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相談

 「だいたいね、今の今まで進藤が何にもしてないことを私は疑問に思うわけ」


 大学近くのファストフード店。

 平日の午前中と言うこともあり、客の姿はまばらだった。

 玲奈と音羽は角の席で向かい合って座っていた。

 テーブルの上にはポテトにジュースの紙コップが二つ置かれている。


「だいたいあんたたちしょっちゅう二人で出かけてフラグたてまくってたのに、なんで玲奈急にへし折りにかかったの?」


「ごめん、もうちょっとわかりやすく話してくれない?」


 フラグを立てた記憶もなければ、それをへし折りにかかった記憶もない。

 玲奈は首をかしげつつ、ジュースのストローに口をつける。

 ふたりでそんなに出かけていただろうか。


 思い返してみると、けっこうな頻度で出かけていたかもしれない。それについてはキリトに言われたような気がする。

 特に深い考えがあったわけではないけれど、誘い誘われ、ただその時を過ごしていただけだと思うけれど。


「別に一緒に出掛けていたのは深い意味はないけど」


 言いながら、玲奈は頬杖をつく。

 音羽は苦笑して、


「玲奈は深い考えなくても、進藤はそわそわだったみたいよー?」


 と冷やかすように言う。


「言われてもないこと知らないわよ」


「そうねえ。態度でわかりそうなものだけど。

 でもあいつ何も言ってないんでしょ」


 直接的なことを言われれば、そもそも逃げるような態度を玲奈はとらなかっただろう。

 いや、もしかしたら避けるような態度をとり続けたのがいけなかったのかもしれない。


 期待させ、態度を変えることで混乱させる。

 振り回したのはどっちだろう。はっきりさせようとしなかったのはどちらだろう。

 すこし責任を感じる。


「まあ、キリトが好きの一言いえばみーんな終わるのよねえ」


「あ、うん、まあ、そうだけど」


 それは玲奈自身も答えを出さなければいけないということなので、心が揺らぐ。


「で、振るの?」


 ポテトを頬張りながらいう音羽。

 玲奈は思わず飲んでいたジュースを吹き出しかける。


「振るっていうかなんていうか……」


「だって、今の今までなーんにも言わないような優柔不断な奴、好きなの?」


 優柔不断はさておいて、キリトのこと自体は恋愛対象としてはひとかけらも見ていない。そうなれば振る、以外の選択肢はなかった。

 とはいえ、いざ自分がそう言うことを口にしなければいけないかと思うと、妙な緊張感に襲われた。


「そうそう、雑貨屋で働き始めたじゃない? 玲奈。

 進藤のやつ気が気じゃないらしいわよ」


「どういう意味」


 音羽は顔の横でピースを作って言った。


「二人の店員さんいるじゃない。どっちも全然タイプ違うけどかっこいいじゃない?

 ふたりのどっちかに惹かれるんじゃないかって。

 年上の男性って魅力的に見えるしねー」


 言いながら、音羽は笑う。

 それにしてもキリトの事情に詳しすぎないだろうか。


「ねえ、音羽。

 それ、全部キリトが言ってたの?」


「え? うん」


 こともなげに音羽は頷く。

 どうして二人は付き合わなかったのか。玲奈的には謎が深まるばかりだった。

 音羽は身を乗り出しながら言った。


「ところでどうなの、あの二人は」


「え? どうって何」


「あの二人と一緒に働いてて、どうとも思わないの」


「どうとも……うーん」


 言いながら、玲奈は紙コップを見つめる。

 どうとも思わないと言えば嘘になるけれど、惹かれるかと言えばどうだろう。


 どうしようもない大人。


 というのが今の感想だし、放っておいたらどうなるかわかったものじゃない。とは思う。


「即答しないってことはそれなりに気になってるんじゃないのー?」


 茶化すように音羽に言われ、玲奈は黙ってジュースを口にした。


「ところであの二人って何歳なの?」

「えーと、甲斐さんが今年で25で、笠置さんが30……だったかな?」


「……30?!」

 

 音羽は目を見開き声を上げた。

 店内にいた客の視線が一瞬、玲奈たちに向けられる。


「ちょっと、大声出しすぎ」


「だって30でしょ? 商店街のポスター見たけど、どう見てももう少し下でしょ?」


 たしかに笠置は年齢がわかり辛い。

 160センチ半ばと思われる身長に華奢な体が一つの理由ではないだろうか。


「見た目でわからないわね……ていうか、あれで30なの。というか、あの二人同い年くらいかと思ってたけど、けっこう年の差あるのね」


「うん。最初聞いたときは驚いたけど。でも、世の中の20代とかってどんなのかわからないし」


「それもそうね。で、進藤はどうするの? 夏がどうのとか言ってたけど」


「べつに一緒に出掛けるのは構わないけど、下心あるなら嫌だなって」


 結局はそこなのだ。

 出かけるのは一向に構わない。友達としてなら。

 恋人としての立場を求められるなら、それは違う。今の自分には無理だ。

 まだ恋人とか考えられない。

 それにキリトは友達としてしか考えられない。


「ならそう言えば? 言わなきゃわかんないんだし」


 かなり適当な感じで音羽が言う。


「どうせあいつ追い込まなくちゃ告白なんてできないわよ。

 今まで何度もチャンスはあったのに、あいつ言わないで来たんだもの」


「私的には音羽が事情通なのがなんていうか、不思議で仕方ないけど」


「まあ、男って女にしか弱味見せらんない生き物だし。

 男友達には言えなかったんでしょ?」


「そ、そうなの?」


「私の少ない経験則では。

 まあ、追い込んじゃえばいいんじゃない? 言わないなら言わせるまでよねー」


 そう言う音羽はなんだか楽しそうだった。


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