夕暮れの町を君と歩く
どうしてこうなった。
玲奈は店のエプロンを身に着けた双子を前に、そんなことを思った。
久しぶりの晴れのせいか、それなりに客の入りがあり、夏向けの商品がどんどん売れていく。
売れれば商品を補充しなくてはならないが、客が途切れず補充もままならなかった。
そんな会話を甲斐とちらっとしたら、
「僕たち手伝う!」
と一葉と二葉が手を上げた。
店の奥からエプロンを出してきて、和気あいあいと身に着けた。
「で、何したらいいの?」
目を輝かせて言う双子に、甲斐が指示をだす。
「これとこれの中身を、そこの髪飾りや扇子が出てるところに並べて」
そう言って小さな段ボール箱を二つ双子に渡した後、店長の様子を見に行くと言って店の奥に姿を消した。
大きな不安を抱きながらレジをこなし、客が途切れた頃。
店内の客も2組ほどとなったので、玲奈は双子の様子を見に行った。
とりあえず、夏物を並べることはできたらしく、双子はドヤ顔で玲奈のほうを向いた。
「ちゃんと並べたよ僕たち」
「僕たちやるときはやるんだよ」
言いながら胸を張る。
「そうそう、来てたお客さんに可愛い可愛い超言われたよ」
「うん。あんな風に言われたのかなり久しぶりだね」
「お客さん、商品みて喜んでたね」
「うん喜んでたね」
そんなことを言い合う双子はなんだか楽しそうだった。
来店されるお客様が笑顔で帰っていく。それは確かにうれしいことだった。
この店は他ではあまり見かけない商品を置いている。
ケットシーグッズがその筆頭だが、あの店長の趣味のコーナーも、商品を購入していくお客様たちは笑顔になって帰っていく。
そのことに、玲奈も喜びを感じるようになっていた。
「いらっしゃいませ」
と声をかけつつ、玲奈は商品を整理していく。
それを見た双子は玲奈の真似をして、他の棚の商品の整理をし始めた。
甲斐が戻ってきたころ、ちょうど客が途切れ、店内には玲奈たちだけになっていた。
時間は2時近く。
客が途切れるのはほんの少しの間だろう。
この間に、商品の補充が必要かどうか、店内をチェックする。
「甲斐さん甲斐さん」
「僕たちちゃんとできましたよ。役にたってます?」
双子がそう言って、甲斐に迫っていく。
甲斐は夏商品のコーナーを見て、笑顔で双子の頭を撫でた。
「きれいに並べられましたね。
助かりました」
双子は笑顔を見せあった後、玲奈に向かって何かすることはないかと問うた。
「うーん、じゃあこの辺のグッズが減ってるから補充しようかしら」
言いながら、玲奈は奥の倉庫へ在庫を取りに行った。
「それそっち置くの? センス悪くない?」
「なんで二葉。僕のセンスがないとかそれはあり得ないよ」
「でもその色の順番変だよ」
「どこが変なの」
双子は、言われた通りの作業をにぎやかにこなしていった。
それを聞きながら、玲奈も仕事をしていく。忙しくしていると、時間の経過を忘れてしまう。
玲奈は自分が何を悩んでいるのかも、仕事中は記憶のかなただった。
「玲奈ちゃん玲奈ちゃん、ほら!」
夕方近くなり客がひいたとき、一葉が薔薇の髪飾りをつけて、自慢げな顔をみせた。
それを見た二葉が僕もつけたいと、つまみ細工を物色し始める。
玲奈はそれを見て笑い、
「可愛いと思うよ」
と言う。
「僕は僕は?」
二葉が、蝶のパッチン留めを前髪につけて見せてくる。
「うん、可愛い」
「どっちが可愛い?」
異口同音に言われ、どうしようかと玲奈は悩む。
それを見かねた甲斐が、
「売り物で遊ばないでください」
と声をかけてくれる。
そうやって時間が過ぎていき、閉店時間が近くなった頃。
店にキリトがやってきた。
彼の姿を見て、一気に現実に引き戻された気がした。
「いらっしゃいませ。杉下さんのお友達でしたよね」
甲斐がそう言うと、キリトは頷いた。
「玲奈、ちょっといいかな」
そう笑顔で言われ、玲奈はちらっと甲斐を振り返った。
甲斐はいつもの笑顔で、こちらは大丈夫ですよと答える。
正直止めてほしかったが、双子もいる以上、人手はある。
諦めて玲奈は、
「すみません、ちょっと出てきます」
と告げて、キリトと共に店を出た。
双子の目が輝いて見えたのはたぶん気のせいではないだろう。
6月も半ばとなり、日が暮れるのはだいぶ遅くなった。
7時近い時間でも、まだ太陽は沈みきっていなかった。
学校や会社帰りの人たちが、足早に商店街を抜けていく。
他の商店も、店じまいを始めていた。
7時を過ぎれば、開いているのは食べ物屋やカラオケと言った店だけになり、一気に人通りは少なくなる。
二人並んで家路を急ぐ人たちのなかを、ゆっくりと歩き始めた。




