死の海域
翌朝、父はハルマヘラ大陸へ向かう定期便に乗ったので僕はこの港の露店で食料やアイテムを購入し旅の準備をしてからミルと別れ巡視船で一定の距離をとりつつ父の後を追うことにした。
「キェェェーーー」
魔力感知で父の乗る定期船を観察していると海中からトビウオのように飛び跳ねて船の中に侵入するたくさんのサハギンと戦闘をしている父達の姿が見えた。
「こいつら、ちょこまかと動きやがって!」
父の他にも冒険者や護衛の者達が次々とサハギンを倒し乗客達は船の中に避難していたので負傷者等はおらず攻勢の不利になったサハギン達は海中へと逃げていった。戦闘を終え船は再び航行したが、やがて死の海域へと入った。この海域を渡航する船が何度も沈没していることから船乗り達からこう呼ばれている。この海域に侵入してから30分後、船が何度も大きく揺れ速度が落ちやがて止まってしまった。
「船長!キラーシャークの群れです。」
どうやらサハギン達の血の匂いを嗅ぎつけて今度は20mはあるキラーシャークの群れが船の周囲を取り囲んで船に体当たりをしているようだ。冒険者達は魔法や各々の武器で、船員達は銛や水中銃で応戦しているがキラーシャーク達の攻撃の勢いは一向に衰える気配がみられない。手助けが必要か?と思った時、事態は一変する。突然、海面に渦が出来てそれは徐々に大きくなり今にも船を飲み込みそうな勢いであった。
「船長!船尾に無数の渦が発生しています。」
海中に無数の渦ができ、やがてそれは船をも飲み込む程の1つの巨大な渦となり周囲の海水やキラーシャークとともに船も飲み込まれていく。緊急事態であると判断した僕はすぐにその渦の発生した周辺を中心に魔力感知で父達を探すが消えてしまった。ただ、1つだけ大きな魔力を持つ生物が北へと向かっていることが分かり僕は潜水艇に乗り換え、後を追うことにした。
「よし、どうやら動きもないし睡眠に入ったかな。」
その大きな生物は白鯨でどうやら潮の流れに任せて眠っているようだった。今のうちに船の人達を救出しようと侵入できそうな場所を探すが一向に見つからない。
すると白鯨の瞼が突然開いた。だが攻撃はせずに、ただこちらをずっと観察していた。
「小さき者よ!我に何か用か?」
頭の中に語りかけられたのだが、なぜか白鯨の言葉が理解できる。これも古龍の知恵か?
「貴方の飲み込んだ船の人達を助けに来ました。どうか解放してください。」
「小さき者よ!我の言葉を理解するか。はてそのような物を飲み込んだ覚えはないのだがな・・・」
どうやら白鯨は嘘はついているつもりはなく本当に心当たりがないようだ。
「いてててて・・・」
突然、白鯨が苦しみ出して暴れたため海中に巨大な渦ができていた。僕は流されないように魔法で体を固定し必死にその場に留まる。
「すまぬな、5年程前から突然腹痛を起こし最近はその間隔が短くなってきているのだ・・・それに何だか食欲もないし儂も歳で死期が近づいているのやもしれん・・・」
「もしかしたら、貴方の暴食が原因かも知れません。僕が何とかしますから船の解放をお願いします。」
「分かった。頼んだぞ!小さき者よ。」
僕は消化液から潜水艇を守るために魔法でコーティングし白鯨の口から侵入し胃の中を目指した。中に入ると行く手を阻む節足動物のような足の長い触覚を持つ魔物やクラゲのような魔物が無数にいたので次々と葬っていく。さしずめ人間でいうところの常在細菌と言ったところだろう。ようやく胃の中に到着し潜水艇から出ると目の前には無数の船が散乱しておりインフィニティボックスで船を次々と回収していくと1隻だけが残った。5分ごとに海水と一緒に魔物も流れて来て、キラーシャークを含めた無数の海魔物も攻撃してきたが剣や魔法で次々と倒していき一緒に回収していく。魔力感知で魔力反応がないか探すと1つの大きな反応がありその場所に行くとそこには足の退化した巨大な蛇のような水龍がいた。どうやら水龍は食事中だったようで僕が近づいても気付いていなかったので明鏡止水で近づき剣で頭部を一閃し切り落とした。胴体は絶えず悶え頭部だけが僕を攻撃しようと鋭い牙で襲いかかってきて何度か毒液を噴射してきたが10分後ようやく息絶えた。僕はそれをインフィニティボックスに回収し胃の中が所々傷ついていたのでエリアヒールで回復し船を白鯨の鼻孔の中程まで移動し潜水艇で外へ出た。
「痛みは治まりましたか?」
「さっきまでの痛みが嘘のように今は痛みがない。それになんだか食欲も湧いてきたぞ。ところで原因はなんだったのだ?」
「たぶん、胃液で消化できなかった無数の船が原因だと思います。胃の至る所に潰瘍ができていたので、ついでに回復魔法で治療してきました。あと船は鼻孔の中程まで移動させたので海水と一緒に吹き出してもらえたら出ると思います。その船はハルマヘラ大陸行きの定期便なのですがバルト山近くの海で出して貰えると助かります。」
「そうであったか!何かお礼をせねばいかんな・・・そうだ!わしの髭を切って持って行くが良い。武器にも防具にも薬にもなるから重宝するぞ。船の件は分かった。」
「いいんですか!それでは遠慮なく頂きます。」
僕は剣で白鯨の髭を根元から2本切りインフィニティボックスに回収した。
「わ、儂の自慢の髭がーーー!!!」
白鯨は30mはある髭をまさか2本とも根元から切られるとは思っていなかったようで左の瞼からは一滴の涙を流していたので、それもインフィニティボックスに回収する。
「なーに10年もすれば生え替わるから気にせんでもよいぞ・・・」
白鯨はそう言っていたが涙を流していたからきっと強がりだろう。こうして白鯨は約束通りバルト山の見える近くの海で船を鼻孔から海水と一緒に出して定期船は街の人達に助けられた。
みなさんに読んでいただいているのかが分からないため本作品をこのまま続けていこうか悩んでいます。続きが読みたいと言う方は是非、下にある評価かブックマークをしていただけると執筆に力が入ると思いますのでよろしくお願いします。




