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勘違いから始まる恋

作者: にくQ

はじめまして、こんにちは。

息抜き程度にチラリと見てくださると嬉しいです。

「お、俺のことが好きなんだろう!?」

「んな訳あるかこの勘違い男め」



 予想外すぎる言葉を聞いて思わず口から飛び出したのは、自分でも驚くほどドスのきいた声だった。





 私こと渡辺真昼ワタナベマヒルは、自他ともに認める平凡な女子高生だ。

 テストの結果はどんなに頑張ったっていつも中間止まりだし、運動は得意でもなければ不得意でもない程度。顔のレベルだって『可もなく不可もなく』なあたりで、何か特別な才能やら特技やらも持っていない。

 まさに平凡。クイーン・オブ・凡人。……自分で言っててちょっと切なくなるけれど、それが私という人間だ。



 だが、そんな『平凡』を体現したかのような私にも、気になっている人がいた。



 彼の名前は成瀬ナルセくん。私の左隣の席に座る、黒髪メガネな好青年くんだ。

 ……とはいえ、彼は別に『イケメン』というわけではない。どちらかというと、(私が言うのもどうかと思うけど)平凡よりの人間だ。

 たとえば外見に関して言えば、恋する乙女フィルターを付けて中の上といったところ。十人に聞いたら十人が『あれはイケメンだ』と頷くクラスメイトのイケメン・田所くんと比べると、正直かなり差があると言っていい。



 だが、あえて私は大声で宣言したい。

 逆にそこがいいのだと。



 ……たとえば、平凡な私がわがクラスのイケメンボーイ・田所くんと付き合い始め、隣に並んで歩くことになったとする。すると、それを見た周囲は確実に騒然とするだろう……あまりにも私が田所くんに分不相応すぎて。

 しかし、その相手が成瀬くんだったらどうだろう。自惚れかもしれないけれど、平凡代表の私と中の上な成瀬くんなら――お似合いとまではいかないけれど――そこまで驚かれたりはしないと思う。

 さらに、成績に関して見ても全教科完璧というわけでもなかったらしいところが(平凡女としては)逆にポイントが高い。これが、『完璧超人』と名高い田所くんにでも恋をしていたら、あまりの点数差に劣等感を抱きまくること必至だっただろうから。

 ちなみに成瀬くん、理数系は得意だけど現国は壊滅的なのだそうだ。

 なぜ現国がダメなのか尋ねてみたところ、



『数学とかは確実に答えがあるからいいんだけど、国語って答えの基準がハッキリしてないものも多いでしょ。だから苦手』



 だそうだ。

 この時の作者の気持ちとか聞かれても、俺は作者じゃないから分からないし……と言って難しそうに眉を寄せたその時の成瀬くんは、普段の真面目そうな雰囲気とは違ってとても可愛らしく感じられた。

 閑話休題。

 ……まぁそれ以外にも色々と理由はあるのだが、そんな調子で私は成瀬くんのことが気になり始めた。

 そして、無意識に成瀬くんのことを目で追っている自分に気づいたあたりで、私はハッキリと自覚したのだ。



 あぁ、私いま成瀬くんに恋してるんだ、って。



 それからは、毎日学校に行くのが楽しかった。

 隣の席という素晴らしい特権によりいくつかのグループ学習で同じ班になって喜んだり、教科書のページを見るフリをして居眠りをしている成瀬くんの横顔をチラ見して心の中で悶えたり、他愛もないことをお喋りして楽しくなったり……今まで何も思わなかった日常の一つ一つが、すべて大切な宝物のように思えた。

 けれど、そんなくすぐったくも甘酸っぱい日々は、驚くほどアッサリと終わりを迎えた。

 つまり――思い切って告白して、その結果玉砕したのだ。



『ごめんね、渡辺さんのことは友達としか見られないからムリ』



 よほどショックだったのか、その後どんな会話をして、どんな風に家に帰ったのか覚えていない。かろうじて覚えているのは、やけにアッサリとした成瀬くんの言葉と、足元から何かが音を立てて崩れていく感覚のみ。

 そしてその日の夜、誰にも聞こえないように布団の中に頭を突っ込んだ私は、歯を食いしばって泣いた。淡い期待を抱いていた自分が恥ずかしくて、なんだかとっても情けなくて、とにかく気が済むまで泣いた。

 ……そして、それから一週間後の今日。机の中に『放課後に屋上へ来い』と書かれた手紙が入っているのを発見した私は、果たし状だろうがお礼参りだろうがなんでもいいや、という投げやりな気持ちで屋上へ行き――。



「な……っ、か、かんちがい男って、」


「もちろん貴方のことですよ田所くん、他に誰が屋上にいるっていうんですか」



 私は、真っ赤になって固まる我がクラス1のイケメン・田所くんを見ながら思わず首を傾げた。

 ちなみに、私が今手に持っているのは近所で美味しいと評判のこしあんパンだ。屋上へやってきた田所くんが、『これで元気を出せ』とか言いながら押し付けてきたのでありがたく頂戴したのである。

 けれど、私と田所くんには『クラスメイト』意外の接点なんて何一つない。そもそも私はあまり男子と話す方ではないし、田所くんも驚くほど女子との接点を持ちたがらないのだ。それこそ、『田所はソッチ系』なんて噂がまことしやかに流れるほどに。

 そんな田所くんが、どうしていちクラスメイトである私に――と聞いたら、返ってきたのが冒頭の『俺が好きなんだろう』発言だったというわけだ。



「……っていうか、なんでそんな勘違いをしちゃったんですか?」



 気まずい沈黙が降りる中、先に口を開いたのは私の方だった。

 その言葉を聞いた田所くんは、真っ赤に頬を染めながら気恥ずかしそうに口を開く。



「いっ、いつも俺のこと見てただろうが!授業中とか、そういう時!」


「へ?」


「違うとか言うなよ!?最初は気のせいかと思ったけど、俺は確かに何回も視線が合ったんだからな!」



 そう言われて、少し考えた私は――あぁ、なるほどと一つ頷いた。



「確かに私は、何回も田所くんの方を『向いて』いましたね」


「そっ、そうだろう!?」


「でも、私が『見て』いた相手は田所くんじゃありません。その一つ手前の成瀬くんです」


「……はぁ!?」



 私の発言を聞いて、田所くんは驚いたように目を見開いた。

 ――そう、確かに私は田所くんの方を『向いて』はいた。けれど、見ていたのはあくまで左隣の成瀬くんだけだ。もう一つ向こう側の席に座っている人……つまり田所くんを見つめていたわけでは決してない。

 ……っていうかこの人、まさかとは思うけど私の視線に気づいた上で盛大な勘違いをしてたの!?なにそれ恥ずかしいッ!もし私がやってたら羞恥心で死ねるレベルだよそれ!!

 しかもこの流れで行くと、この呼び出しって



「うわ、マジかよ……自意識過剰な勘違いして好きになった上に、ソイツが見てたのは別の男とか……俺どんだけカッコ悪ぃんだよ」


「…………」



 やっぱり、告白でしたか。

 たそがれる背中にどう声を掛けていいか分からず、私はその場に立ち尽くした。

 ――つまり、整理するとこういうことなのだろう。

 彼は熱っぽく見つめてくる私の視線に気付いてこちらが気になり始め、きっと両思いだと告白に踏み切った。

 しかしいざ告白?をしてみれば、私が見つめていた相手は隣の隣の席に座る田所くんではなく、一つ隣の成瀬くんだった事が判明した、と。

 ……辛すぎるだろう、これ。改めて考えると私なんかよりもよっぽど恥ずかしいよ。

 これはもうフォロー不可だな、と他人事のように考えて現実逃避していると、どうにか立ち直ったらしい田所くんが顔を上げた。



「えと、その……とりあえず、渡辺さんが好きなのは成瀬、ってことで合ってるのか?」


「え、うん。まぁ一週間前にフラれたけど」


「えっ、フラれたのか!?」



 私の言葉を聞いて、田所くんの瞳がギラリと輝いた。

 反対に私は、目を少し細めると食い気味に彼の言葉を返す。



「じゃ、じゃあ、もし良ければ俺と「このタイミングで『付き合え』って言ったら怒るよ、私」」



 私はそう言うと、田所くんを見つめる目にグッと力を込めた。

 ……確かに一週間前、私は成瀬くんにフラれた。それはもう、完膚なきまでに。

 でも、だからといってアッサリと成瀬くんを諦められるかというと、そんな事はない。有体ありていに言えば、まだ成瀬くんに未練があるのだ。情けないとは思うけど、好きって気持ちはそんなに簡単に消えてくれなかったんだから仕方ない。

 そして、成瀬くんへの恋をまだ捨てきれていない私が、果たして田所くんと付き合えるか?

 答えは残念ながらNOである。

 っていうか、いくら田所くんが浮いた噂の流れない人で『ソッチ系』とか言われていようとも、彼のことを好きな人はきっとたくさんいると思うんだ。それなのに、成瀬くんを好きなままの私が田所くんと付き合うとか失礼すぎるだろう。……まぁ、真剣に田所くんの事を好きな人の女の争い(キャットファイト)に巻き込まれたくないって理由もあるけどね。平凡女には平凡な恋で十分なのですよ。

 私がそんな事を考えていると、「じゃ、じゃあ!」と言いながら田所くんがこちらに手を差し出してきた。



「せめて、俺と友達になってくれ!そ、その……こんな後だからちょっと嫌かもしれねぇけど」



 そう言いながら、深々とこちらへ頭を下げる田所くん。差しのべられた手は、心なしか少し震えている。

 少しのあいだ、その手をじっと見た私は――



「はい、よろしくお願いします」



 そう言って、その手を取った。



「……え?」


「いや、なに意外そうな顔してるんですか。付き合うってのは無理でも、別に友達になるのは問題ないでしょう?」



 ね?という意味を込めて握手したままの手を一瞬だけ強く握り返すと――呆然といった表情をしていた彼は、背後に花でも咲きそうなほど眩しい笑顔をこちらへ向けた。

 そしてそのまま、私の腕を引いて抱きしめてきて……ってオイコラ、いったい何をするんだ!



「ちょ、ちょっと田所くん!?友達になるとは言ったけど抱き着いていいとは言ってないよ!?」


「い、いや、ちょっと嬉しすぎてつい……」


「嬉しいのは分かるけど抱き着かないで、平凡な私にはイケメン耐性なんて無いんだからね!怒るよ!?」


「こんな恥ずかしい勘違いで好きになって、しかもありえない告白までしちゃったんだぞ!?もう何も怖くない!」


「……それもそうか」



 思わず納得しかけて、いやそれとこれとは別だろうと抗議の声を上げようとした瞬間、私の視界に田所くんの顔が映りこんだ。

 そして、その強い瞳に、思わず私は声を飲み込んでしまう。



「……渡辺さん、覚えとけよ?

勘違いから始まった恋だけど、俺は絶対に諦めるつもりねぇからな!」



 そう言って、すこし恥ずかしそうにはにかむ田所くん。

 それを見た私は、一つ頷いてからニッコリと笑って口を開いた。



「……なるほど、玉砕直後の傷ついた心(ブロークンハート)につけ込む作戦ですねわかります」


「おう……って、えぇ!?な、なんでそんな捻くれた考え方になるんだ!?」


「いやー、こんな平凡女に『王子(笑)』が執着する理由といえば『惚れさせておいてヤる』作戦にしか聞こえないわけで」


「偏見がひどすぎる!?そんな事考えてないって!っていうか、その『王子(笑)』ってなに!?」


「あれ、知らないの?田所くんのあだ名の一つだよ」


「俺に、そんな恥ずかしいあだ名が付いていたなんて……!」


「まぁ嘘だけど」「嘘なのかよ!」



 思わずといった様子でツッコミを入れる田所くんを見て、私は耐え切れずに噴き出してしまった。

 そしてそのまま、なにが面白いのか二人そろって笑い転げてしまう。

 さっきまでの私なら、田所くんとこんな風に笑いあえるなんて信じられなかっただろう。



 ――そして、今さらながらにふと気づく。



 私は今まで、『イケメン』やら『完璧』やらを言い訳にして『田所くん』自身をちゃんと見ていなかったことに。

 田所くんだって、恥ずかしい勘違いをしたり、恋をしたりする――同じ人間なんだって事に気が付かないフリして、『自分とは住む世界の違う人』なんて勝手に壁を作っていたことに。

 そしてその壁に気づいた今――今まで以上に身近に田所くんの事を考えられるようになっていることに。



(うーん……これはもしかしたら、意外とすんなり成瀬くんのこと諦められるかもしれないなぁ)



 そんな予感じみたものをボンヤリと感じつつ、私は笑いすぎて目の端に浮かんだ涙を袖の端で拭う。

 屋上を照らす夕日が、いつもより鮮やかに見えた気がした。

この作品を読んでくださり、ありがとうございました。

そして、この話の原案を考えてくれた友達・Tちゃんに感謝を。


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