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転生

「お兄ちゃん、お兄ちゃんてばー」


妹の陽葵(ひまり)が僕のお腹の上に馬乗りになって顔を覗き込んでくる。


「お、おはよう。」


今の時刻は4時半だ。僕は眠い目を擦りながら妹と一緒に道場へと足を運んだ。道場に入り礼をしてから中へ入り準備運動をしてから独特の足運びの無拍子で素振りをしながらかけ声とともに壁から壁の往復を始める。30分程経過しそこへ静かに父が道場へ入ってきた。父は何も言わずにただ仁王立ちし、じっとこちらを見ている。


「よし、そこまで!次は乱取りを始めろ!」


「はい、師匠!」


僕と妹が同時に叫ぶ。


「お兄ちゃん、今日は負けないからね!」


「おぉ、望むところだ!」


お互いが正面に向き合い礼をする。


「やー!」


「えい!」


そんな気合いの入ったかけ声が道場を木霊する。


「よし、そこまで!」


何百合か打ち合ったところで父が叫ぶ。姿勢を正し乱れた服装を整えてからお互い正面を向き礼をする。


「お兄ちゃんには、まだまだ敵わないや。」


「陽葵こそ以前に比べたら足運びから打ち込みまでの時間が速くなったんじゃないか?」


「えへ。」


陽葵が照れている。やっぱり妹は可愛い。


 僕は成神光輝(なるかみこうき)。僕は現在10歳、成人の儀を終えていない僕は職業に就いていないので本来スキルを使う事はできない。成人の儀とは15歳になった男女が神殿で洗礼を受け適正のある職業に就くことで初めて様々なスキルを習得することができるのだが僕は生前の記憶があり融合した者のスキルを習得している。そう確信したのは当時5歳で僕が一度だけ森の中で瀕死だったキツネザルのような魔物の子をエクスヒールで助けたことがあったからである。必死に助けたいと願ったとき僕の体を7色の光が包むように光り出したことで、みるみるうちに傷が回復したのだ。このことは家族にも秘密にしている。

成人の儀を終えていない子供の僕が魔法を使えること事態がおかしいからだ。比較的魔力消費量の多いエクスヒールを子供の僕が使えたのは鳳天馬の記憶が胎生の時からあり魔力保有量が成長期に魔力を消費することで伸びやすい事を知っていたからだ。生後間もない頃から頭の中で魔力操作をしながら睡眠学習をし3歳頃からは常に魔力を体内循環させることで魔力代謝を上げていた。しかし最近徐々に魔力保有量の成長が緩やかになってきたのでそろそろ別の訓練方法も考えなくてはと思っている。ちなみに融合した全ての魔法やスキルを習得するには光輝の体はあまりにも幼く耐えられないため転生時、女神によって全てのスキルを封印されている。今回、光輝の強い思いがスキル解放へと導いたのだ。


 妹の陽葵は8歳。何処へ行くにも僕の後ろをぴったりとついて来て何かと僕の真似をしようとする。

黒髪が肩まであり笑うと口角に小さなえくぼが出来るのが特徴だ。そんな陽葵が今日も一緒に付いてきて森の中程まで来たところで石の上に座って精神統一をしている僕の真似をして同じように隣の石の上に座って目を瞑っている。この訓練は目に頼らず肌で気流を感じることで魔力感知能力を上昇させることができる。以前、陽葵にこの訓練の意義を教えてあげたからこれまでの成果を見るために前から考えていた遊びをすることにした。


「陽葵、今から隠れんぼをしよう。ただし鬼は目を瞑ったままで探し隠れた人は一度隠れた場所からは動かないのがルールだ。探す範囲が広いと難しいからまずはここを中心に50歩以内にしよう。最初は僕が鬼になって10数えてから探すから陽葵は好きな所に隠れて。と言ってもこの開けた場所で100歩なら目を開ければ何処にいるかすぐに分かるから隠れてはないかもだけどな。10分経っても見つからなければ隠れた方の勝ちだ。」


「うん、わかった。」


陽葵が50歩程進んだところでその場に止まる。10数えた僕は迷わずまっすぐ陽葵の肩をちょんと叩く。


「えっ?お兄ちゃん何で目を瞑っているのに分かるの?」


陽葵は不思議そうに言った。


「気配を察知できるようになれば見なくても相手の位置が分かるようになるんだ。」


「じゃ次は陽葵が鬼の番な。」


「うん、わかった。」


僕は陽葵から30歩離れた場所で足を止める。と言っても陽葵よりも僕の歩幅は長いからこれくらいがちょどいい距離だと判断した。


「お兄ちゃん、どこ?近くにいるんだよね?」


僕は静かに声を出さずにじっと見守っていた。


「お兄ちゃーん何処、お兄ちゃーん。」


陽葵がいつまでも僕を見つけることができないため今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

10分経つ頃には陽葵はその場でしゃがみ込み泣き出してしまった。


「陽葵、もう目を開けてもいいぞ。」


「お兄ちゃん!」


今まで泣いていた子が嘘のように泣き止んで僕の胸に飛びついてきた。今日はここまでにして陽葵の手を繋ぎ頭を撫でながら家へと帰ることにした。翌朝からは道場での訓練の合間に森へ行き精神統一をしてから隠れんぼをすることが日課となり始めは僕を捕まえることが出来ずにいた陽葵も今では真っ直ぐ僕の方へ向かってくるようになった。


「よし、次からはこの開けた場所内で隠れる者は動いていいものとする。」


この日から訓練の難易度を少し上げた。20日程で陽葵が僕を捕まえたところで次の段階へと進む。


「今日の隠れんぼもルールは同じだが1つだけ違うのは今から僕は気配を消す。これは対象の魔力を察知する訓練だ。あと気配を消す訓練も兼ねている。ここからは難易度が以前よりも増すぞ。」


「うん、早くお兄ちゃんに追いつきたいから陽葵頑張る!」


「じゃ、陽葵が先に鬼な。」


僕は明鏡止水を使い自身の気配を消す。


「わぁーお兄ちゃんの気配が完全に消えてる!こんなの探せっこないよー」


陽葵が弱音を吐いた。さっきまでの意気込みは何処に行ったんだ?


「大丈夫!その場にいる者を探すだけだ。ヒントは微細な魔力の流れを感じること!生物である以上呼吸をするときに体を巡る魔力が僅かに変化する時があるからそれを感じ取れ!」


「そうは言っても全く乱れてないよ、お兄ちゃん・・・」


「あっ!悪い・・・」


完全に気配を消し、いつもの癖で陽葵が探している間ずっと呼吸をしていなかった。この日、この発言で、光輝の背中が未だ遠いことに気付く陽葵であった。1ヶ月が過ぎようとした頃、陽葵はかなり魔力感知と明鏡止水を習熟していた。


「はい、お兄ちゃんの負けだよ!」


「すごいぞ陽葵!完全に魔力感知を習得できたな。明鏡止水はあと1歩ってところだけどな。そろそろ休憩しようか!陽葵兄ちゃん特製のお茶飲むか?」


「うん、ありがとう♪」


陽葵もかなり上達し今では自分を中心に15mくらいの範囲で気配を消している者を感知できるようになっていた。ま、僕の魔力感知は1Kmだけどね。だがあえてこのことは言わない。せっかく喜んでいるのに水を差すのはどうかと思う。僕は妹思いなお兄ちゃんだからと自己満足に浸る光輝であった。

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