継承
「みんな、ここまでよく頑張ったな!この扉の先にいる魔王を倒せば僕達の旅も終わる。行くぞ!」
アランは勇者の固有スキル、インスピレーションで皆の士気を上げ決戦に挑んだ。このスキルは仲間のあらゆるステータスを50%上昇させることができる。アランが扉を開くと野球場くらいはあるだろうか?天井の見えない大広間に3本の角を装飾した兜を被り3つの顔を持ち額には魔眼と呼ばれる赤眼があり6本の腕にはそれぞれ剣2本、斧、槍、モーニングスター、杖、といった多種多様の武器を持つ魔王が玉座に座っていた。アラン達が部屋に入ると魔王はゆっくりと立ち上がる。身長は優に5mはあるだろうか?
「プロテクション」
ヒーラーのマリアが物理・魔法防御を100%上昇させるプロテクションという魔法を皆に詠唱する。
「ウィークネス」
続いてマリアが5分間、対象の最も低い能力を50%弱体化させるデバフを詠唱する。
「この身に宿せ。出でよ鉄心!」
陰陽師である鳳天馬は生前に剣豪であった鉄心を降霊し戦いに備えた。
コマンダーである朝比奈椿はいつでも発射できるように後方からバズーカー砲を身構えている。
「この部屋まで来たことは褒めてやろう。しかしここまでだ!」
魔王が斧をもつ腕を横に払うと凄まじい旋風が起こり前方にいたアラン、椿、天馬が壁まで飛ばされ激突した。
「エクスプロージョン」
後方にいた魔術師のシモンが攻撃魔法を放つと同時に椿もバズーカー砲を放ち魔王は左腕でそれらを薙ぎ払った。魔王の薙ぎ払った左腕が痺れ持っていた槍をその場に落とす。椿はショットガンに持ち替え応戦するが魔王の覇気がそれらを通すことはなく弾かれた。
「メテオバースト」
異空間から召喚した大質量の大岩が雨のように魔王の頭上に降り注ぐ。床は陥没しまるで爆撃機による襲撃跡のような光景であった。魔王は無数の深い傷を負いうつ伏せで倒れていた。
「羽虫の分際でよくも私を地につけたな。地獄の苦しみを味わうが良い。」
魔王はゆっくりと立ち上がると治癒活性によってみるみる回復していきシモンへと突進する。アランは魔王の攻撃を阻止しようと走るが3歩間に合わず魔王が胸を剣で袈裟切りするとシモンは静かに倒れた。
「よくもシモンをー!」
アランが魔王の背後をとっている。このまま攻撃すれば致命傷になるはずだったのだが魔王はそのまま椿に向かって突進しアランのエクスカリバーが空を切る。椿がロケット砲で攻撃するとそれを投げ捨て今度はマシンガンで応戦し、天馬が印を結び爆裂札を投げて魔王を攻撃する。だが椿は魔王のモーニングスターを体でまともにくらい壁に激突し口から血を吐き、今度は天馬に魔王の手掌から放たれた操気魔弾が襲う。ぎりぎりのところで躱したのだがバランスを崩したところに再び操気魔弾が天馬を襲いまともに食らってしまった。2人とも辛うじて息はしていたが虫の息だ。マリアはシモン達の治療をするために効果が届く範囲まで駆け寄った。
「エリアヒール」
エリアヒールは範囲内にいる者の生命力を中回復する魔法だ。
みるみるうちに天馬の怪我が癒えていくがシモンはまだ倒れたままだった。シモンは先ほど魔王の幻惑の剣により傷は癒えたが精神状態までは回復していなかった。
「マリア、助かった。」
天馬がマリアの手を取り立ち上がる。
「我としたことが迂闊であった。ヒーラーを先に倒しておくべきだったな。」
魔王がにやりと笑い魔眼からダークレイを放つ。マリアを認識した瞬間、光線はマリアの心臓を寸分違わず射貫きマリアが息絶えた。
「マリアーーー」
マリアの死を間近で見ていたシモンが叫ぶ。
「サンダーボルト!サンダーボルト!サンダーボルト!・・・」
一心不乱にサンダーボルトを放つボーフォートだったが魔王の肉体には届かず魔力を枯渇寸前まで消費したシモンは持っているマジックポーションを1本飲み干し全体の6割程まで回復する。
「アイアンメイデン」
ボーフォートが禁術を使い魔法金属で構成されたアイアンメイデンで魔王を束縛する。この魔法は強力な束縛効果があり内側にある金属の棘がぐいぐいと食い込み持続的なダメージを与えることができるのだが常に魔力を注がなくてはならない。
「グォヌォォォォ!!!」
魔王が力を込めても開くことができず力を込めれば込めるほど体に棘が食い込んでいった。
5分が経過しボーフォートの魔力が尽きたところでアイアンメイデンがゆっくり開くと全身を自身の血液で染めた魔王が現れた。どうにか立っているようだがふらついている。
「今がチャンスだ!一斉攻撃しろ!」
アランが皆に指示を出す。
「次元斬!」
次元斬とは空間ごと切り裂く防御不可避の勇者だけのユニークスキルだ。アランがエクスカリバーで袈裟切りすると魔王の左腕が1本床に落ち逆袈裟切りでさらに右腕を1本切り落とした。
「おのれーーー下等な人間風情が!生かしては帰さぬ!」
魔王が痛みで顔を歪め叫んだ。
「風絶」
続いて天馬が無数の札で起こした竜巻で真空の刃が魔王を切り刻む。
「食らえー!」
椿がキャノン砲を放つと払いのけた左腕が1本力なくぶら下がっている。幻惑から抜け出したシモンがゆっくりと立ち上がる。
「ここで奴を殺さないとマリアを目の前で殺された俺の気が済まない。中途半端な攻撃じゃ倒せそうにないし魔王だから魂ごと滅ぼさないとすぐにまた復活してしまうからな。今の俺には魔力はもうほとんど残っていないが奥の手を使おうと思う。みんな、今までありがとな・・・」
「シモン・・・」
今生の別れとも言うべき言葉を残しシモンは意を決し命を燃やして地獄から炎を召喚する禁術を使い魔王の体を紅蓮の炎で包む。
「ディスティニーオブフォール!」
その炎は対象物を燃やし尽くすまで消えないと言われており例え術者が死んでもその燃えさかる炎を消すことはできない。
「シモーーーン!」
生命力が尽きて倒れたシモンが再び目を覚ますことはなかった。
だが今も魔王の体を燃やし続けている。
「おのれー下等な劣等種族の人間ごときに我が・・・」
炎の中から魔王の声が聞こえてくる。
「モータルインビテーション!」
魔王が詠唱したモータルインビテーションは範囲内にいる複数の対象を高確率で文字通り死へと導く禁術だ。運悪く範囲内にいたアランが突然心停止しその場で倒れた。
「アラーーーン!」
天馬が叫ぶ。
「ダークレイ」
魔王のダークレイが一筋の黒い光の線となって天馬に向かって放たれる。
「天馬ーーー!」
近くにいた椿が天馬を突き飛ばしたが代わりに椿がダークレイをその身に受けてしまった。
辛うじて即死は免れることは出来たが出血量が多く致命傷だ。
「椿、このポーションを飲め。」
天馬は椿に近づきポーションをゆっくりと口に注ぐが嚥下できなかった。天馬はポーションを口に含み椿に口移しで飲ませると、なんとか自力で立ち上がるくらいには体力が回復した。
「天馬、ありがとう・・・」
椿が頬を赤らめてお礼を言う。そんな中、炎に包まれる魔王の体がさっきよりも一回り大きく見える。
「あ、あれは魔力暴走よ!この島くらいの大きさなら一瞬で吹き飛ばすくらいの威力があるかもしれない・・・」
とにかくとんでもない威力のようだ。魔力暴走とは魔力保有量が高ければ高いほど威力を増す爆弾のようなものだ。魔王の魔力保有量は莫大であるためその威力は想像ができないくらいに被害も甚大になるだろう。
「天馬!すぐに父さんの魂を融合しろ!今のお前ならできるだろう。」
突然頭の中に父さんの声が聞こえてきた。魂の融合とは降霊術の中でも一子相伝の秘匿とされるべき秘術だ。これを使うと融合した魂の生前持っていた知識を得てスキルを降霊しなくても使う事ができるが二度とその人物を降霊できなくなる。つまり父さんとは二度と会話することができなくなるのだ。先代が後継者の実力を認め融合するに相応しいと判断した時に行われる。本来誰もいない部屋でそれは行われるのだが僕は父さんの魂を融合することを決断した。
「わかったよ、父さん。死んでからも僕の事を助けてくれたことには本当に感謝しています。いままでありがとう。」
「あぁ、魂が融合しても父さんはいつもおまえの心の中にいるからな。」
天馬は父の魂を自分の魂と融合することに成功した。
「天馬、私の魂も融合して欲しい。」
頭の中でマリアの声が聞こえた。
「そうだな、俺たちの魂を有効活用してくれ。魔力暴走は範囲内にいる者の肉体は勿論、魂までも消滅させてしまうと言われているからな・・・」
魔術師のシモンが呟く。
「僕の勇者としての力も使ってくれ。僕だけは魔力暴走でも魂が消滅することなく魔王復活の兆しがあった時、再び転生することができるが転生して生まれ成長した者が、復活した魔王を倒せる保証は何処にもない。それなら僕達の力を継承した天馬が勇者として転生してくれた方が知らない奴の何倍も後を任せられる。」
アランの信頼が伝わってきた。
「爆発するまでにまだ時間があるはずだから僕達の魂を受け取ってくれ」
「みんな、ありがとう。」
「天馬がみんなを降霊している間は私が何とか攻撃を防ぐから、ちゃんと引き継いでね。」
椿は天馬の前に立ち魔王の攻撃に備えて体と同じくらい大型のミスリル製の盾を構えた。
天馬の中にアラン、マリア、シモンの魂が体の中に吸い込まれるように入り融合していく。
「フフフ、もうすぐこの辺りは塵も残さず消滅するだろう。我とともに朽ち果てろ!」
魔王がそう言い放った頃には元の体の5倍に膨れ上がっていたがまだ膨張は続いている・・・
「アラン達の魂も融合できたようね。天馬、これが最初で最後のわがままだから何も言わずに聞いて!どうか私の魂も融合してほしい。頼んだからね。」
椿は自分のこめかみに銃身をあて自害した。
「椿?」
僕は一瞬何が起こったのか理解できずただ呆然としてしまった。
さっきまで目の前で会話をしていた椿が僕の眼前で横たわっていた。
「さぁ早く!時間ないよ。」
たった今死んだ椿の声が頭の中で響く。
「分かった・・・」
天馬は椿を降霊し魂を融合した。こうして勇者パーティーは僕を残し全滅してしまった。もうすぐ僕も死を迎えるだろう。望みは薄いが僕はここからの脱出を試みる。魔王が落とした装備品と様々なアイテムが入っている仲間のマジカルバックも一緒に回収し融合で習得したインフィニティボックスに入れた。インフィニティボックスとは異次元にアイテムを収納でき時間という概念がなく劣化もしない便利な魔法で容量は保有魔力量に依存する。ただし生きているものは収納できない。扉の前まできた天馬が詠唱する。
「デストロイド」
すると扉が目の前から消滅した。デストロイドとは無機物を原子レベルにまで分解し消滅させる魔法だ。天馬はひたすら長い廊下を走り魔王のいる部屋から離れる。どのくらい走っただろうか?無我夢中で走ると目の前に光が見え魔王城の外へ辿り着いた。ここまでくれば大丈夫だろう。だが念のため3重にして対象1人の魔法防御を3分間、100%上昇させるマジックバリアを張り巡らせる。
「助かった!」
そう思った瞬間に魔力暴発が起こり一瞬で天馬の肉体は跡形もなく消滅してしまった。こうしてその日を境に魔王の住んでいたドルメシア大陸が世界地図から姿を消した。
続きが読みたいって思われた方は下の評価ボタンを押して貰えると執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。