報酬はクッキー
笠置の足もとに、小さな鬼が3匹集まっていた。
「はやくくれよ、この間の報酬!」
「クッキーくれ! クッキー!」
体長30センチほどだろうか。小鬼たちはそう言いながら、ソファーに座り、ケーキ屋の紙袋からクッキーを出している笠置の足に上った。
「一昨日の報酬、今日くれるとか遅すぎるぞ、かさぎ」
「そうだそうだ。
ドロボーに噛みついて店のもの守ったんだから、もっと早くくれよ」
「ドロボーからオレたちが守ってやってるんだから、超感謝しろよ!」
足の間に無理やり入り込んでさわぐ小鬼たちに、笠置はクッキーをビニル袋から出して、それぞれに手渡してやる。
小鬼たちはすごい勢いでクッキーを頬張り始めた。
彼らは家鳴り。
いたずら好きの妖怪で、家をゆすって音を立てると昔から言われている。
彼らはここで、万引きがいたら入り口で噛みついたり、転ばせたりして万引きを防ぐ、という仕事をしていた。
報酬はケーキ屋のクッキーやケーキと言った高めのお菓子だった。
「なあ、笠置。この間結衣に褒めてもらったんだぞ!」
一匹が新しいクッキーを受け取りながら、得意げな顔をして言った。
すると別の鬼が、オレもオレも! と手を上げる。
「結衣すごいよな。おかし作れて、ケーキ作れて、オレたちのことだって見えるんだもん!」
「結衣すげー」
「すげー」
口々に言いながら、どんどんクッキーを消費していく。
笠置の姉、結衣は結婚し、7年前から商店街の中ほどに店を構え、夫婦でケーキ屋をやっている。
小鬼たちはここのお菓子が大好きだった。
「スーパーで売ってるやつはやっぱおやつだよな」
「ごほーびはやっぱり結衣のお菓子がいい!」
3匹の小鬼はあっという間に3000円分のクッキーを平らげてしまった。
ぱんぱんになったおなかを抱え、満足そうに笠置の足にもたれかかっている。
「なーかさぎ! 最近お前よくお店出てないか?」
一匹が言うと、他の鬼もそうだそうだと声を上げだす。
「ちょっとまえまではほんとに出てこなかったのに、休みの日とかちょー出てきてる! 女の子たちちょーよろこんでるよな」
「な! でも結局いる時間短いから珍しいレベル高いって、言ってたぞ!」
「笠置みると何か当たるんだろ?」
「当たるって何? カキ?」
「あたるっていったら富くじじゃないのか?」
言いながら小鬼たちは首をかしげる。
クッキーとかレベル、と言う言葉は知っているくせに、少し知識が古い。
笠置はそんな小鬼たちのやり取りを笑ってみていた。
「かいって神社の息子なんだろ?」
「そうそう。でっかい神社だって言ってた」
「ねーかさぎ。かいは神主にならないの?」
小鬼たちの目がいっせいに笠置を見上げる。
そう言われ、笠置は肩をすくめた。
「本人がどう思っているのか、俺は知らない」
「話さないのか?」
言いながら、一匹の小鬼が首をかしげると、他の小鬼も一緒になって首をかしげる。
甲斐がここで店員として働き始めて約三年。バイトとして約三年。計六年がたとうとしている。
甲斐がどうしたいかなんて話をしたことはないし、笠置がどう思っているかを話したことはなかった。
何も言わないでいると、小鬼はさらに首を傾け、
「人間て変。なんで思ってること喋らないんだ?」
と言った。
妖怪たちはストレートに思ったままを口にする。
ゆえに話題がどんどん変わっていき、とりとめがない。
彼らにしてみれば、思っていることを言わない、というのは不思議と言うか理解できないのだろう。
小鬼たちは変だ変だと言い合い、変だと言えば最近雨多すぎて変、と言い出している。
「梅雨だもん梅雨」
「梅雨? マジで梅雨?」
「うん。だから今日も雨!」
「お客さん少なくてオレたち出番少ない!」
そして、頬を膨らませ、笠置を見上げた。
雨で客足が鈍るのは笠置のせいではないが、小鬼は出番が少ないイコールご褒美がもらえなくなるということになってしまうので不満らしい。
笠置が小鬼の頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細めた。




