
「お・に・い・ちゃ・・・」
「エクスヒール!」
事切れる前に回復はしたため体力は回復したが、どうやら他にも原因があるようで顔色は悪いままだった。僕はマジカルバックからエリクサーの生成に必要な龍の涙と白鯨の髭、エリク草を出して瓶に錬成する。
「アルスマグナ」
「陽葵、これ飲めるか?」
陽葵は小さく頷く。口元にエリクサーの入った瓶を近づけるとゆっくり飲み込んだ。
「お兄ちゃんありがとう。」
陽葵が元気よく僕に抱きついてきた。
「今まで重かった体が嘘みたいに軽くなっちゃった♪それに頭の中でたくさんの人が叫んでいたのも聞こえなくなったみたい。これってもしかしてエリクサー?でもママの分はあるの?」
小さな肩が小刻みに震えている。よっぽど怖かったのだろう。
「あぁ。今頃は父さんの手に渡っているはずだ。」
「そう、なら良かった。」
「ところで陽葵、家で何があった?」
「あのね、3日ほど前に知らないおじさん達が3人来てママを連れていっちゃったの。最初は狐さんと鼠さんの獣人が来て陽葵がやっつけたの。でも他に黒いコートを着た男の人がいるのに気付かなくて心臓を剣で刺されて死んじゃったと思ったんだけど、しばらくしてまた心臓が動いたの。体が思うように動かなくて、また戻って来たら今度こそ殺されちゃうと思った時にここを思い出して・・・それでマジックバックから転移石を取り出してお兄ちゃんと私しか知らないこの場所でお兄ちゃんが来るのを待ってたの。またお兄ちゃんに会えて良かった。」
「また心臓が動いたのは訓練の後にいつも飲んでたリバイブ草をマナと一緒に混ぜたお茶の効果だな。大量に飲むと毒なんだけど徐々に慣らして耐性をつけると指くらいなら切れてもまた生えてくるくらいに治癒力が高まるんだ。それで損傷した心臓の傷が塞がったんだろうな。もう5年も飲み続けたら切断された腕ぐらい生えてくるんじゃないか?」
「陽葵知らなかった。そんな薬があったんだね!でも何でお兄ちゃんがその事を知ってるのかも疑問だけど陽葵に無断でそんな毒かもしれないお茶を飲ませていたのってちょっとひどくない?ま、今回はそのおかげで助かったから感謝してるけど・・・でもそれだと私もお兄ちゃんと同じで人間やめちゃったって事だよね・・・」
「言っとくけど僕はまだ人間やめてないからな。それと黙っていた事は謝るよ。でも勘違いするなよ!最近魔物が活発化してるだろ?僕はどうしても陽葵に死んで欲しくなかったんだ。」
「うん・・・」
「とりあえず家に帰ろう。父さんが待ってる。」
家のあった場所に戻ると父さんが泣き崩れて叫んでいた。せっかく苦労してようやく手に入れたエリクサーも対象者がいなければ回復することができない。
「ただいま。お父さんに話がある。実はお父さんがいない間にお母さんが攫われたんだ。怖くて僕達は息を潜めて隠れてるのがやっとだった。何も出来なくてごめんなさい・・・」
僕と陽葵は父さんの服をしっかりと握りしめて泣いていた。
「お前達、何処に行ってたんだ?父さんが帰って来たら家は燃えてなくなっていたし、その上大事な家族まで失ったのかと思って凄く心配したんだぞ!、幸いお前達が無事だっただけでも良かった。ところで攫った奴等の特徴とか何か知らないか?」
「1人は黒いコートを着てたよ。あと2人いたんだけど1人は狐の獣人でもう1人は狐の獣人だった。3人とも男だったと思う。」
「分かった。今から母さんを探しに行くから光輝と陽葵はティモール城塞にある宿に泊まって父さんが帰って来るまでそこで待っていなさい。これはその宿賃だ。光輝、陽葵の事を頼んだぞ。セリス、待ってろよー。お前を絶対に探し出してやるからなー。」
エリクサーを探しに行って帰ってきた父さんだが再び母さんを探す旅へと向かった。




