折り紙系魔法
「…で、なんだ?その折り紙みたいなやたらすげードラゴンは。紙1枚で作ってんのか?」
【やたらとは失礼な。俺は1枚製だ】
「私の相棒だよ」
私とライは再会を果たし、前にも何回か聞いたことがある疑問をぶつけられた。
初対面の人には必ず聞かれるのだが、耳にタコならぬ口にタコができそうなほど、同じ答えを繰り返しているのでなかなか面倒だ。今度からディバルフにプラカードでも提げておこうか。
「本当はこんな自我を持つ折り紙なんて作れないんだけどね。簡単に言えばー……まぁ、折り紙に魂が憑りついちゃった!みたいな?」
「え?じゃあ、こいつの魂が宿ってた体が別に存在すんのか?」
【らしいな。覚えてないが】
自分のことなのに、案外適当なディバルフ。元の体に会ってみたい、っていう願望はあんまりないのか。
「と言うか、まぁ疑問とかお互いぶつけ合うのは後にして、ある場所に案内して欲しいんだ。いい?ちょっとやりたい事があるの」
「ん、別にいいが……ある場所って?」
「うっふふー、どっこだろーねー」
【うわ何かそれむかつく】
「ひどっ!?」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「あ!紙ヒコーキだよ!」
新鮮な空気を入れる為に開けていた窓の外から、そんな嬉しそうな子供の声が聞こえてくる。
宿屋の食事メニューに取り入れる魚を市場で選んでいたシオンは、その声に釣られて空を見た。
「懐かしいなぁ、紙ヒコーキ」
そこには、確かに白紙で折ったような、紙ヒコーキが空を飛んでいた。
スカイラインの特徴的な縦長の建物間を鳥の如く器用に抜けながら、空を滑っている。
シオンも5、6歳の子供の頃は紙ヒコーキを飛ばして遊んでいたが、もうすぐ20になる人間はさすがに遊べない。
重力に逆らうこともなく、風に流されるままにも関わらず、のびのびと飛ぶ紙ヒコーキを久しぶりに見たシオンは、しばらくそれを眺めていた。
すると。
「『空に浮きしは魔法の紙』」
突然遠くから聞こえた、少女のその声は、しかしシオンの近くで言ったかのようにはっきりと聞こえた。
それと同時に紙ヒコーキに変化が起こる。パチンという指を鳴らしたかのような音と共に煙が一瞬紙ヒコーキを包んだのだ。しかし、次の瞬間には紙ヒコーキは、折り紙の鳥になっていた。
「……え?」
「見て見て!あれ、さっきまで紙ヒコーキだったのに鳥さんになっちゃったよ!!」
鳥と言っても、これまた小さい頃に折ったような鳥型の紙ヒコーキだ。変化後も変わらず滑り続ける。
「『舞い上がれ、何処までも』」
再び出る煙。パチンと鳥は沢山の蝶に変わった。無数の蝶が自ら羽を動かし、縦横無尽にバタバタと飛んだ。
それはまるで本物の蝶のように見えたが、本物よりも『生』を感じさせない動きが、紙であるということを示していた。
「すごい……あれは魔法?」
紙がひとりでに動くという、非現実を現実にする方法は魔法しかない。が、シオンは紙の魔法など聞いたことがないのに加え、そもそも近くに魔法を使える存在など中々いなかったので、まだ疑問府を浮かべていた。
「『強く、雄々しく、空に輝け』」
その言葉と共に今度はポンッという音が響き、突然消えた。まるで元から存在していなかったかのように。
シオンは、売り場のおじさんが声を掛けてきているのも忘れて、その蝶達が消えた辺りをただじーっと見ていた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
まず、紙ヒコーキを右手に持つ。
次に体を捻りながら膝を曲げる。
そして捻りを元に戻し、膝を伸ばしながら紙ヒコーキを上へと投げる。ここで注意しなければいけないのは、力強く投げてはいけないこと。スッと押し出すように、なめらかに。紙ヒコーキは自ら飛ぶものであり、人間が力に任せて飛ばすものではないのだ。人間がすべきなのは、それの補助のみ。
そうして押し出された紙ヒコーキは2、3m上でぐるっと縦に回転し、飛んでいく。
それを目で追い、魔法の掛けどきを待っていたとき、ライが声をかけてきた。
「しっかし、よく飛ぶなぁ。建物にも当たってねぇし。トリックは?」
「面倒なのでディバルフさん、お願いします」
【丸投げかよ、まぁいいけど。ライ、魔法は知ってるよな?】
「ああ。“魔法、それは生ける者が創造せし力。無を有にし、万物の理をねじ曲げる禁断の力なり。魔を理解し法も理解する者、魔法を知る”だろ?ラミアは魔法を使えるのか?」
さすがは王子だ。魔法を習得するための条件をちゃんと覚えてるらしい。
【あぁ、そうだ。魔法を行使する者は少ない。さっきの条件を知る者も少ないし、知った上で魔と法を理解しなければならないからだ。そして魔法には系統があってだな。攻撃系や補助系、回復系、家庭系、商業系や、その他だ。あ、その他にも色々分かれてるが、最近のやつでトレジャー系みたいなのがある】
「そしてさっきは、補助系第1級魔法『微風』でルートを調整。それからその他、具体的に言うと折り紙系第2級魔法『紙変化』で、紙を変化させた。ただし、紙の大きさは変えれないんだけどね」
意外とこの制限はきつい。その魔法を使用するときは頭の中で、作り替えるものの折り図、構成を想像しなくてはいけないので中々難しいのだ。最後の蝶の群れは、最初の紙を切り分けて作ったのを想像した。
っとと、投げた紙ヒコーキが広い所に出たようだ。
「『空に浮きしは魔法の紙。舞い上がれ、何処までも。強く、雄々しく、空に輝け』」
ちなみに魔法の発動キーである言葉は人によって違う。同じ火の玉を出すだけの魔法でも、グラウンドライン王国一の魔法使いは『焔よ、我が元に集え』だが、ナンバー2は『ファイヤー・ボール』だったような気がする。取り合えず全然違うのだ。
「んー…しっかし、折り紙系なんて聞いたことねぇな。王宮の奴らの魔法はすべて本で纏めてあったから、全部に目通してんだが」
「当ったり前だよ。折り紙系使えんの世界で私ただ1人だけだからね」
「うぉ!マジか!かっけぇなー。俺なんか調査ん時、魔法の適性ありませんつって即効断言されたぞ」
大マジである。習得した魔法は1年ごとに世界魔法協会に報告しなければいけないのだが、ちょっと聞いてみたら『こんな変な・・・ではなくて変わった魔法聞くの初めてですよ』と言われた。
そのときは取り合えずその変だと言った奴の目の前で拳を寸止めしてやった。怒られたが、全く持って反省はしていないし、するつもりもない。
………と言うか、さりげなーく王宮という言葉にびびる。
「さてさて!もう1発いきますかね!」
その日突然現れた紙ヒコーキは何度か確認された。それを見た人々はあまりの唐突さに戸惑い、同時に見惚れたという。
現れたと思ったらすぐに消えて無くなってしまう紙ヒコーキに人々は何かを感じたのだろうか。