閉店後の相談
笠置が店頭にでると、甲斐が、ひとりで閉店作業をしていた。
「あれじゃああの男の子、少しかわいそうかな」
などと呟いている。
「甲斐」
「あ、はい。なんです?」
ロールスクリーンを下ろしながら、甲斐は振り返った。
「帰ったの?」
「はい。なんか約束があるみたいで。帰らせました」
甲斐はそう言いながら、ロールスクリーンをすべて下ろし終え、掃除道具をとりに奥へと消える。
レジを操作しながら、笠置は戻ってきた甲斐に尋ねた。
「どうだった」
「ああ、あのイベントですか? 思い出させたいんですか?」
嫌そうな顔をする甲斐に、もう一度同じことを聞く。
すると、甲斐はため息をつき、
「友人からメッセージが来て……みごとに写真が拡散されているようです。
だから嫌だったのに……」
棚にはたきをかけながら、ぶつぶつと文句を言っている。
「スタッフの方におもちゃにされて散々でしたよ」
「何着たの」
「花がテーマでしたから……着物の方とかいて、それは華やかでしたが。僕が何を着たかは聞かないでください。
結衣さんが面白がって写真撮ってましたから、そのうち送られてきますよ」
そういえば、姉、結衣から何通かメールが来ていた気がする。
後で確認することにして、売り上げのデータを確認すると、笠置はほうきを持って通路の掃除を始めた。
「おかげでイベントポスターのモデルをやる羽目になりました。責任取ってくださいよ」
非難の視線を向ける甲斐に、首をかしげる。
「責任?」
「僕に黙って申し込んだでしょう。笠置さんも巻き込みますからね」
そう言って、甲斐ははたきを片づけると商品の整理を始めた。
「そうそう。例の件。杉下さんの歓迎会ですけど、やるでいいんですよね」
先日飲みにつれていかれたとき、相談したいと言われ、聞かされたのがアルバイトの歓迎会の件だった。
笠置としては、10代がこんな20代半ば以上と食事など行くだろうかと思い、返事を保留していた。
「何も言わないなら、日程とか僕のほうで決めますけどいいですか?」
甲斐の口調からして、ノーと言っても実行するだろうと思い、笠置は何も言わず掃除を続けた。
歓迎会と言われても、正直困る。
ここ数年妖怪とばかり話をしているため、人間とはあまり会話をしていない。
彼らは皆、自分勝手でストレートな表現ばかり使う。
そんなのの話ばかり聞いてきたため、いざ人と話すとなるとどう喋ったらいいのかわからなくなっているのが正直なところだった。
そんな笠置の思いを知っての企画か、甲斐の考えはわからなかった。
「杉下さんの都合を聞いて決めますから、いいですね」
反論は許さない。という口調で言われ、笠置はただ頷くしかなかった。




