尋ね人
ある日、父と昔からの友人だと名乗る商人が家に尋ねてきた。父は世界でも名だたる剣士で若い頃は世界を旅していたという話も病弱の母からよく聞かされた。最近知ったのだが父は母の病を治すために高位の錬金術師のみが長い年月をかけて錬成できるというエリクサーを探していたということだ。今でもエリクサーの噂があればすぐに旅の準備をして探しに出かけている。
「隼人、久しぶりだな。近くの街に用事があったからついでに立ち寄らせてもらった。元気にしていたか?」
「あぁ、見ての通りだ。ホフマンも相変わらず元気そうだな。だが少し老けたか?」
「当たり前だ!最後にあった日からどんだけの月日が流れたと思っているんだ。ところでセリスの具合はどうだ?」
隼人と言うのは僕の父の名でセリスというのは母の名だ。
「そうだな。日を重ねるごとに体が少しづつ衰弱しているのが分かる。最近は顔を合わせるたびに無理に笑顔を作る姿がなんだか痛々しくてな・・・今では誰かが手を貸さないと立つこともできない。」
すると突然ホフマンが神妙な面持ちでゆっくりと語り出した。
「話半分で聞いてくれ。高位の錬金術師がバルト山に隠れ住んでいるという噂を聞いたんだ。時々麓の村まで若い娘がポーションや農機具を食べ物と交換しに来るそうだ。今年は何処も不作続きで領主に村長と何人かの村人が減税を申し出たそうだが門前払いされ1人の村人が門番に必死にしがみつきそれを払いのけ武器を持たない村人を門番が斬り大怪我をしてしまった。それがきっかけとなり翌日村の男達総出で反乱が起こった。鎌や鍬といった農機具しか持たない村人に最初の頃は領主も自国領の問題だからと王国には報告しなかったのだが、ついに領主が村人達に捕まり領主の屋敷を占拠してしまったんだ。その情報が王国にも伝わり事態を収拾しようと王国騎士団が動いたんだが騎士の持つ剣が村人の鍬に折られるという事態が起こった。騎士の剣と言えばミスリル製でかなりの強度がある。ポーションも普通の物より効果が高く何でも騎士に腕を斬られ切断しなければ壊死してしまうだろうという重傷を負った者が何事もなかったように治ってしまったそうだ。それを錬成できる錬金術師なら或いはエリクサーも作れるかも知れないと思ってな。ただ今も王国と村は紛争中だ。行くなら王国が村の反乱を鎮圧してからの方がいいと思うがな。」
「ありがとう、ホフマン。それなら期待できるかもしれない。今すぐ行って来る!」
「やっぱりな。お前ならそう言うと思ったよ・・・」
話を聞いた父はすぐに旅の準備を始め母の顔を見た後、家をすぐに飛び出してしまった。
僕は父が出て行ってしまったので半年分の食べ物や薬と言った必要物品を購入したいと話すとホフマンさんは自分が所持しているマジカルバッグの中からそれらを取り出す。
「これくらいでいいでしょうか?」
居間の半分が物で溢れてしまった。
「はい、助かります。」
「毎度、おおきに。今後もよろしゅうお頼み申します。」
料金を払うとホフマンさんは笑顔で言った。
「では私はこれで失礼します。」
ホフマンさんが家を出て行った。
「ねぇ、お兄ちゃん。なんだか嫌な予感がするのは私だけ?」
陽葵はどうやら父の事が心配で不安なようだ。
「お兄ちゃんも一緒に行ってお父さんを密かに守って欲しいの。その間は私がお母さんの面倒を見るから。」
陽葵ももうすぐ9歳になる。料理はできないだろうが何とかなるだろう。10歳の僕に頼むのは僕が父さんよりも強い事を陽葵も薄々だが感じていたからだ。
「わかった。僕も旅の準備をしたら父さんを追いかけるよ。それまでの間、母さんを頼む。あとこれを陽葵に渡しておく。」
僕はインフィニティボックスから1つのマジカルバックを取り出し避難用にとあらかじめ用意してあったマジックバックの所有権を解除し陽葵に渡す。普通マジカルバックには鍵が掛けられているのだが冒険者だった転生前の天馬達は暗証コードを共有していた。冒険者はいつ何があるか分からない職業だからだ。ま、すべてのパーティーがそれをしているかと言えばYesとは言えないが少なくとも天馬達のパーティーはお互いを信頼していたからできたことかもしれない。
「お兄ちゃん、これ何?今のはひょっとして魔法?成人の儀はまだだよね・・・」
「そうだ!インフィニティボックスっていう魔法だ。これは2人だけの秘密な!あとそれはマジカルバックって言って異空間収納できる便利なマジックアイテムだ。今までプレゼントをあげたことがなかっただろ?もうすぐ9歳になるし少し早い僕からの誕生日プレゼントだ。大事に使えよ。」
「インフィニティボックスって魔王討伐を果たした5英雄の1人シモン様しか使えずその後誰も習得できなかった事から失われた魔法って言われているあの・・・それに初めて貰う9歳のお兄ちゃんからのプレゼントが高価なマジカルバック!!!」
それ1つで家3件は購入出来ると言われているマジックアイテムを初めてのプレゼントで貰ってしまい陽葵が困惑している。今から旅をする光輝が万が一のために持っていた方が絶対に役にたつだろう思っているから貰いづらいのだろう。
「僕はまだいくつも持っているから気にするな!」
「えっまだあるの?えぇぇぇぇ!!!」
陽葵の叫び声が辺りに響き渡る。僕は陽葵にマジカルバックの取り扱いとアイテムの説明をしホフマンさんが家を出てしばらくしてから父さんの後を追うことにした。
「お兄ちゃん、お父さんが出て行ってから随分経つけど追いつくかな?」
「目的地は分かっているから、もしも見つからなかったら魔力感知で探すよ。」
「魔力感知?」
「そう、あの魔力感知。」
「お兄ちゃんならもしかしたら50m先くらいなら感知できそうだけどできるの?ちなみにだけど、お兄ちゃんは魔力感知でどのくらい感知できるの?」
「10Km以上だな。それが半年前だから今はもっと範囲が広がっているぞ。それに魔法保有量に依存するのが魔力感知だよな?50m程度っていうのはさすがに兄ちゃんを馬鹿にしているぞ!」
「えぇーーーーー!!!」
陽葵が驚くのも無理はない。魔道士が厳しい訓練をしてようやく習得できるスキルで100m先を感知できる者はAランク冒険者でも数えるくらいだ。それにしてもさっきから陽葵は驚きっぱなしだな。
「お兄ちゃん、さっそくだけど魔力感知でお父さんを探して見てくれるかな・・・」
最近習得したリアリゼーションを使い、目の前の風景が透けて見える円形レーダーに無数の緑、赤、黄色で表示された生体反応を感知したことに少し興奮し、さらに集中すると身近で感じていた父さんの魔力を見つけた。
「陽葵、見つけたぞ!」
「えっ?もう!で、お父さんは今何処にいるの?」
「どうやらティモール城塞の門前に着いたみたいだな。門番の人と話をしている。」
「ティモール城塞ってここから15Kmはあるよ!それに分かるのは位置だけじゃないの?」
「それは最近習得したリアリゼーションのおかげだな。陽葵も見て見ろよ。」
僕は他人にも見えるように可視化しさらに倍率を上げ父さんと門番が話している様子を映し出した。
「本当ね・・・会話は分からないけどお父さんだわ。それに前に一度だけ連れて行ってもらった時に見たティモール城塞の景色だわ・・・」
あとレーダーの位置情報も見せられた陽葵は全身を震わせ、そっと言葉を呟いた。
「チー兄・・・」
小さく呟いた陽葵の声は僕に丸聞こえなのだがお兄ちゃんをそんな目で見るな!それと略さない!と心の中で叫びつつ聞こえなかったふりをした。
「じゃ、そろそろ父さんの所に行って来る!あと今日のことは二人だけの秘密だからな。」
「分かってる。き、気をつけてね・・・」
全身を震わせた陽葵に見送られながら光輝はティモール城塞を目指した。
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