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聞きたいことがある

 『いつ暇?』


 玲奈は考えた挙句、キリトに送ったメッセージはそれだけだった。

 キリトからはほどなくメッセージが返ってきた。


『何するの?』


 なんていえばいいかわからず、しばらく考えて思いついたのは夏休みの予定のことだった。

 そのことで話がある。と言えばいいだろうか。

 うん、嘘はついていない。


『夏のこと。直接話したいから』


 そう送ると、「OK」というスタンプが送られてくる。


『今日、午後の授業の後は?』


 キリトと会って、話をして、雑貨店に向かって……ぎりぎり間に合うだろうか。

 キリトのことも何とかしたいが、あの二人のことも正直心配だった。

 スマートフォンを見て悩んでいる玲奈を見かねたのか、音羽が追加で買ってきたポテトを食べながら言った。


「進藤のやつなんだって?」


「うん、今日の午後どうかって」


「午後? 今日の?」


 言いながら、目を輝かせて身を乗り出す。

 他人ごとだと思って、音羽は楽しんでいるようだった。


「どこで話すの?」


「うーん……大学の中庭とか? 授業中なら人影ほぼないし」


「まあ、そこならいつでも逃げられるものね」


「に、逃げるって何?」


 顔を上げ音羽に問うと、長いポテトをこちらに向けて、


「だって、帰りたいと思えば、外ならいつでも帰れるじゃない」


「あー……」


 言われて納得する。

 とりあえず、OKと返事をし、待ち合わせの場所と時間だけ決めた。

 たしか午後の授業はかぶっていたような気がするが、大教室だし顔を合わせるとは限らない。

 玲奈は妙に口の中が乾き、わずかに残っていたジュースを一気に飲んだ。






 暑い。

 夏なんて来なければいいのにと思う。

 大学の中庭にあるベンチに腰かけて、玲奈は空を見た。

 気持ちのいい晴れ、と言うわけではなく雲が多く、時おり太陽は隠れるのだがその威力を弱めるほどではなかった。


 時間は午後の3時になろうとしていた。

 授業を終え、音羽とわかれた玲奈はひとりで中庭にいた。

 あたりには次の授業のために教室を移動する者、帰路につこうと門へと急ぐ者とがいた。

 そんな学生たちをぼんやりと見つめ、玲奈はキリトが来るのを待った。


 それにしても暑い。

 本格的な夏が来る前に、長く伸びた黒髪を切ろうか真剣に考え始める。

 玲奈の髪は今、肩甲骨よりかなり下まで伸びている。

 夏は短い方が楽だ。人生の中で短くした回数は片手で数えるほどしかないけれど。

 そういえば、高2のとき短くしたらキリトに残念がられた気がする。

 黒髪長髪清楚系がいいとか、わけのわからないことを言われた記憶がうっすらある。


「っていうか、清楚系って何?」


 思わず口に出して突っ込む。


「え? 何。清楚?」


 聞きなれた声が、頭上から降ってきた。

 顔をあげると、半袖Tシャツにジーパン姿のキリトが立っていた。背中には教科書の類が入っていると思われるバッグを背負い、手には団扇を持っている。

 相変わらずの童顔だが、違和感がある。眼鏡をかけていない。


「あれ、眼鏡は?」


 言いながら、その問いの答えは一つしかないと気が付く。

 キリトは玲奈の隣に腰かけながら、


「え、コンタクト」


 と答えた。

 それはそうだよね、と思いつつ、


「いったいいつからしてたの?」


 と問う。


「最近。バイト代が入ってから買った。

 一日だけのやつだから、気が向いた日しかしてない」


 そういえば、キリトもバイトをしていた。

 駅前にある家電量販店らしい。週や月の勤務時間の上限が決まっているらしく、あまりシフトは入れないらしいが実家暮らしにはちょうどいいとか言っていた。


 玲奈はスマートフォンで時間を確認する。

 まだ中庭にはそれなりに人影があるが、あと数分もすればまばらになるだろう。

 それまで待とうか、どうしようか。


「あついねー」


 言いながら、キリトはパタパタと持っていた団扇で自分を仰ぐ。


「そうねえ。夏嫌い」


「なんで?」


「だって、暑いのって逃げ場がないじゃない。エアコン代もばかにならないし」


「……実家でなければよかったんじゃない?」


「あーあー聞こえない」


 言いながら玲奈は耳をふさぐ。

 キリトは足を組んで、玲奈のほうに顔を向けた。


「そこまで一人暮らししたかったの?」


「だって」


 貴方から逃げたかったから。

 という言葉が出てきかけ、思わず固まる。

 そうか、逃げたかったのか。

 ベンチの背もたれに背を預け、玲奈は足元を見つめた。


「……? どうしたの」


 不思議そうな彼の声が聞こえる。

 それと共に、授業開始のベルが鳴る。

 顔を上げると、あたりにはもう人影はなかった。

 この暑さである。

 学生たちはわざわざ中庭になんていないで、エアコンがきいた食堂などに行くだろう。


「ねえ、キリト」


 言いながら、玲奈はキリトへと顔を向ける。


「はっきりさせたいことがあるの」


 そう言って、玲奈はまっすぐにキリトを見つめた。

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