魔物との接し方
夜、眩い光が地に沈み、人の地は眠りにつく。魔物は自らの生の為、外を彷徨く人々を喰らう。
「っと危なっ!」
外を彷徨く人々も喰われろと言われてはいそうですか、という訳ではない。お互いが生を賭けた戦いが繰り広げられる。
「ディバルフ、情報」
【敵名称『ナイトウルフ』、危険度は低。高さ50cmの狼、特徴は結構充実したモフモフの毛。群れて行動するのが好きだが連携はいまいち。】
「んー、パッと見6体かな。感謝すんでよ、っ!」
そう言いながら、襲いかかってきたナイトウルフの1匹に水平切りをプレゼント。その1発で狼は後ろに倒れて動かなくなる。
1匹、と心の中で数え、右の手のひらを次の狼に向け、左の手は右手を支える形をとる。
「『風の刃』!」
言葉を使い、通常ではありえないことを引き起こす『魔法』。その内容は物凄くどうでもいいものだったり、人が喉だけでなく全身から手を出しそうな勢いで欲しがるものだったり、色々ある。
まぁ、そんなことはどうでもいい。私の言葉と共に風の力が手に集まり、放たれた。
(2匹目。・・・と3匹目もかな?)
風は簡単に2匹の狼の首を切った。赤黒い血が大量に吹き出るその光景は何度見ても慣れるものではない。というより、慣れてはいけないと本能が告げている。
だが吐き気を催す間は与えられない。3体の狼だったものが残る前方、そして右と左から狼達が迫ってくる。最初の狼より速度があるのは、ただ単に強いからか、仲間の死を怒っているからか。
「そぉいやぁー!」
嫌な方向に陥りかけた思考は掛け声で振り払う。と同時に正面の狼のジャンプ攻撃を少ししゃがんで避けて、上を通過するその狼の首を掴み、左右に振り回した。
そして力なく横になる3匹の首に剣を刺していく。と、
【っ、ラミア!後ろ!】
「了解!」
何が、とは聞き返さない。私は後ろを振り向きざま、剣をないだ。肉と骨を切る嫌な感触、そして2つに両断された狼。
「6匹目、討伐」
【と言うか、すんでよってなんだ?】
「しますよーってこと」
剣の血を拭い、鞘に納めながら、リュックから自分で出てきたディバルフに答える。なぜか私は時々変な言葉で喋っているらしく、たまにディバルフに突っ込まれる。まあ、そのディバルフも私の影響で変な言葉を使っているのだが。
私は狼を背負った。6匹全てを。結構楽である。私の日々の訓練の成果がここにあるのだ!
「よっこいせっと。この量だったら朝食もいけるかな」
そもそも私とディバルフは食料を求めてこの森に入った。しかし私は『自分を殺しに来た場合以外、敵は殺さない』という、プライドというか信念を持っているので、襲ってきた狼を有り難く戴くことにする。
魔物だって、れっきとした生き物だ。唯一動物との違いは、怨み・哀しみなどの『負』を身に宿しているかどうか。魔物は元々、動物が大量の『負』を受けることから生まれたものだった。魔物は動物とは比べ物にならない位強いので、見かけたら取り合えず殺そう、という考えの人も少なくない。
だが私はその意見は嫌いだ。共存が難しいからといって切り捨てるその考えが。人という生き物がどれだけ自分第一なのか………
「これはこれは、また大量で」
サムさんの声で我に帰る。いつの間にか、ここまで戻ってきていたらしい。
ここはグラウンドラインより少し北の、別になんでもない草原だ。サムさんが火を焚いて晩ご飯の用意をしている。
「して、ディバルフさん。ナイトウルフの調理法は?」
【そうだな、やっぱ焼くのが一番だな。あとは……それをご飯に載せて丼にするのもいいな】
魔物に関して詳しいディバルフは、どこで知ったか魔物の調理法までよくよく知っている。本人曰く、『少しでも役に立たんとな』らしい。まぁ、普通の戦闘でも、十分過ぎるくらいには働いてもらっているのだが。
と言うか思いきり美味しそうだ。
「成る程成る程、では早速食べますか」
「はい!」
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「うまっ!?」
「確かに美味しいですね」
【あぁ、良いなぁ。…どうせ俺は紙ですよ。ご飯なんか食べなくても生きていけますよーだ】
香ばしく肉の焼けた匂いと、脂の乗った輝く茶色が眩しい。口に入れた瞬間、とろけて消えていく肉。舌に残るのは、飲み込むのも嫌になる旨み。
自然と腕が動き、せわしなく器と口の間を往復する。何がどーのなどの評論などどうでも良くなるくらい、美味しいご飯だった。命が宿っていたモノが喉を通るのを感じ、私は心の中で感謝の言葉を呟いた。
……暫く放置していた拗ねている人(?)に、本格的に拗ねられて困ったのは、また別の話だ。