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雑貨店と同級生

 今週末からゴールデンウィークだ。

 会社を何日休めば何連休みたいなことをニュースなどで言っているが、平日は普通に授業がある。

 そして玲奈にはとくに予定もない。

 どこにも行く気がない彼女にはニュースなどでやるゴールデンウィーク特集などどうでもいい代物だった。


 曇り空のした、玲奈は空を見上げ、このあとどうしようかと考えた。

 月曜日。午後の授業を終え、時間は3時前。

 アパートまで5分だが、部屋に帰っても何もすることがない。

 ひとり暮らしを始めて1か月。まだ部屋の中は殺風景だから雑貨でも買って部屋を飾ろうか。


「玲奈」

 声を掛けられ振り返ると、中学からの同期生である進藤キリトが立っていた。

 焦げ茶色の髪に、縁なしの眼鏡をかけた童顔の少年だ。

 黒い綿パンツに、斜めに丈が長くなるカットソー、それにベストを羽織っている。


「探したよ。一緒の授業なのに気が付くといなくなってて」

 彼は玲奈の目の前まで近づいて言った。

 走ってきたらしく、彼は肩で息をしている。

 何で自分を探していたのかわからず、玲奈は首をかしげた。


「なんか用なの?」

「ゴールデンウィークなんだけど、暇ある?」

「バイト」

「え? 決まったの?」


 目を瞬かせて、キリトが言う。


「うん。この間から雑貨屋さんで働き始めたの」

「雑貨屋ってどこ?」


「ほら、駅まで行くのに商店街通るじゃない? そこにある『アルテミス雑貨店』」

「えー? ほんとに? ほんとにそこで働き始めたの?」


 驚きと困惑。そんな表情が入り乱れるキリトが、玲奈にはわけがわからなかった。


「ここ入ってすぐ噂聞いたけど、今まで何十人もバイト落とされてるっていう。それに店員が超かっこいいとか……」


「うーん、よくわかんないけど、受かったの。条件もいいし。月6万以上は自分で稼げって親に言われてるから」


「っていうか、家から通ったって1時間もかからないのになんで家でたの」


 言いながら、キリトは首をかしげた。

 ふたりの出身地は、ここから2つ市をまたいだところにある。

 キリトの言うとおり、通えない距離ではない。


「ひとり暮らししたかったんだもの。だって、学校まで5分よ? 30分以上余計に寝られるじゃない。電車の時間を気にしなくていいし」

「そ、そんな理由?」

 呆れ顔になるキリトに、玲奈は胸を張る。


「だって、睡眠時間は大事だもの」

「わ、わかったから。じゃあさ、今度家遊び行っていい?」


「えー、やだ。まだものないし。だからこれから買い物行こうと思って」

「じゃあ、俺も一緒に……」


「れいなー!」


 勢いよく、玲奈に背後から抱きついてくる者がいた。

 癖のある黒い髪。ジーパンにカットソー、紺色のカーディガンという玲奈とは違い、膝丈のスカート、フリルのついた白いブラウスに、ジャケットを羽織っている。

 結城音羽ゆうき おとは。玲奈、キリトと同じ高校だった少女だ。


「音羽」

「あ、ごめん。進藤いたの。邪魔だったかしら?」


 茶化すように音羽が言うと、玲奈は不思議そうな顔をして、


「え? 何が邪魔なの?」

 と言った。

 音羽は玲奈から離れると、不満そうな顔をするキリトを無視して玲奈に向き直った。


「ねえ、玲奈。この後予定ある?」


「え、うん。商店街で買い物して行こうと思って」


「じゃあ私もついてっていい?」

「別にいいけど」


 玲奈が言うと、キリトが音羽を押しのけた。


「俺も行く」






 どうしてこうなった。

 そんなことを思いながら、玲奈は商店街を歩いていた。

 後ろでは音羽とキリトが言い合いながらついてくる。


「……俺はゴールデンウィーク出掛けたいけど」


「どこに行きたいわけ?」


「うーん、いや、一緒に考えればいいかなと」


「そんなんだから何の進展もないんじゃないの?」


 この二人は高校生の時から仲がいい。

 キリトが玲奈にくっついてくると必ず音羽が割り込んで、キリトに絡む。

 こんなに仲がいいのに、ふたりはとくに付き合っているとかではないらしい。


「で、玲奈。何買うの?」

「うーん。コップ買い足したいのと、なんか飾るもの?」

「どこ買いに行くの」


 音羽の問いに、玲奈は歩みを止める。

 そういえば考えていなかった。

 商店街にはちらほら近所の人と思しき人影があった。

 八百屋や魚屋、肉屋へと人々が入っていく。

 それに学校帰りと思しき小学生たち。

 玲奈と同じ大学生らしき姿もある。


 駅まで行くのに通る道なので、それなりに人通りはあるが店に入る者は少ない。

 商店街の終わり近くに、その店はあった。

 アルテミス雑貨店。

 女性の二人組が店に入っていくのが見える。

 玲奈は先日から職場になったその店に行くことにした。

 2日間働いて、いいな、と思ったものがいくつかあった。

 ほしいものがあったら少し値引きするよと、甲斐にも言われた。


「あそこ行く」

 玲奈は雑貨店を指差した。


「あれって、玲奈がバイトしているお店?」

 キリトの声が聞こえる。なんだかいやそうな感じがするのは気のせいか。

「うん。可愛いの売ってたから。デパートまで行くのは面倒だしあそこでいいかなって」


 駅の前まで行けば、駅ビルやデパートがあるが、そこまで行くには10分くらいかかる。正直面倒に感じ、玲奈はすたすたと雑貨屋に向かって行った。


 ドアを引くと、カランコロン……と鐘が鳴る。


「いらっしゃいませ」

 よく通る甲斐の声が、店の奥から聞こえた。

 そのあと、女の子たちの甲斐を呼ぶ声が続く。

 先ほど入って行った女性二人組に、甲斐は捕まっているようだ。


「あ、ケットシー」

 玲奈の横を抜け、音羽が入り口そばにあるケットシーグッズを手に取る。


「すごい、ケットシーグッズ置いてあるー。嬉しいー」


「ああ、音羽好きだっけ、それ」


「うん。でも最近あんまり売ってるお店ないんだよねー」


 言いながら、音羽は次々とケットシーグッズを手に取っている。

 店内には他に客の姿はなかった。

 そして店の雰囲気にはあまり合わない激しい音楽が流れている。

 昨日はたしか静かな音楽だった。

 交互に激しい音楽の日と静かな音楽の日があるらしい。


「このセンスはいったい……」

 店の右手奥で、キリトが商品を手に取り首をかしげている。

 そこはやたらごつい十字架や、怪しい雰囲気の本や髑髏などが置かれた一画だ。

 タロットや銀の食器と言うのも置かれている。

 正直買う人がいるのか謎だが、いることはいるらしい。


「絶対ここだけおかしいよ」


「そう思うよねえ。私もおかしいと思うんだけど、なんかちょこちょこ売れはするらしいの」


 キリトの隣に立って、玲奈は言った。

 五芒星のマークがついたネックレスに、牡山羊の頭をかたどったネックレスなんてものもある。

 怪しい本は魔術書らしい。

 キリトはやたらとごついネックレスを手に取った。


「ああ、こんなの普通のお店じゃ見ないからねえ」

「確かに」


 そう言って、玲奈は目的のものを探しに行った。

 ほしいものはマグカップにインテリア雑貨。

 マグカップと言うと、ケットシーにふくろうの絵が入ったものがある。

 それに英字が書かれたものや、使いづらそうなハート形のものもある。

 母の日ギフトコーナーにも、可愛らしいマグカップが置かれていた。


 玲奈はケットシーと共にやらたプッシュされているふくろうの絵が描かれたマグカップを手にした。

 丸くデフォルメされたふくろうに、三日月のイラストが描かれている。

 価格は800円(税抜)だ。


「それ買うの?」

 背後からキリトの声が聞こえる。


「うん。これ、かわいいな、と思って」

「ああそれ、笠置さんの趣味ですよ」


 甲斐の声に、玲奈たちは振り返った。

 扉のしまる音が聞こえる。どうやらあの女の子たちは帰ったらしい。


「え、そうなんですか?」

「あの人、ふくろう好きだから」


 事務室の前にかける札にふくろうの絵が描かれていたのを、玲奈は思い出す。

 甲斐はキリトと音羽を交互に見て言った。


「ふたりは杉下さんのお友達?」

「あ、はい。進藤君と、結城さんです」

「ども」

「はーい、結城音羽です」


 ケットシーグッズをいくつか抱えた音羽が手を上げている。

 そんな彼女に、甲斐は小さな買い物かごを差し出す。


「あ、すみません、ありがとうございます」

 そう言って、音羽は差し出されたかごに商品を入れ、かごを受け取った。


「僕は甲斐です」

「知ってます! 学校で噂になってますもん」


 音羽が言うと、甲斐は苦笑する。


「なんかよく言われますけど、僕たち大したものじゃないですよ?」

 言いながら胸の前で手を振る。

 その言葉にいやみな感じはなく、本当にそう思っているようだった。


「甲斐さん、さっきの人たちずいぶんと長く話してたみたいですね」


 カウンターへと戻っていく甲斐に、玲奈はそう声をかける。


「ああ、あの子たちよく来るんですよ。ケットシーグッズの新作が出ると買って行ってくれていて」


 本当にそれだけが目的なのだろうか。

 2日間働いてよくわかったのは、甲斐目当ての客が非常に多いということだ。

 皆ちょっとした買い物はしていってくれるが、長居する傾向にある。甲斐がうまくのせて帰すが、あれでは仕事にならないんじゃないかと思う。

 自分が雇われるまでどうしていたのだろうかと玲奈は思った。





 甲斐の好意で玲奈だけでなく音羽の買い物まで割り引いてもらい、3人は店を後にした。

 やはり笠置は出てこなかった。

 店を出る前からずっと、キリトが不機嫌そうな顔をしている。

 そんな彼に音羽が絡んだ。


「で、進藤はどうするの? ゴールデンウィーク」


 茶化すように音羽が言うと、キリトはそっぽを向いて、


「だって、玲奈はバイトなんでしょ? 俺もバイトはあるけど……」


「えー? 諦めるの?」


 にやにやとして音羽が言う。

 するとキリトは口をとがらせて、


「だってさぁ」

 と言い返す。

 本当に仲がいいなあ、と思いつつ、学校帰りの高校生たちの間を抜けて、玲奈はひとりアパートがある路地へと曲がって行った。

 どこかで聞き覚えのある猫の鳴き声を聞いたようにおもうが、玲奈は気にせず歩みを早めた。

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