とある乙女ゲームのサポートキャラ
「私、頑張ったよ・・・」
ここは乙女ゲームの世界だ。
シナリオはハッピーエンドなら問題ないが、バッドエンドの時には王位継承の争いで王都が炎上したり軍の弱体化が露呈して隣国と戦争になったりする恐ろしい世界だ。
バッドエンドのグラフィックスには王都で火だるまになっている市民や、隣国の兵士に髪を捕まれて連れて行かれる少女が隅の方に描かれていた。
これ、R15にも指定されてない乙女ゲームだよね・・・
とにかくサポートキャラとして転生した私の責任は重大である。
ちなみによくある学園入学前のバッドエンド回避には失敗した。
だって私の実家は貴族とはいえかなり下の方で、しかも実母は既に亡く後妻が産んだ嫡男までいるから、私の立場は使用人のような扱いだった。
しかも雇いの使用人は夕方には仕事を終えて自分たちの家に帰れるのに私は帰れない。
職場まで徒歩ゼロ分・・・
シンデレラ並のこの不幸っぷり、私がヒロインでも良いんじゃないだろうか。
ここから逆転するなんてどんな無理ゲーだよ。
そんなこんなで学園に入学したけど、まずなぜかヒロインではなく悪役令嬢に捕まり手下としてこき使われ、あげくに王子様や魔術師様に捕まってヒロインのことを調べさせられ、それが悪役令嬢にばれて虐められたりした。
虐められるのってヒロインのお仕事じゃないの!
その後、校舎裏で王子様や悪役令嬢の悪口を言いながら庭木に当たっていたところをヒロインに見られてしまった。
ねえ、ヒロインって普通は天使みたいに心根の美しい人じゃないの。
その日から私は二重スパイ兼悪役令嬢の手下という複雑な立場に立たされた。
だってヒロインが王子様に告げ口するって私を脅すから・・・
でも多少の救いはあった。
ヒロインは魔術師様と両思い、問題は王子様がヒロインに懸想しているので平民のヒロインからは断りづらいということだけ。
悪役令嬢は王子様を愛している。
王子様がヒロインのことを諦めて、婚約者である悪役令嬢とよりを戻してくれればすべてがハッピーエンドとなるのだ。
私は隠れて四人の間を飛び回り、あるときは悪巧みに付き合わされ、またあるときは情報操作により四人の行動を誘導したりした。
その甲斐あって最終的にはヒロインが魔術師様と結ばれ、そのせいで自暴自棄になった王子様の傷心につけ込んで悪役令嬢に攻略させたりした。
それらいろいろのせいで私の学園での成績はぶっちぎりの低空飛行である。
仕方がないじゃない、あいつら授業を無視して私を呼び出すんだよ。
おまえらは家庭教師に習ったり、チート能力で優秀な成績を維持できたかもしれないけど、四人が個別に呼び出せば私の勉強時間なんてないのよ!
それに呼び出されたら明日までに調べておけって・・・もうやだ。
でも王子様や魔術師様、悪役令嬢である侯爵令嬢や未来の魔術師様(公爵)の妻と縁をつなぐことが出来た。
あれだけ助言や情報を流したのだ。
私のおかげで四人はハッピーエンドを迎えられたのだから、当然婚約発表の場にはそれなりのポジションで招待されるでしょうし、その後もお願いすれば夜会やお茶会に呼んでもらえるだろうから婚活も比較的楽でしょう。
まあ、そんな感じに気楽に考えていたのですよ・・・
「チクショー!どっちからも招待状がこない。なんでだー!!」
四人とも自分ではろくに動こうとせずに権力や弱みにつけ込んで、労働基準法も真っ青のブラック企業のように私をこき使ったよね。
実家には有力者とお近づきになれたと報告して成績が悪いのを許してもらっていた。
詰んでる・・・
いやいや、これはあれだよ・・・招待状が郵送の途中で行方不明になったんだよきっと。
ここは直接訪問して”招待はされなかったけど婚約のお祝いだけは伝えたかった”なんて言えばきっと今からでも招待してもらえるよきっと。
私は悪役令嬢とヒロインに訪問したい旨の手紙を出した。
黙殺された。
一応はこちらの希望した日に直接伺ってはみたのですが、どちらにも相手にされなかった。
でもね、悪役令嬢は侯爵家だから仕方がないにしてもヒロインは魔力が強いだけの平民だよ。
「何で貴族の私がお断りされなきゃならないのよ!」
嘆いたって仕方がない。
屋敷に帰って今後のことをゆっくり考えよう。
甘かった・・・
ヒロインの家で門前払いを受けた後、屋敷に帰ってみれば玄関の前に旅行鞄が一つ置いてあった。
これって悪役令嬢によくある追放エンドですか?
屋敷を追い出された私は身につけていた少し高級な服などを売ってお金を手に入れた。
だって旅行鞄にはワンピースと下着しか入ってなかったから・・・
ところで侍女は私と同行していたからこの旅行鞄を用意したのは執事だよね。
この世界はヒロインと攻略対象以外の扱いが酷くない。
私はその日から住み込みの仕事を探した。
宿に泊まる金もないのだからどんな低条件でも住み込みの仕事を探さなければ生きていけない。
だが私は町の恐ろしさを理解していなかった。
幸か不幸か私の顔、特にお胸様が残念だったため、なけなしの金は取られたが娼館には売られなかった。
この世界ではロリコンは流行っていないらしい。
私は裏路地に寝転んだまま星空を眺めながら考える。
先日、王子様や魔術師様の婚約に城下は賑わいを見せた。
あの日は食べかけのお肉にもありつくことが出来た。
「もういいよね・・・」
私は良心を捨てた。
心でお腹はふくれない。
このゲームのバッドエンドには王家や高位貴族の色々な秘密が関わっている。
ゲーム期間は既に終わっているがその秘密の内容が解決されたわけでも、価値が無くなったわけでもない。
私は残り二人の攻略対象である第二王子と悪役令嬢の弟に接触した。
これにはサポートキャラとしての唯一のチートである気配を消す能力が役に立った。
まあ元々は情報収集のための能力であろう。
「父上!これはいったいどういうことですか?」
「控えよ!おまえは既にワシの子ではない。王妃が不義の子であることを認めた。だがこれまで息子として接してきた情も多少はある。だからおまえは侯爵家との婚約を解消し病気療養のために辺境の王領で養生してもらう」
「そんな・・・私と彼女(悪役令嬢)は愛し合っているのです」
「ああ、あれはもう隣国の国王の第四夫人を予定している。侯爵家も王子でないおまえより勢いのある隣国とのつながりを有益だと喜んでいたよ」
「公爵(魔術士)よ、魔力の強い者同士の婚姻は国策である。魔力量を魔石により偽りその地位を得ていたそなたにあれ(ヒロイン)との婚姻は承認できない。あれは王家がもらい受ける。王太子は無理だが絶倫の第三王子の側室には丁度良い。あれが魔力が強い子を数人産んだ後であれば下賜してやっても良いぞ。とにかくそなたとあれの婚約は解消だ。ああそれとそなたは追って沙汰を下すまで謹慎しておれ」
ざまあみろ!
私は王太子となった第二王子と次期侯爵である悪役令嬢の弟の元でこき使われている。
現状に不満はない。
だって今までのブラックな状態よりは屋根もあるし食事や睡眠が与えられる現状は快適だといえる。
今のところ二人からの命令は実行不能なほどの仕事量ではない。
だから問題ないのだ。
それに・・・・・何かあったら二人も破滅させれば良いのだから。