忍び寄る陰
-陽葵視点-
お兄ちゃんがお父さんを追って5日が経過した。お母さんの容態は日に日に悪化するばかり。お兄ちゃんがくれたマジックバックの中に大量の食べ物や日用品があり生活にはしばらく困らないと思う。今は家にいるのが私だけだからお母さんを守れるのは私だけなんだと自分に言い聞かせる。その2人に今まさに危険な陰が忍び寄ろうとしていた。
「兄貴、あの家には今、病気で床に伏せている母親と9歳の娘しかいないそうですぜ。実行に移すなら今がチャンスやと思います。」
「母親はハイエルフで娘は父親が人間だからハーフエルフだな。噂だと生きている純血のハイエルフの血を飲むと寿命が延びるらしいから、きっと高く売れるぜ!エルフは美形揃いだから娘の方も奴隷にして売っちまえばいい値がつきそうだしな。」
兄貴と呼ばれる男は狐の獣人でもう1人の男は鼠の獣人である。2人は夜になるのを待ち気配を殺してゆっくりと家へと近づいて行く。
「お母さん、誰か来たみたいだからお母さんの代わりに私が行くね。」
「そうなの?じゃ、お願いね。」
家から少し離れた所で2つの殺気が止まっていたけど、どうやら動き出したみたいね。家の中には母親がいるため外に出た。
「お嬢さん、家にはパパとかママはいないの?」
「おじさん達誰?ママがね知らない人とはお話しちゃダメだって。だから私お話しちゃいけないの。」
「そうなの?偉いね。でもおじちゃん達はパパとママの知り合いだからいいんだよ。お嬢ちゃんの他に誰かいないの?」
「うん、いるよ。パパーお客さんだよー」
「ん?」
男達は聞いていた情報に食い違いがあることに疑問を抱くが家の中に入ろうと後ろを向く陽葵に男達は慌てて口を塞ごうとしたが魔力感知でそれを躱し足払いをしてから仰向けに倒れた狐の獣人にそのままの勢いで鳩尾に正拳突きをする。
「あ、兄貴・・・」
狐の獣人は白目をむいている。
「次は貴方の番ね!」
鼠の獣人は短剣で斬りかかってきたが素早く身を躱し背中を押すと勢いよく転がり運悪く石に頭をぶつけ気絶する。陽葵は2人を背中合わせにしてマジックバックからロープを強めに縛りホースの水を顔にかけた。
「ひーーーっ」
9歳の少女に大の大人が怖がる姿は他の者がみたら、さぞかし滑稽だろう。
「おじさん達の目的は何?言わないとパパを呼んできてお仕置きしてもらうから!」
男達は下調べで父親が留守の時を狙って計画を実行したはずだと思いながら、もしかしたらいるのかもしれないと疑心暗鬼になっていた。すると突然、黒の外套にフードを目深に被った何者かが背後に忍び寄り陽葵が振り向こうとした瞬間、手刀で意識を刈り取られうつ伏せになっていた。男が陽葵の心臓を背中から突き刺すと辺りには大量の血が流れていた。
「やれやれ、貴方達に依頼した僕にも責任はありますが、危うく任務を失敗するところでしたね。」
フードを被った男はロープを切り狐の獣人達に告げる。
「早く、目的のハイエルフをここへ連れてきなさい。」
「へ、へい。今すぐに」
「コホコホ、あなたたちは誰で・・・」
2人は家の中に入りセリスを気絶させると外で待っている男の元へ向かった。
「ここに長居は無用です。証拠を消してさっさと立ち去りましょう。」
セリスを連れ去った男達は深い夜の闇へと消えた。




